千八十八生目 秘密
アノニマルースのことを母に語った。
「――とまあ、こんな風に楽しくやっています」
話を聞く母の顔はとても優しかった。
ただゆっくり相槌をうち最後まで聞いてくれた。
話し終えた私は正直肉球汗びっしょびしょだ。
「ふふ、良く話してくれました。本当に、良い群れを作ったようですね。みんなに愛される子で良かった」
「まだまだ、精進します」
「期待しています。けれど、肩のちからを抜いてもいいのですよ」
ふう……言われれば確かに肩がこりそう。
ここまで突っ走ってきたし母の前では緊張しっぱなしだし……
私もパイロンの実を嗅ぎたくなってきた。
「ところで、わざわざダイヤ隊まで抜いて私との話するとはどういう……?」
「たまには立場を除いて話を聞きたいときもあるのです。でも、安心しました。孫ができるのも近そうですね」
「ブウッ!?」
思わず思いっきりむせた。
ちょ……ちょっと!?
孫ってことは……その!
「あら、どうしました?」
「い、いえ! その、え……こども〜、ですか?」
「ふふ、だって相手は多数いるのでしょう?」
「え!? いやみんなとはそういう関係じゃなくて……!」
まずい!
すっかりホエハリ感覚が忘れていたが急に思い出す羽目になってしまった!
こう……まるで私の群れか何かみたいな扱い受けている!
ホエハリ族はひとり決めれば生涯を種族的に添い遂げる。
私が誰かを選べばそれで良いと思われている。
いや違うから……! そういうんじゃないから……!
いきなり顔が熱くなってきた!
「ふふ、そうそう、こちらの群れの者を含めて、ホエハリももっとそちらに行くかもしれないから、その時はよろしくお願いします」
「え、あ、はい……あれ?」
もしかして私からかわられた……?
母は優しく微笑むのみだった。
「それと、こちらも見てもらいたいものがあるのです」
「えっ、なんですか?」
「そのためには、少し移動しましょう」
一体何なのだろう。
駆けていく母のあとを追おう。
「貴女は私のことを、疑問に思ったことはありますか?」
「え? そんな! 母さんのことを何か疑ったことなどはないですよ!?」
「嬉しい言葉ですね。それでも、貴女も群れを背負うなら、誰であろうと言葉に耳を傾けなさい。行動もまた同じです。私がなぜ迷宮外のことを知っているか、分かりますか?」
そういえばそこまで考えたことはなかった……
迷宮から出られて新たな世界が開けたのは母の教えあったからこそ。
母は凄いとしか思っていなかった。
「そういえば……母が知っているのは、行ったことがあるから?」
「ええ。こう見えて結構好奇心は旺盛な方で、そういうのも発見したのです。ただ、発見することは本来結界で不可能にはなっていますが……」
確かに……迷宮出入り口には魔獣よけの結界がある。
あると知らなければ認知出来ない。
つまり母は……別口で知っていたことになる?
「何らかの方法で、迷宮からの出入り口を知っていた……?」
「そうです。そしてそれは、貴女が話してくれた、貴女もなったという迷宮の管理者にも関係してきます」
あれ。興に乗った時に脱線してそのこと話していたか。
確かに私は地球の迷宮と呼んでいる小さな管理者。
ただ今の話からつながるのって……
「……まさか!」
「さあ、そろそろ見えてきましたよ。ここが入り口です」
案内された先。
母が足を止めたところはなんの変哲もないように見える場所。
しかし母が近づけば急に地面が揺れだす。
身体が崩れる感じのではなく震える程度のもの。
何かと思えば母の目の前から地面が隆起しだす。
そして……巨大な建物が出現した!
それは大口を開けてすぐにいきどまり。
考えどおりならば私達を地下へといざなっているらしい。
母は遠慮なくその中へ。
「さあ、知る心があるならば、中へ行きましょう」
「う、うん!」
私も当然乗り込む。
答えはわかっているが目で見て鼻で味わいたいのだ。
乗り込むと建物が沈んでいく。
そのまま下にゆけばエレベーターのように地下の道までたどり着く。
母に続いて私も後ろを歩む。
そして螺旋状にどんどん下り……
やがて1つの部屋にたどり着く。
暗い廊下を移動するのに互いに何も話さなかった。
この場所の空気がなんだか特別でそうさせているかのような。
そしてたどり着いたこの部屋は……まるで1つの小さな丘だった。
ここだけ明るくそして風が吹き抜ける。
それなのにここは……見た目よりもずっと小さい。
おそらくは端の空間が歪められている。
端と端がループするように繋がっているのかな?
母が奥へと踏み込めば多くの樹木が生えだしてそこに言葉が刻まれだす。
まるで見たことのない文字だが"言語学者"あたりを使いこなせばなんとかなるはず……!
多くのグラフも浮き出始めたここは……管理部屋!




