二幕 四生目 蛮勇
蒼竜がにゅっとやってきた。
「今は違法アイスの捜査をやろうとしているんだよ」
「違法……アイス……? なにそれ、中にケシでも入っているのかい?」
さすがの蒼竜でも知らなかったのか目をパシパシさせている。
そりゃいるよね説明。
ケンハリマである4足のすがたで歩きながら説明する。
「麻薬もそうだけど……今回の事件自体が発覚したのは、実は病院なんだ。歯医者のサービスも行うようになって、とある患者を治療したところ、通常のアイスを食べた時には起こらない歯の破損やら、なんなら基本的に禁止されている魔物素材を混入させた形跡がみられるのものまであったんだ」
「あれ、魔物たちの身体の利用ってアノニマルースでは違法なのかい? あちこちで見かけるけれど……」
「正確には管理下にないとダメだね。自分の身体が売れるとして、金銭欲しさにいくらでも物理的な身売りをされると市場混乱だけじゃなく、魔物自身も傷つき、それにカネに飢えたものたちが貴重とされる身を狩りかねないから」
実際魔物の肉体は多くは重要な品に化けやすい。
私の身体もあれこれ貴重品になるっぽい。
ただだからこそ乱用は避けなくてはならない。
魔物たちの権利を守り市場を安定化させ私たちの生存権利と価値の保護をしているのだが……
だからこそ闇市が出来る。
税逃れ云々ではなく完全に違法品のやり取りをする場だ。
「あー、なるほど、そういう違法商材なのね」
「うん。アイスに対してそういうの使うのは、摂食すると身体にいいとか、力がつくとか、とにかく良いことをうたった毒みたいなものがね……特に魔物同士の相性によってはひどい症状も起こすし、場合によっては歯に毒だったりして深刻なんだ」
「うわあ、勇気というか蛮勇というか、そういうのってすぐ流行るしなんかやっちゃう子いるよね」
そうなんだよね……
多くの常識的な判断というものは多くの経験から成り立つし……
社会のルールやマナーに至ってはまだまだ魔物たちには馴染めないものも多い。
蒼竜が話すことももっともで魔物なんかは特にそういう詐欺にも飛びついてしまう。
結果的に違法物に触れてしまうのだ。
食べるだけでどんどんたくましくなれるアイスとかこわいわ!
もちろん食事そのものは経験的にも肉体構成そのものにも大事だが……
逆にこれで簡単に壊してしまうこともある。
だがマーケットが未熟なはずなのにやたら巧妙でまるで足跡を辿れないのだ。
警備隊が聞き込みで得た情報を元に捜査を繰り返し踏み込んでもそこには誰もいないということを既に何度も繰り返している。
ゆえに私達は別方向からのアプローチを期待されている。
特に私や冒険者ギルドアノニマルース支店を管理者イタ吉が直接動くことで背後の敵を焦らせあぶりだすのも目的だ。
「とりあえずこの時間は色々事が起きやすいはず」
「具体的にはまず何をするつもりだい? しらみつぶしに歩き回るというのも、面白くはないだろう?」
「面白さのためにやってるんじゃあないけれど……一応探る先は決めてあるんだ」
昼に動かない者も夜には動く……そう賭けよう。
すっかり暗くなった今。
私は1つの建物陰にいた。
風下だし位置取りも良い。
光神術"エコーコレクト"で向こうの音だけをこちらの耳に直接聞こえるように調整済み。
蒼竜は鳥魔物に化けてもらい遥か高みから視察してもらっている。
……本当は厄介払いでもあるが。
対象の種族名はミミナリ。
肉食獣で私みたいなホエハリ族と少しだけ遠い種族で身体から飛び出てる針に帯電して攻撃する。
耳が折りたたまれており小柄で見た目結構キュートな種だ。
ミミナリのニックネームはビラビリリ。
アノニマルースの中ではわりとわかりやすい名だ。
ビラビリリは実のところ歯医者で歯の破損埋めてもらったことがある。
そのさい違法アイスを食した疑惑でたずねるもごまかし。
警備隊に対しても知らないことを告げている。
ただ様子がおかしくて踏み込むほどではないが疑わないのもといった感じらしい。
性格面の話も怪しい。
率直で信じやすくより強くなって活躍したいと考えている。
獣の魔物としてはそんなに珍しくないがそこに状況もくわわっている。
彼は群れの中では兄で親が退けば群れを背負わなくてはならない。
親を養いきょうだいを率いて将来立派にならねばという焦りがある。
ちなみに将来とはいってもとっくに成獣済みだ。
つまり言うほど時間もなく焦ってやれることなんでもやろうとしている。
だから……うん?
ひとりが家から出てきた。
「……よし」
ビラビリリだ。
私がいる距離だが実はかなり遠い。
キロメートルは離れている。
"千里眼"でビラビリリがキョロキョロしているのが見える……
天空を見上げたから暗闇に紛れた鳥がずーっと遠くからこちらを見下ろしているのがみえた。
あれならばまずビラビリリが気づくことはない。




