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百六生目 泥酔

 おはよーございます?

 あれ?

 おかしいでしょ。


 昨日のいい感じな空を見ていた頃から記憶がない。

 ここは……九尾邸か。

 もちろん知っている天井だ。


 さっぱり意味がわからないが身体を起こして居間へと向かう。

 そこにはちょうどみんな集まっていた。

 私にみんなの視線が突き刺さる。

 えっ何?


「いやあ、ほんと苦労したぜお前……」

「イタ吉と帰ってきたと思ったらアレだものね」

「酒はほどほどにせんといかんぞ?」

「ああいう主も、アリですって!」


 イタ吉、ユウレン、九尾にアヅキまでもが私の知らない何かを話している。

 ええと落ち着け私、とりあえず聞いてみよう。


「ええと、昨日夜の星を見てたところまでは覚えているんだけれど……」

「え、マジか!?」

「だから酒はほどほどにせいと」

「そもそもローズはお酒呑んでいたのかしら?」

「いや、おいらが見ている範囲ではのんでない……」


 えっなにこの……何!?

 慌ててログを確認。

 少し前の時間に記されているのは……


[状態異常:泥酔]

[泥酔 酔いが酷く回って意識レベルが悪化している状態]


 えっ?

 私は酔っていた?

 なんで?


 お酒なんて当然呑んでいない。

 ええと思い出せ私。

 記憶を失う直前に何をしていた?


 そう、星を見て……

 何か果物を食べていたな。

 あれは何なんだろう?

 そこから記憶がない。


「ねえイタ吉、私が様子おかしくなる前に食べていた果物ってまだある?」

「いや、果物ならほとんど食べちゃって……あ、そいやローズが何かを寝室に持っていったかな」

「じゃあそれを調べれば……」

「それよりも」


 そそくさと退避……じゃなくて調べに行こうとした所にユウレンから声がかかる。


「昨日必死にイタ吉が介抱してここまで戻ってきたと思ったらあれやこれやで、かなり大変だったのだから何か一声ないのかしら?」

「う、記憶はないけれど泥酔だったみたいだね……」

「それとも、その泥酔時の行動をひとつひとつあげていこうかしら?

 まずローズが酔いだした時にイタ吉に寄りかかって」

「あああ!! ごめんなさい、迷惑おかけしました!!」


 もう平謝りである。

 一切のコントロールの効いていない自分ほど恐ろしいものはない。

 んなもの聞きたかない!

 そういえばコントロール効かないといえば記憶もない幼い少女のようなわたしについて何か"私"は分かったのかな?


 その場はみんなに謝ってなんとか乗り切った。

 話を漏れ聞くに本当に大変だったらしい。

 唯一アヅキだけが優しい目をしてくれたがそれが何よりも堪えた。


 さて私を恥さらしにしてくれたブツを探さねば。

 寝室にあるらしいからひとまず戻る。

 扉をあけて寝室に戻ると確かにフルーツのかおり。


 しかもなんというか恐ろしく脳に来るタイプのかおり。

 ニンゲンではおそらく経験外の敏感に感じ取れるそのにおい。

 適当に寝具の下を探ると……あった。


[パイロンの実 外側はたべられない分厚い皮があるが中は酸味が強く美味しい。またこの科の植物は一部種族を酔わせる効果がある]


