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千九十一生目 旅路

 私は正気かどうか怪しいウロスさんに追い詰められ記憶を辿ることにした。

 なぜ私が再現できるかもと……そしてそれが必要ともわかったのだろう。

 さきほどの何らかの唱えに意味があったのだろうかな。


 うーんラキョウの最期……つまり怨念と化して浄化したときの声か。

 ……アインス?


(ほいほーい! けんさくチュウ……うーん……ヒット!)


 ありがとう! この音声を光神術"サウンドウェーブ"で音に乗せれば良いのかな。

 うまく調律しないと。


「ううんと、少し調整しながらやりますね。その間話せないので……」

「わかった。師匠が暴れないように見といてあげる」


 ウロスさんは今だギラつく瞳を持っていてどことなく不気味だった。

 早く答えないとどうなるかわからない……

 ただ音は正確に再現しないと。


「あーあー」


 男声の……ラキョウの声に合わせ……



「おーおー」


 さらにあの怨霊の声に寄せてゆき……

 さらに響いたり複雑に重なったりする再現してと……

 こんな感じかな?


「オオオオー……オオー……! ………!!」


 よし。再現できている。

 おそらく再現が大事なのだろうからとにかく声量含めて細かく調整合わせよう。

 私はあの時この叫びに対して中身を感じなかったが……


 なんだか僅かな意味を伝えたがっていたかのように思える。

 一体何かは……わからないけれど。


 ただひたすら言葉を繰り出していく。

 その間ウロスさんは静かに私の繰り出す音を聞いていた。

 そして……


「――以上です」

「……うっ、うう……!」


 私が浄化したところで終える。

 すると突如ウロスさんから涙がこぼれる。

 えっ……一体!?


「師匠、今のは?」

「ぐすっ……ほとんど意思はないけれど、だからこその心からの叫びじゃん……ただ、『たすけて』と『ウロス』を、繰り返していたんじゃん……はあぁ……」

「最期まで別れた師匠にすがりつくだなんて、情けないわね……」


 ユウレンはばっさりと切り捨てたがウロスは否定するよう首を振る。


「死ぬ時は、誰かを想いながら死ぬのは美しいじゃん。少なくとも、わたしはそう思えたじゃん」

「そう? 師匠がそれで良いのなら良いけれど」

「さあ、温かいお茶を飲みに帰りましょうか」


 そっと横からカムラさんが良いタイミングで言葉を挟む。

 ウロスさんは顔を拭い普段の明るい顔に戻った。

 けれど。その目はどこか腫れていて……


「よーし! 今までの分もジャンジャン飲むじゃん!!」


 けれどすっかりとその声はいつもの調子を取り戻していた。






 こんにちは私です。

 お葬式。

 それは死者を弔うこと。


 ラキョウの葬式はウロスさんに任せるとして……

 私はアノニマルース初の葬式を終え帰る途中だった。

 この葬式は戦争や最近のゴタゴタはほとんど関係がない。


 ただ1匹のネズミ魔物が寿命を終えたものだった。

 葬式は初めてということで色々試すことにネズミ家族たちはしたらしい。

 そもそも葬式文化なんてなかったしね。


 前々から死者が出た場合喰べたりせずすぐ通達してほしいと各地に伝達してあった。

 そのかいもあり無事葬儀まで行え……

 野次馬も含む多くの参列者が老衰でなくなったおばあさんを見送った。


 ユウレンの土着式や蒼竜教式それに(フォウス)教式……

 かわりがわりにやるというめちゃくちゃなものだったが……

 なんとか成り立ったらしく良かった。


 私も今日は4足に黒服の装い。

 帰り道はとても晴れていた。

 ネズミ一家とそこまで親しい仲ではないが私もアノニルース初の葬儀だからね……


 そのまま帰路につく。

 パッと帰るのではなくなんとなく歩きたい気分だった。

 アノニマルースがどんな顔をしている街なのか見たかったのもある。


 私は多くの死にゆくものに対して何もできやしない。

 満足した死には特に……


 ずっと葬儀の間も考えていた。

 死ぬこと。生きること。

 私はそのどちらにもいない気がする。


 異世界からの転生者。

 それはグレンくんのように何かを背負うのか……

 異世界からの転移者ラキョウのように背負えないものなのか。


 いずれにせよ私の歩みはまだ止まってはいない。

 このアノニマルースでまだまだ私のやることもやりたいこともあるし……

 私の意志は周りに伝わり周りの意志は私を突き動かす。


 空は青く澄み渡り賑やかな声があちこちから聞こえる。

 安心して夜行性魔物たちは眠っていて忙しく駆ける者もお茶をゆったり飲むものもいた。

 そうか……


 私達はこの場所を守ったんだなあ。


 この先どうなろうと。

 私が私である限り今歩んだ道を忘れることはないだろう。

 そう……きっと前世の私も似たことは思ったことがあったのだろうなぁ。

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