千八十六生目 父母
ダイヤ隊が先行して親の近くまで来た。
この向こう側が親たちの住処だが……
少し待てとのこと。
この感じも久々だ。
天然敷居の向こう側でダイヤ隊たちが面会準備を整えているのだろう。
それをわざわざ言われたことはないが。
そしてわざわざ覗き見ない。
やろうと思えばやれたとしてもやらないのはひとつのマナーだよね。
少し待てばちゃんとダイヤ組が帰ってきた。
「中に入ってよし!」
「我々は先に下がる」
「うん、ありがとう!」
ダイヤ組が下がると入れ替わりで私達が親たちの元へ向かう。
天然仕切りの向こう側には……
その姿があった。
「よく参りました」
「良く来たな」
母と父。
ふたりともまるで変わらない存在感でそこにいた。
見た瞬間に体の中でグッと熱い感情が湧き上がる。
はっきり言ってしまえば母は特に他と大きくは変わらないただ美しいだけのホエハリで……
父はインカと同じガウハリで刻まれた古傷の分ぐらいの差しかない。
それだけなのにやはり私達の親で……常に憧れの存在なふたりを前にすると感無量になってしまう。
昔みたいに良く会っていたならともかく久々で。
こうして本当に未だに仲良くやってあてくれていることにちょっと感動してしまった。
ハックやインカもそうらしく次の言葉を発することも出来ずに詰まっている。
よし……話そう。
「私、私達は……戻ってきましたっ!」
「おかえりなさい、全てはわかりませんが、みなの成長した姿を見るだけでたくさんの試練をくぐり抜けたことは、わかりますとも」
「パパ、ママ……ただいま!」
「これ、お土産! ただいま」
「うむ」
相変わらず父の言葉は少ない。
ただもう今ならわかる。
恐ろしい顔とは反対で非常に感情が単なる言語以上に全身から溢れていると。
そして母はその代わりといってはなんだが父以上に話してくれる。
この関係も久々だ……!
インカが改めてお肉を取り出し母にわたす。
そして包みを解けば……
中からは宝石のように赤い美しく輝く肉が現れた。
実に高級そうなものだ……いつの間に用意していたんだろう。
「ふふ、ありがたくいただきます。今夜は泊まっていくのですか?」
「ええ、今夜泊まり明日日が出る前には帰ることになるかと」
「悪いな……時間がそれ以上はとれなくて……修行が待っているんだ」
「いいえ、ひと目見れただけでも十分ですから。ひと晩過ごせるのならば、とても大きな幸福ですよ」
久々にこうして話していると……オーラが違う!
まるで眩しくて直視出来ない!
ちょっと感動してしまう。
「この後どうしようね〜?」
「昼はゆっくり過ごしましょう。夜にまた、賑やかな宴を開きましょうか」
「おお! 良いなあ! やろうやろう!」
「それじゃあ、ちょっと戻って準備してきます!」
「あなた達が客ですよ?」
「「アハハハハハ……!」」
みんなでひとしきり笑い声が響く。
その日の昼はこうして団欒してすごし……
夜。
私達は結局大した手伝いもせずゆっくりとしていた。
イタ吉たちは呼んだもののみんな忙しそうでこれないようだった。
私達も無理やりスケジュール合わせてやってきたしね。
「英傑のお姉さん!」
「群れ救いのお姉さん!」
「もっとアイスちょうだい姉ちゃん!」
「いやいや、食べ過ぎるとお腹壊すよ!」
昼間帰ってからずっとこんな調子である。
アイスを食べたら大はしゃぎしてとても気に入ったらしい。
いちおう多めに持ってきていて良かった……
私が昔やっていたスライムの煮詰めなんかは今も行っているらしく今夜もそれが今作られている。
だが冷凍食品というのは斬新だったらしい。
森の迷宮はむしろ雪の寒さに苦しめられがちで氷雪系の食事が少なくしていた影響かもしれない。
それにバニラ香料になりうるものもなかったし乳だなんてとてもじゃないがない。
このにおいと斬新な食感に弟妹たちは取りつかれたようだ。
ぶっちゃけ私を持ち上げればもっと出るぐらいしか思っていない気もする。
それはともかくとしてなついてくるきょうだいたちと共にこの小さく大きな群れを歩き回る。
子供の頃はあんなに広くて持て余すほどの世界だったのに……
今はこんなに小さくギュッと押し込められている。
大事に思う気持ちもひとしお強くなっていた。
「いいぞー!」
「もっとぶつかれー!」
おとな組は私が持ち込んだ冷凍パイロンの実シャーベットでほろ酔い中。
そしてインカや群れの力自慢たちが互いに炎の前でぶつかりあっている。
ひかれたラインをオーバーしたり倒れると失格らしい。
凄まじい勢いで体から生える針や槍がぶつかり合う!




