二幕 六生目 偽物
蒼竜は蛇の魔物に化けていかにも胡散臭い商い屋に化けた。
出来得る限り話をする係だ。
自分で引き受けただけあって演技はうまい。
出入り口付近でたむろっていた相手……おそらくは警備である人型トカゲと話している。
そして私は……荷運びのロバ。
「全く、シケた力して、コキ使われて、平気なのかね……もっと良くなろうとは、思わないのか?」
「…………」
「ははは、そいつ他の奴とあんまり話したがらないんでさぁ、だからこそ荷運びを俺と組んでずっとやってるわけでさぁ!」
今当たり前のようにこちらを看破する目線を向けてきた。
おそらくは"観察"に類いするもの。
これが1番危惧したことだったが……
蒼竜が事前に……私には使うなと言っていた神力で……"観察"の類を誤魔化す力を使った。
私達の見た目に合わせて看破される内容を合わせてしまう。
神の力は概念……つまり偽りの方に概念をすり合わせた……らしい。
正直ここまでくると何言っているのかさっぱりわからない。
私がそこまでたどり着くのはまだまだ先だろうな……
人型トカゲ門番がスルリと細身を使って這うように登る。
見事な身体さばきで私が上までたどり着くと……
私が引っ張っていた荷物を器用にあけだした。
荷台に乗せた紐にくくりつけた荷物は……
「うわっ、氷! あんだぁっ、ってこたぁ今噂のアイス屋んとこかぁ」
「へへえ、お目が高いようでねぇ! どうだい、中身は純正の横流しから、効くのもあるってことだい!」
「やめとく! 俺は冷たいのは苦手だ」
トカゲが蓋をしめてスタリと音もなく飛び降りる。
蒼竜すごい雑に話しているはずなのに雰囲気だけで合わせている……
「んでいいんかい!?」
「とりあえず荷はアイス屋に、リーダーの方にお前が行って説明してくれ。そこらのやつに聞けば場所はわかるだろ。にしてもあのアイスねぇ……一部はとんでもないパワーを得られるっていうが……最近派手にやりすぎじゃないか……」
「ははは、そりゃ俺達の知ったことじゃないな!あいよ、行くぞ〜」
「…………」
よし! うまくいった!
感情を表に出さないようにしておこう。
しばらく歩き人型トカゲが背後に置き去りに角を曲がって……
やっと闇市までこれた!
あと少しだ。
アイスの材料そのものはぶっちゃけモノホン積んできたからそりゃあバレないよね。
私のツテで業務用品を借りれるから……
このまま奥へと向かっていく。
足場が悪いし私の"変装"で誤魔化しているロバ蹄での歩きまるで慣れてなくてすごく不自然になりそう。
とは言え中の者は誰も私達に気にもとめていない。
各々が自身の世界に入り浸っていて互いに無干渉。
余計なことに巻き込まれないためにも大事なのだろう。
足場が悪く荷車が少しガタつく。
慎重に歩んで……
「へへ、なあ、話をリーダーに通すようにいわれたんだけど?」
「ああ、リーダー? 奥だ奥、いっちゃん奥〜」
「あいよ〜! サンキュ!」
蒼竜はノリノリで悪徳商人を演じている。
むしろ板についているな……
普段から騙しているだけある。
そこらへんで屋台を開いて堂々と違法物売っている奴らから話を聞き指された先はアイス屋の方向とは違う。
蒼竜もそれはわかっている。
「んじゃ、ひとりでアイス屋までいけんな?」
「…………」
蒼竜の言葉に無言でうなずく。
蒼竜とは一旦ここでお別れだ。
一瞬こちらを振り向いた蒼竜の舌の上にキラリと輝くものをこちらにチラリと見えながら。
アイス屋の前まで何のトラブルもなくつけた。
ビラビリリも"千里眼"でみる限りこの中にいる。
並んでいるようだ。
そろそろ"鷹目"にきりかえておこう。
こっちじゃないと近距離見づらい。
"見透す目"で透視して……と。
実はビラビリリ含め客たちは待たされていた。
私はコトが起きるまで時間をかけて歩んでいた。
そして私がたどり着いたということは。
「さあさ、開店の時間だぁ……」
「遅いぞー!」「おそいよー!」「早くー!」
「カカカ、すまんなぁ……極上のものを仕入れるのに、時間がかかってなぁ……」
さーてこうなったらバレるのも時間の問題。
アイス屋の中……つまり小部屋内は魔物たちでごったがえしている。
さらに向こうは向こうで仕入れが終わったむねを話していた。
つまり私達が偽物だとバレる。
蒼竜……早く!
『おまたせ』
『よし!』
今だ!
アイス屋が最高に盛り上がっている今!
「ん? 表にあるのはぁ……? おい、見てこぉい」
まずやるのは派手な1発。
「荷台……? 先程荷物は届いた……まさかぁ……!」
もう遅い!




