二十一生目 虚偽
ホルヴィロスの伯母であるケルベロス……キルルが来た。
尾の2つの蛇頭はくねねとにょろろと言うらしい。
ホルヴィロスが帰ってくるまで自宅に招いたのだが。
「はい、キルルさんたちがこのものが口に合うかはわかりませんが、どうぞ」
「へびどもは口に入るものなら何でもいただきますぞ!」
「口に入らなければ顎を外せばよいのです!」
「おお! さすがくねね、その手がありましたね! われらに手はありませんが!」
「色々申し訳ないね……無視してやってくれ」
道化じみた大げさな口調でにょろろとくねねはずっと話している。
身体をメインで持っているはずのキルルですらコントロールは効いていない。
ちょっと見ている分にはおもしろいが。
単なるお茶と茶菓子にやたらテンションがあがり今もアレコレと話し続けている。
対してキルルはとても静かに器に注いだお茶を舐め掬っていた。
すごく……話を切り出しにくい。
どう言おうか……私がホルヴィロスの伴侶ではないと……!
「――へびどもは――で――だから」
「――ということは――それで――」
「ふう。茶の振る舞い感謝する。聞いたことはあったが、初めての経験だから少し緊張してしまった。改めて、その傷を負わせたことを詫びる。申し訳ない。後で何か埋め合わせをしよう」
「い、いえ。もう済んだことなので……」
あのベラベラ話していたくねねとにょろろはキルルが話しだしたらいきなり静かになった!
なんというか……変わった関係だ……
「そういえば自己紹介そのものはまだだったな。私はケルベロスのキルル、地獄から来た、うん……そう、ホルヴィロスの……伯母だ」
「われらへびどものうちひとりがくねね、ここに!」
「そしてわれらのうちひとりがにょろろ、困りごとがあるのならこのへびめにドーンと、ドーンと泥舟に乗ったつもりでご相談を! ……うん?」
「にょろろ、それをいうなら大船に乗ったつもりですぞ!」
「「わはははは!」」
キルルは結構げんなりした顔をしている……
まあ近くで常にこのテンションで話されたらこうもなる気がする。
ただちょうど場がいい感じになっている。
「私はニーダレスでローズオーラ、ローズと呼んでください。その……ホルヴィロスから何と聞いているかはわかりませんが、私、ホルヴィロスさんの伴侶では……ないんですが……」
「……え?」「「なんと!?」」
うわ……一気に場の空気が異様に冷えた!
え……ええと……
……あ! 足音!
「ただいまー! ローズオーラ! 話はうまく……うわああああああぁ!?!?」
ものすごく良い? タイミングでホルヴィロスが帰宅してきて……
転げるように外へ駆け……
私の目の前からキルルの姿が影を残して消える。
次の瞬間にはホルヴィロスが空を舞い……私の近くで着地。
入り口からはキルルが歩いて入ってきた。
……一瞬で多くのことを起こしすぎだ!
「事前連絡もなしで邪魔をする。さて、教えてもらおうか。ローズオーラはお前の伴侶ではないそうだが?」
「そっ、そこまで!? あががが……」
ホルヴィロスは完全に嘘がバレたときのうろたえかたをしている。
視線が凄まじく惑い震え……
そして私にもキルルからの熱が向けられている。
……殺意!?
こう冷え抜くような冷たさじゃなく怒り燃えるような殺意がキルルから……!?
「お、おおおおちくのですよキルル様!」
「そうですよ、先程の見極めをお忘れになってはいけませんよキルル様!」
「さあ……詳しい話を……聞かせてもらおうか……」
ひぇぇ……
「はぁ……なんというか……呆れた、まさかローズオーラを守るためにそんな嘘をついていただなんて」
「伯母様本当にごめん!!」
最終的にホルヴィロスが完全に屈した姿を晒しながら謝っていた。
そのころには私に向けられていた熱も消え落ち着いていてよかった。
正直気だけで魂抜けそうになっていたので……助かった……
その間ヘビたちもアタフタするだけだったので余計に……
「はぁ……なんというか……ローズオーラ、お前には何重にも迷惑をかけていたみたいだな……ホルヴィロス、罰としてお前は私が壊した建物をあとで直すように。お前の母にはこちらから説明しておく」
「そ、それじゃあローズの命は!?」
「お前が選んだ相手に違いはない、殺すわけがなかろう……」
「よ、よかったぁ〜!」
「ほっ、へびめらもどうなることかと焦りました」
「血なまぐさいやり取りは勘弁ですぞ!」
なんか命が助かった……のか?
今日だけでどれだけ即死の危険をはらまなくちゃならないんだ。
ほんと恐ろしい……
そして今さらっと仕事押し付けたね。