 既に切りわけてあるため元の形はわからないが……

 前世で似ているとしたらパイナップルだ。

 ちょっとしなびているがこれでも正直ちょっとドキドキする。


 確か前世知識でも猫みたいな一部の種族はマタタビ科の植物のにおいを嗅ぐだけで酔いのようや効果があらわれると聞いた。

 それと同じような誘惑が私に起こるとは。

 うう、危ない、これは凄く良い匂いだ。


 本能からくる欲求はねじ伏せて厳重に包み込む事で事なきを得た。

 匂いをもらさない特殊な包みらしいが九尾の発明品の1つなのでよくわからない。

 見ためは銀の布。


 一応許可はもらったから大丈夫だ。

 見つけて寝室から居間へ戻りに行くの勇気がいったけれど。

 とにかくこれでなんとか原因は絶たれた。


 とは言っても捨てるのはもったいないのでこれは保管しておく。

 私が辛い時にちょっとかいで励まして貰おう。

 さすがに泥酔になったらこわいので食べたりしない。


 イタ吉は今日は普通にギルドで依頼をこなすらしいので別れてアヅキとユウレンと共に商店街へ。

 今日は彼等が観光だ。





 商店街でレッツウインドウショッピング。

 彼等は資金があるためあれやこれや買い込んでいた。

 とは言っても文字が読めるのは私だけでそのためにずっと付き添った。


「主、こちらは?」

「ええと、『旅のバッグ、頑丈なのでどこへ連れ出しても平気です。ギルド依頼をこなすお供にぜひ!』だってさ」


 売られているこういったバッグやポーチは全て魔法が使われている。

 見た目よりも容量がはいったり軽くなったりしている。

 この旅のポーチも何らかの革を使われているようだが頑丈だ。


 それにしても。

 ふーむこれはちょっと色変えしたらかわいくなりそうな。

 アヅキは大した興味がなさそうで別の商品に目が移っている。


「よし、私これを買おうっと」

「あ、わかりましたお客さん、こっちで採寸を合わせるのでこちらにお願いします!」


 店員さんに私のサイズをはかってもらって紐の長さを合わせる。

 私の場合速く走ったりもするからきっちりにしてもらった。

 横がけして完成。


 一回一回取らなくちゃいけないからそこは面倒だけれども仕方ない。

 物を運べるという点が大きな利点だ。

 あとでさっき包んだあのフルーツも入れておこう。


 3体とも店を出て少し離れてから改めてバッグを取る。

 "光神術"の"ミラクルカラー"を唱える。

 対象の色を変える術だ。


 トランス前は単色にしか変えられなかったが今使ったらなんともカラフルに出来たじゃないか!

 あんまり変えても毒々しくなるだかなので素材を活かしつつホエハリカラーにしよう。

 鮮やかな青がベースに黄のアクセント。

 うん良い感じだ。


「器用なものね、そんな風に細かく色も変えられるだなんて」

「トランスしてからここまで出来るようになったんだよ」


 ユウレンに感心されつつバッグを再び身につけてその日は3体で商店街で遊び続けた。

 私はともかくユウレンとアヅキはこれでもかと買い込んでいる。

 どうやら目移りしてしまったらしい。





 その日の夜。

 晩御飯を食べ終わったあと居間に私と九尾が残っていた。

 特にこの時点では理由があったわけではないが……


「さて、そろそろお前さんを解剖するかな」

「まだ諦めてなかった!?」


 九尾が悪い笑顔をみせる。

 いやな予感。


「何せお前さんらわしの家に何泊もしているからの、そろそろ身体で支払ってもらわねばならんじゃろ?」

「いや、それはええと」

「なあに別に死にはせんよ、ちょっと解析用の発明品たちで調べるだけじゃ」

「そ、それなら……」


 殺されるのは困る。

 ただまあ確かにごく自然と私がここに居座っていたのは事実か。

 その分の働きがそれで済むのならそちらのほうが良いよね。


「さ、やるぞ」

「……あれ、なんだか急に嫌な予感が」


 殺気……じゃなく九尾から発せられるのは……興味。

 身体の隅から隅まで調べつくしたいという欲。

 邪悪な笑みに秘められた力に私は怖気すらした。

 ジリと詰め寄られればジリと下がる。


「ええと、その注射器は? やたら大きいような?」

「なあに血を吸い取るくん5号は死なない程度に血をとれるぞ?」

「ねえ、針もやたら大きいような、博士、博士!?」


 そのあとこの家に絶叫が響いたのは言うまでもなかった。

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