十五生目 交換
「ここでこのカード効果を発動させるよ!」
「ああ! 2連コンボずっるい!」
「えっへへ、これでカードひとついただき!」
こんにちは私です。
グレンくんとドラーグ(1%分の姿)がやっているもの。
それはカードゲームだ。
このカードゲームはニンゲン界のおもちゃで一部富裕層では結構人気のしろもの。
アノニマルースにも降りてきてこうしてやれるわけだ。
ドラーグ1%は本来巨大な身体を分裂し小さく浮かんでるちび竜にした姿。
黒いドラゴンでも小さくなればとてもキュートだ。
「強いなあ……」
「さっきは僕もコテンパンにされましたよ」
「ふふふ、俺は結構こういうの好きだからね!」
自分のデッキを整えているのはバローくん。
グレンくんとの遊び相手にと子ども組が付き合うかたちになっていた。
なにせ……グレンくんは初めてのはずなのに身体が勝負カンを理解していたせいでほぼ勝ち続けていた。
「あ〜! うあ〜!!」
「この技でアタック! 勝った!!」
「負けたー!!」
どうやらドラーグが負けたらしい。
私は……交換専門だよ!
けっしてプレイが苦手とかそういうことではなく……
カードには魔物やニンゲンの絵柄それに地形やら道具絵もあり豊富だ。
これらが高い理由もわかる……
この時代にこのような印刷……豊富な絵柄に色彩豊かな絵柄……
本当はもっとこういうのをたくさん作れるようになると良いんだろうけれど。
それをやるにはまだまだ色々とたりない。
今あそこで楽しそうに遊んでいるグレンくんは……異世界転生者であり勇者。
グレンくんは勇者として戦い……
そして勝利をおさめた。
魔王に勝ったんだしひととおりの祝賀をこなしたら解放……かと思いきや。
今度は逆に新たなる冒険や各地での人助けをしなくてはならない状況なのだとか。
事実上英傑だから休ませてくれないらしい。
それでも今日は少しだけだがおやすみなのだ。
[フッフッフッ。四天王を倒すとは見事なり、勇者どの]
「な、その声は……魔王!」
そして……
腕や脚部がなく身体が球体で手袋みたいな手や靴みたいな足が宙に浮いて存在し深く大きな帽子をかぶった中から光る瞳を覗かせる。
そんな小さな者は……魔王。
今はフォウと名乗っているが魔王。
そして魔物という概念の創造主でもある。
しかも今はまるで力がない。
魔王自身は復活したもののその力は大昔に分割され失われたまま。
それよりも魔王の乗り物がとても強かったのだが……
今は修復中だしあんな目立つの簡単に出し入れできないため本当に魔王は今何もできない。
「四天王って戦闘したのふたりじゃあ?」
「思いっきり少ないですね、というより四天王ではないですし……」
[四天王はふたりでも四天王。というわけで、勝負だ勇者]
「すっごいグダグダだ! やるけど!」
どうやら魔王もデッキを持ってきたらしくバーンと強くカードの束をグレンくんに差し出してきた。
すっごい平和な勇者と魔王の戦いが始まろうとしている……
ちなみに魔王は口がなく発音できないかわりに私達の思考内に存在するログという部分に直接文字を打ち込んでくる。
ログというのは本来経験がどうあったかだのスキルがどうだのと書かれている。
そこに直接書き込めるのは造り手らしい魔王ならでは。
利用したテキスト会話ならキュウビ博士の発明でできるものの何となく表層にのっかるのと深層から表層に浮かび上がらせるのと違いがある気がする……
「[よろしくおねがいします]!」
ふたりは手早くデッキを準備して戦いを始める。
世界の命運を決める一戦……
にはならないがきっと熱い戦いになるだろう。
こういう時はなんだか……いいな。
ところで私がここカード勝負所にいる理由だが……
本格的にアノニマルースがイベントとキャンペーンをするからだ。
月に1度の平日休暇などもあるアノニマルース内での大きめなイベント。
そして毎週どこかしらでキャンペーンをしてもっと盛り上げつつみんなのガス抜きしようという魂胆だ。
アノニマルースは観光の面も大きいからね。
今日はトレーディングカードゲームキャンペーンということで私が様子みつつ管理しているのだ。
まだあまり広まってはいないが……
もっと量産をはかれたら仕入れ値が安定するんだけれど。
[これで、どうだ]
「……あれ?」
[ここを、こう]
「……うん?」
[これの効果なんだろう]
「あの……もしかして無改造のデフォルトデッキ……?」
新しいパックとかももっと仕入れて……
多くの者に様々な遊びを手に取れる状況にしたいなあ。
そのためには今の環境を壊さないのを大前提にしないとね。
「……はい」
[あああああぁ!]




