十七生目 岩削
私の胸の石を磨くために鍛冶師カンタの元にやってきた。
彼は魔物狂いだがそれがほぼ仕事と直結しており腕前だけはとても信用できるからね……
「そうそう、これは打ってくれたみんなに言っているんですが……勇者の剣と私の剣ゼロエネミーを打ち直してくれてありがとうございました」
「いやーお世話様です。あれは我々としてもいい仕事をしたと自負していますとも」
竜人の鍛冶師カジートやサイクロプスリーダーにもおれいを言ってある。
どちらも完璧な仕事してくれた。
もちろんナブシウとグルシムも。
カンタに言うのが遅れたのはまあ……うん……
「さて、行きますよ」
「う、うん」
カンタは薄い手袋をして……
手付きが変わる。
さっきまで私をワシャワシャやってやろうとしていたような手付きだったが仕事の手付きに変化した。
私の胸の宝石を両手で持つ。
撫で回すとか触ってくるとかではない。
限界までその性質を見抜こうとするしっかりとした手の力。
「これは……なるほど……ふむ……」
おそらくはスキルも使い細かな石の違いも見抜いている。
なんだかまじまじと見つめられている感じで落ち着かない。
たっぷりと時間をかけて私を観察され……
「よし……コレならなんとかいけそうですね。材料はアレを使っちゃいましょう!」
「アレ……とは?」
「ええと……ローズさんが昔持ってきた、大きなテテフフライトです」
カンタは私の胸宝石から手を離しひと息つく。
テテフフライトか……
昔貰ったのは良いけれどあまりに大きすぎて持て余しずっと保管してある宝石。
気軽に売れるような値段がつく品ではないしどうしようかな……とインテリアじみていたが……
「ああ、あれかあ! でも使うとは言っても、磨くのにいるの……?」
「正確には研磨とロックカットをするのにいります。この『素材』をもっとも良い状態にするのに、そこまでやるのが必要だと判断しました」
「ロックカット……痛くないよね……?」
思わず身じろきする。
言葉からして痛そうという気持ちと……
よく考えたら爪と同じだから切り整えるのは普通なのではという気持ち。
切り離すのとはだいぶ違うはずなんだけれどまだこういう感覚になれていない……
「さすがにどこまでがどうとは言い切れませんが、そこは仕事上の感覚でやりますとも」
「そ、そう……」
不安は残るが……任せるしかないか。
準備自体はすぐに終わった。
私がテテフフライトを持ってくる間に向こうが普段の仕事道具を整えていた。
「おおー、本当に大きい!」
「私も久々に見たけれど、こんなに大きかったっけって思ったよ……」
テテフフライトはニンゲンが両腕で抱えてなんとか持てるサイズだ。
市場に出回るのは指輪につける小さな欠片みたいなものがほとんど。
魔法的な価値もあるためクズ石すらも取引は活発ときいている。
それだけ高価な物の塊……
未加工なため色々ひっついたままだが十分美しくそして凄まじい力と価値を秘めていた。
こういうのを崩すのがもったいないと思ってしまうのは小市民感覚のサガか。
「これだけあるなら、本体に手をつけなくても岩盤にひっついている部分でも十分使えそうですね。欠片石も多いみたいですし」
「そ、そうなんだ」
「欠片って言うには失礼なくらい大きいですけれどね」
カンタは本体には手袋をはめた手を置くのみで埋まっている岩のほうをゴリゴリ削り出した。
そして単なる岩と宝石を魔法かなにかで高速分別し……
テテフフライトの石たちを使う。
かなり細かいものからてのひらに乗せてしっかり感じられるものまで様々。
まずは小石サイズのテテフフライトを小型のナイフみたいな剣にはめ込む。
そしてナイフの刀身に光が走る。
テテフフライトと同じ色……
蝶が舞う羽のようにきらめいている。
「では、やって行きますよ」
「し、慎重にね……」
私とカンタの力量差では正直私の身自体は削れないだろう。
逆に『素材』となりうる過剰な部位は受け入れさえすればカンタの鍛冶能力でやれる……はず。
刃がそっと近づくのが緊張する……
私の胸を手で固定され。
そっと刃が撫でる。
うう……ぞわぞわするが我慢だ!
「うん……見えた!」
順に刃が入っていく。
ひとふりふたふり刃が刻まれるたびに……
なんでか知らないが生理的な快感すらある。
これはあれだ。
プロに髪の毛を手入れしてもらっているときの。
前世の知識を引っ張り出すならその例えが1番近い。
生命にもっとも近いところを丁寧に刻まれているのに……
それが頭なのか胸なのかぐらいの違いしかないということか……!
本当に……腕は良いんだよなあ。




