千八十五生目 故郷
久々に生まれた群れへ帰って来た。
知らない弟や妹たちがいたり見知っている顔がいなかったり。
偵察隊であるクローバー隊がいないのはおかしくないが……
「さあさ、荷物はおろしちゃって!」
「うん?、ああ、何匹かいないのは、あのあと結構みんな刺激されたのか、結構旅立ったんだよ。確か他のところで元気にしているって、最近も聞いたよ」
「ああ、良かった……」
少し不安になったがそれなら安心だ。
まだ弟や妹たちが警戒しているのをみんな笑顔で対処しつつ荷をおろしていく。
荷物の中身は……っと。
ハックが紐解くとちらちらと見えていたハニワやら土偶やらがそこから飛び出る。
様々な種類のハニワがピョンピョンと飛び跳ね1列に並びだした。
「う、うわぁ!?」
「すげー」
「あ、この作り……見たことがある!」
「もしかしてあの紋様! ほ、本当に噂に聞く英傑のひとり!?」
ハニワたちの全貌を見て弟妹たちが強く反応した。
少し離れたところにあるハックのもと製作所に山積みされているはずの失敗作や売り物にするため伝えていた技術が今でもちゃんとあるんだなってなんとなくじわっと心が潤った。
ハック自身も良い笑顔だ。
「ここの土偶たちはね、色んなことをサポートしてくれるんだ! こう見えて器用だから、みんなの助けをしてくれるよー!」
「おお、これはありがたい! はなまる!」
「インカ兄さんのは?」
「これは親のためにもってきたものだから……」
じゃあ私が荷解きしてしまおう。
板に乗せて運んできたもののイバラや布を剥がしていく。
中身は……氷。
「え……これは……?」
「ふふふ、ちょっとまってね」
この氷は特別製で魔力保持されている間は自己冷却してくれる。
氷海の迷宮でわりととれる。
大事なのはこの中身。
上側にイバラを伸ばして……
あったあった。"鷹目"でみつつちゃんと掴む。
「あのイバラ……生えたり操作していたりする……」
「本当に姉なの……?」
わりとみんなに不安がらせているがこれは神の領域じゃないからね!
氷から引き抜けば……と。
地面におろしたるは大きなツボ。
蓋を開ければ。
バニラのいいかおり!
「おー! バニラアイスだ!」
「バニラ……? アイス……?」
「な、なんなんだろう……?」
「お、よくわからないけれど中身をわけていけば良いのかな?」
「うん、よろしく」
私達以外みな疑問符が浮かんでいる。
まあ氷の中には他にも冷凍品があるが……
これが1番わかりやすいだろうからね。
さっそくハニワや土偶たちが動き出し皿をとりにいったハート隊についていった。
皿を運んでアイスをついでくれるんだろう。
「僕たちは先にパパとママに会ってこようよ!」
「そうだな」「うん」
新しいものに興味が移った弟妹たちは置いといて……
親のいる場所に通ずる道を塞ぐダイヤ隊の前に来た。
彼らは当然のように道を塞ぐ。
それが仕事だからだ。
「止まれ、この先に行くことは余所者は叶わぬ」
「あれ? 僕たちの事忘れちゃったの?」
「いや違うだろ、いるからやってるんだ」
インカの言う通り別に向こうふたりは忘れているわけじゃない。
ダイヤ隊は群れの内部治安を守るための存在。
警備班であり群れのトップを守る親衛隊でもある。
私達は形式上すでにこの群れの一員ではないのだ。
なのにこの先へ進むということ。
つまり合わせる顔があるかどうかということだ。
「私達は、群れから出て多くを学び、再びここに戻ってきました。その成長を見てほしいのと……再び親が息災かをぜひみたいのです」
「例え余所者でも、会う権利はある。それは……こういうのを出す場合にな」
私のかわりにインカが前に出てカバンの中から物を取り出す。
空間拡張の関係でカバンの口からニュルリとちょっと口より大きい物が出てきた。
それは紙袋に包まれた品……しかしにおいだけでわかる。
「これは……肉だ!」
「うーむ、悩むところだ……」
「かなりの熟成肉のうまい部分なんだ。献上するの、妨げないよな?」
「……我々が先行するならば」
ふう。なんとか通してくれるらしい。
めちゃくちゃふたりの感情が尾に現れていて肉が美味しそうなのはわかった。
きっとかなり厳選したのだろう。
「ジュクセイというのは良くわからないが……この立場としてではなく個人として、みんな、よく帰ってきた」
「あ、ずるいワタシも! いないならいないで寂しかったからね」
「うん、ただいま!」
ふたりはほんの少しだけ柔らかな表情を見せた。
ついに久々な親との対面だ……
かなり緊張してきたなあ。