千八十七生目 英傑
夜の宴会。
おとなたちはほろ酔い。
こどもたちは甘みに酔う。
そしてメイン会場として中央では大きなかがり火と共に試合が行われていた。
ぶつかって相手を崩したりラインから押し出せば勝ちの簡単なルールだ。
私も昔1度だけやった。
やっているインカの一方試合……かと思いきや。
みんななかなかに強い。
負けはしないがインカは結構押される時がある。
まずおそらくみんなはこのルールに慣れ様々な戦術が生み出されているのに対してインカが素人なのと……
私の"率いる者"なんかでめちゃくちゃ経験値のおすそ分けが発生しているからだろう。
若い子は逆にこのブーストが発生していないのでこの群れの中で現状不利というね。
ちょっと観てみたが見知った顔はだいたいレベルがマックスになっている。
ホエハリ族のトランスはなかなか難しいからね……
ガウハリになれるのは一部のみだし。
だけど私が小さな神になれたようになにか変化の兆しがあったら……?
まあ今は置いといて。
インカが踏み込んで……
相手が身体を回して背の針を向けつつ回避し……
そこを能力差で無理やり詰め直したインカを屈むように迎え撃ち。
さらにラインギリギリの戦いを維持してインカに踏ませるように維持。
大きさで勝てなくてもホエハリ族の背中は針の生えている関係でめちゃくちゃ強いので低姿勢で立ち回り続けているのは本当に厄介そう。
けど。
「群れ1番のダウンカウンター使いにどう切り込むんだ!?」
「英傑ー! お前の勇気見せてくれー!」
「こういう時は……ここだ!」
インカが敵の体当たりを受け少し下がらせられるがそのまま距離を活かし突進しつつ……
頭から槍を生やして角のように使い地面ごとすくい上げ突撃!
力技のようにみえてまるで動きがブレていない……!
低い姿勢を保っていた相手は咄嗟の判断がつかずにそのまま吹き飛ばされる!
キレイに場外へ。
「英傑、勝利〜!」
「す、すごい……!」
「これが英傑の力か……」
「アイテテ、負けたよ」
「良し! 次は誰だ!?」
インカは普段散々修行で師匠たちにいじめ抜かれているらしいからこういう息抜きが楽しくて仕方ないという顔をしている。
私も結構わかるけれどね!
ハックは……
みんなの前で英傑たる技術を披露していた。
「おおおー!」
「像たちとともに炎をあんなに……!」
「これが教えを広げた英傑!」
おとな組はともかく子ども組が特に強く反応していた。
今でもニンゲンたちとの交流は続いているらしく……
子どもたちにもそれは教えられている。
炎が原初の信仰みたいに扱われそれを利用した炭づくりや像たちの作りが尊重されているが……
目の前でバンバン土から像が生み出されその像たちが炎をはいて踊る。
もうめちゃくちゃだがすごく楽しそうだ。
「さあさあ! みんな踊ってー! ハイハイ! ハイハイ!」
「やー! 踊ろう踊ろう!」
「わーい!」
それはまさにお祭り騒ぎ。
どんちゃん踊りの自由席。
肉を食べていた者も輪に加わっていく。
よしよし。
姉弟たちをなんとか引き離せたぞ。
今のうちに食べるもの食べてしまおう。
「はい、スライム菓子! よくさましておいたよ!」
「ありがとう!」
さきほど煮詰めていたスライム加工品を皿に取り分けたもの。
それを群れのひとりが渡してくれた。
単純ながらおいしいのだ。
口の中でさわやかな炭酸風味。
濃厚になったソーダ味だ。
久々に食べた気がする!
アイスとは違いまだほんのりあたたかくそして煮詰めてあって歯ごたえはちゃんとあるのにさわやか。
これは……アイスにも転用できるのでは?
アノニマルースに帰ったら試してみようかな。
「英傑のわが子」
不意に声をかけられ立ち止まり音の方を見る。
少し遠くの草陰に母がいた。
……あれ? いつの間に?
「あ、はい、なぜそこに? ダイヤ隊は……?」
「秘密ですよ。さあ、誰にも告げずこちらへ……」
影の向こうへと姿が消えた。
え? ダイヤ隊の目すら盗んでどこへ!?
しかもみんなを呼ぼうとしたら秘密って……
幸い? 私の方は誰も注視していない。
自然に気配を消してから……
私も草陰の向こうへと移動した。
視界の見える範囲にはいないようだが……
ごく普通ににおいがあり聴こえる範囲。
ホエハリ一族なら簡単に追えるのでちゃちゃっと行こう。
月明かりの下。
私と母ふたりが共に森のすこし開けた高台に並ぶ。
とても良い景色の場所だ。
風が吹き抜け毛を揺らす。
「私達だけで、少し話をしましょうか」
「は、はい」
「ローズ、貴女の群れはどのようになっているか、ゆっくりでいいので聞かせて欲しいのです」
「なるほど……それでは……」
私は月明かりに照らされたその顔を見ながら語る。
私がたどり……みんなが集い……出来上がったアノニマルースを。
こうして夜はふけていく……




