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百四生目 卑怯

 スキルとスキルがかち合い走って跳んで魔法も炸裂した。

 数分の戦闘は見る間に互いの負傷を多くする。


「影魔法!」

「火魔法!」


 影から伸びた黒い槍が火の玉と相殺し爆発と共にかき消される。

 さらにイタ吉はその煙の中へと突っ込んで宙を蹴る。

 その勢いでネズミを腹に爪を当てた!


「"三角蹴り"!」

「ぐうっ!?」


 カウンターされないようにそのまま走り抜けるイタ吉。

 一瞬足が光ったが間に合わないと踏んで中断したらしい。


 ぜぇぜぇとネズミが荒く息をしてイタ吉は細かく早いが正確な呼吸を続ける。

 彼らはやはり見るからに、やられることに慣れていない。

 傷をもらい痛みを引きずり血を失ってなお平然と胸を張り続ける力。


 それは一朝一夕では身につかない。

 極限の中でも出来る限り身体に全力を出し続ける事は困難だ。

 だからこそ傷がつきだせば差が出てくる。


 簡単に言えば彼らには殺気が足りない。

 イタ吉のごく平然と『殺すかなんかして動きを止める』という思考と気迫に押されつつある。

 これは私が狩りが苦手だった理由の1つ。


 序盤はあれだけ有利に運んだネズミが痛みを貰ってから鈍りだした。

 さらには先程から攻撃を避けるという部分が非常に欠けている。

 カカシに切りつけているかのようだ。

 まあ実際はムリもない話で本来は当てる気でいる攻撃を楽に避けれれば苦労はない。


 とは言っても瞬時にどれほど貰ってそれがどれほどの被害をもたらすか判断が追いつかねば野生ではやっていけない。

 蹄を持った鹿に頭を踏み潰されないように背の針をちらつかせて身体を蹴らせるように持っていけなければホエハリはやっていけない。

 イタ吉だって同じようなものだ。


 ただ街の中で自己の強さを鍛えその力で弱者を蹂躙し続けるだけでは手に入らないやり方。

 あまりにも『殺すと殺されるに慣れる』ことでしか手に入らない戦い方。

 血と泥を何度も雨に流されながらやらなければ身につかない生き方。


 それは豊かで楽しく生きていくうえでは一切いらない。

 むしろ邪魔。

 だからこそ今は命運をわける。


『イタ吉、カウンター狙いしている!』


 ネズミがふらつきながらもただの弱りを見せているだけじゃなく。

 よくよく見渡さなければ気づかない隠された動き。

 さらには"読心"した思い。


(くそっ! くそっ! 殺す! 殺してやる! 絶対に許さねえ! 次来たら終わりだ! 終わらせるっ! 俺の歯で"やり返し"すれば終わらせられるっ!)


 窮鼠(きゅうそ)猫を噛むとも言う。

 一番破壊力があるのはやはり歯らしい。


 実際にイタ吉もかなり生命力が削られている。

 ここでげっ歯類の歯で噛まれるわけにはいかない。

 それ一点に賭けるか。


 しかし、それでは思考が追いついていない。

 彼らの『取り敢えずやってやる』とか『ムカついたからやる』ぐらいの殺気ではまるで足りない。

 常識という文化の上に成り立った思いではイタ吉に届かない。


「こいよおらあぁぁ!!」


 野球という競技がある。

 おそらく彼等がやっているつもりだったのはそれと同じようなもの。

 ルールがあって逆転サヨナラホームランのチャンスがある。

 そして運命の相手と今最後の1球運命の1打がある。


 果たしてココでストレートでキメなきゃと思わせられるだろうか?

 カーブを投げるなんて卑怯と思うだろうか?

 だがそうじゃあないんだ。

 野生(イタきち)側は最初からそんなルールに則ったつもりはない。


 イタ吉が走り回り様子を見る。

 ネズミが挑発をかまし続けて向かってこさせるようにしていた。


「さあさあ来いよ! どうしたビビってるのか! そんな弱虫で俺に勝てると思ってるのか! 所詮まぐれ勝ちの雑魚! お前は何をしようが俺に負け」


 突如彼の足元が盛り上がる。

 それは土槍となって彼を跳ね上げた。

 ホエハリ族が使う土魔法"Eスピア"としては小さいし脆いが跳ね上げた時点で十分役目を果たしていた。


 イタ吉たち野生は生き残るための戦いをしている。

 相手の盤上にのる必要も格好つけて誰の力も借りないということもせず。

 ただひたすら最も有効な一撃を叩き込む。


 ストレートか、カーブかじゃなくてバッターに殴りかかり控え全員で袋叩きにするような所業。

 だがそれがスポーツじゃないこの戦いの有効打。

 ちなみに控えは私です。


 彼等ははじめからわざわざふたりを先にいかせた。

 同時に襲いかかればより勝率は上がっただろうにあの時点でイタ吉に負けていた。

 血で血を洗うバトルになっていた可能性の方が高いけれど。

 主に私のせいで。


 宙に浮いた相手にイタ吉が直線で飛びかかる。


 そうしてイタ吉の爪が宙に浮いたネズミを裂いた。


 どさりとネズミが落ちる。

 ギリギリだが生きている。

 手心を加える余裕があった?

 いやこれは……


 む、イタ吉が"率いる者"で"以心伝心"を借りた。

 そうして思念を飛ばしてきた。


『いやあギリギリだったから"峰打ち"も借りたよー』

『やっぱりか』


 攻撃の威力を下げるかわりに必ず相手を生かすスキル。

 街の中では殺したりしないというルールだけは、守ってくれたようだ。

 良かったねネズミ。


 最初のやりとり、イタ吉はよくよく聞くとひとりかどうかは答えていない。

 それなのにひとりだと踏んでなおかつ割れている戦力を全て出さずに出し惜しみしている間に負けている。

 遊びで済むと思った相手の悪手。


 もちろん実際は私という控えがいたのだから早く逃げるのが正解ではある。

 少なくともイタ吉は全員で潰すのが見える情報の中では正解。

 だから最初のタイミングで逃げているやつがいる場合生き残る嗅覚に優れているのだろう。


 さて。


「どこへ行くのかな?」

「ぎゃあああ!?」


 私は光神術の"インファレッド"を使って赤外線センサーを起動させていた。

 トランス前は頭が痛くなるばかりで使い物にならなかったが……

 今はばっちり平気だ。


 比較的暗闇が見やすいこの目だが物陰にある暗闇の奥に幻術で隠された秘密通路から逃げ出そうとしていたネズミくんを見つけるのには役立った。

 途中からいなくなってるんだもの。

 なんとか出口に先回り出来た。


「じゃあ、どうする? おとなしくする?」

「……あ、あああ……」


 私がちょっと威圧したら腹を見せてひっくり返ったあげく漏らしおった。

 ち、ちょっとやりすぎたかな……?

 元々彼は加担していたとは言え被害も被ってたからボコるつもりはなかったのんだけどね。

 ほんとだよ?

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