二幕 五生目 幻影
ビラビリリの尾行を始めよう!
耳が途中で折れているホエハリ族に少しだけ近い種族のうちの1体……
こうしてしっかり見る機会は少なかったがやっぱりキュートだとは思う。
背中の針たちは短く毛の中に紛れており攻撃時に飛び出る……らしい。
銀毛に発色の良い黄針はよくあっている。
周りを見渡しているけれど私が見つかることはまずない。
周囲を警戒しつつ駆け出した。
慌てず動かず"千里眼"というスキルで追う。
視界だけ飛ばすからバレは問題ないのだ。
さらにこちらが風下で光神術"エコーコレクト"で向こうの音だけお取り寄せ。
ゆっくり追おう。
「ハッ、ハッ、早く、早く強くならなくちゃ、よくわからないけど、あそこのアイス売りを、捕まえようとしているみたいだしっ、お金もっ、結構かかってるし……!」
はっきりべらべら話しているわけではなく口の中で潰しているかのような独り言だ。
でもしっかり音を拾えてしまえるからね。
見てもいるから身の振りによる言葉もわかるし。
話している言葉から察するにほぼ黒なのは間違いない。
うまいこといわれてすっかり信じているようだ。
多分警備隊が悪でこちらがただしく向こうはズルこっちはただしく使っているだけ……とか。
そういう言葉を信じ込まされているかなこれは。
見つからないようにそろそろ動こう。
しばらく追いかけるとビラビリリがたどり着いたらしい。
なにもないように見える路地裏。
お店はみんなしまっているように見えるけれど……
「……よし」
彼が周りをチェックして急いでひとつの建物に突撃。
……!
中に吸い込まれた!?
偽装されていたのか!
ぜんぜんわからなかった……
視界だけ飛ばそうとすると建物の幻影がすり抜ける。
警備隊が気付かなかったということはにおいすらないのか。
隠れるとしてもかなりガッツリと……
それに見た目が家の壁だしなあ……騙されてもおかしくない。
ビラビリリは廊下を進み駆けてゆく。
角を曲がればそこは……
あまりにもごちゃごちゃとした暗い空間だった。
そこらへんで酔っている魔物。
転がるガラクタ。
積み上がった品々。
そして汚れた床……
どこをとっても立派な裏の市場だった。
即作って即たためるように資材類も出来得る限り簡易なものにしてある。
建築の心得があるとはおもえない屋台たちが見様見真似で作られたらしくガタガタにならんでいる。
看板たちを乱雑にはっつけてあって逆にこれはこれでいい雰囲気出していた。
いや私としてはここに入り浸ってはダメなんだけれど。
それはともかくビラビリリはそれらの屋台には目も向けない。
さらに奥へと向かっていく。
屋台たちに並ぶものは一見するとガラクタが多いがどれもこれも表で取り扱うとおそらくご法度だろうなあって品が多い。
中には公式品の横流しもあるようだ……
一体どうやって……?
考えていても今は仕方ないか。
確かにこれは警備隊も手こずるなあという規模でアノニマルースの影になった部分が集まっているかのようだ。
急激な成長は急激な闇をはらむ……
わかってはいたけれどショックな感覚も確かに私の中にあった。
奥の1角にビラビリリがたどり着き中の個室へと招かれる。
看板は……なるほど。
アイスクリーム屋だ。
ほぼ黒で良いだろう……が。
私が単身行ってもおそらく乗り込めない。
なぜなら私は最も警戒されているのだろうから。
彼ら全員合わせても入り口で私が入るのを阻止できないしなんなら勝てないだろう。
しかし時間稼ぎはできる。
魔術的な仕組みで局所にあつまり逃走するというのはぶっちゃけ私ができるということは相手も不可能ではない時が多い。
もちろん神力は使えるわけがない。
「やあ、とても困っているね!」
「そーくん……まあね」
空から鳥に変身していた蒼竜が舞い降りてきた。
ふうむ……ならばこのコンビで出来ることは……
とりあえず警備隊への通報は済ませた。
しかし当たり前ながら警備隊が堂々と正面きって来るのを待つわけがない。
それをやると前みたいにもぬけの殻を味わう。
なので……
「チィーッス、ここっすか、例の市場」
蒼竜が化けた蛇の魔物が幻影壁の中に入ると同時に見張りへ言葉をかける。
やはりちかづいても単なる壁にしか思えない……
複雑な幻影でおそらくはそれに特化した魔物がいるのか。
それをこの壁だけじゃなく建物全体の外側を結界のように覆っているから誰も気づけないと。
おそらくは勧誘されて来るのだろう。
蒼竜……演技うまいな……
「誰だ、お前達は?」
「んん? 聞いてないんスか? 頼まれて荷を運んで来たんスよ」
「ほう……知らんがまあ……珍しくはない……荷物調べさせてもらう」
さあ……ここからだ。




