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千八十一生目 悲観

 ダカシはアカネを置いてどこかに行こうとしていた。

 そしてその理由は……罪悪感だ。


「キミは家族の復讐を果たすために多くの事を強引に行い、結果的に視野狭窄に陥って大変なことになった。けれどその後、私達に謝れて、見事復讐を果たせた……だけどキミは……」

「……もう俺の手は、アイツに見せられるほどに綺麗じゃない。薄汚れた兄など、アカネには似合わない」


 やはりそうだ。

 ダカシはいわゆる燃え尽き症候群(バーンアウト)だ。

 しかも冷静になる時間が多くなればなるほどにダカシを蝕むのは後悔と罪の意識。


 以前のダカシは視野狭窄になり復讐の執行者として振る舞うことで自分の身を守っていたのだ。

 むき出しになった今のダカシではあまりにも重いものがダカシ自身を傷つけている。


「復讐は果たされた。だったら今度はアカネと生きる番だよ。キミは手が汚れてもそれを洗いそそごうとしたしそれ以上に世界を救うこともしたんだ、それは誇って良いはずだよ!」

「そんなもの、家族を、みんなを救えずアカネがひどい改造を受けたことに比べたら、何も解決していない……俺は、復讐を終えたことでやっと気づいたんだ。まだ最後に大バカヤロウを殺してないって」

「ダカシ……!」


 なんとなく思っていたがやっぱりそうきたか!

 ダカシは……死に場所を求めているんだ。


「お前は俺に関わる必要などない。これまではともかく、これからは特にな」

「それでもダカシ、キミが死のうとするなら私は止めるし、アカネを悲しませたくない」

「それで何がある……! もう良いだろう……!? 俺の役目は終わった、アカネも自分の人生を生きる時だ……! 俺みたいな奴が邪魔をしちゃいけない!」

「違う! 死は生きている者を呪縛する! それは私がキミを見てきて強く思っていることだよ! その呪いを、アカネにも残すの!?」


 ダカシが私の方にしっかり見向き大きく腕をふる。

 怒りのにじむ声は誰に対しての怒りなのか。

 私も私ではっきりと言う。


「誰もお前に止めてほしいなどと、頼んではいないのだろう……!?」

「私のために、キミを止める!」

「……!」


 ダカシは言葉を止め刃を構える。

 私はホリハリー状に変化して2足で構えた。

 周囲は今見張りくらいしかいないがさすがにこちらに注目しだす。


 僅かな時が流れる。

 誰も邪魔することのできない緊迫感。

 それが……私の足が僅かに土を踏み直したのを皮切りに動いた。


「ハアアァーッ!!」


 ダカシは直進して飛びかかるような走り。

 全身に悪魔の力を這わせ2つの剣に紋様を走らせる。

 私に(エフェクト)をまとった剣を大きく振り抜いた!


 私は……殴らない。

 ただ1歩跳ぶように踏み込み……

 そのままダカシに抱きつく。


 剣の射程はどうしても密着されたらまともに振れない。

 さらに私はダカシの身体の四肢関節を封じ込めるように腕と足を回す。

 そのまま共に寝伏せた。

 つまり関節を抑えた。キメてはない。


 なかなかやる機会がない対ニンゲン用制圧姿勢だ。


「クソッ、離せ! 使えばいいだろう!? "無敵"とやらでも!」

「違うんだ。キミのは、違う。怒りや殺意のにおいをまるで感じない。キミから漂うのは、ただひたすらに悲しみだけだ……どこまでも悲観にくれて悲鳴を上げている、そんな心だよ……」

「グッ……! 分かったようなことを……!」


 ダカシが無理やり小剣を振るおうと力を込め……

 大きくヒビが入った。

 そして刀身がバラバラに砕ける。


 復讐刀も刀身が錆びついていく。

 まるでダカシの心を表すかのように。

 やがて暴れが収まったかと思うとかわりにダカシの泣き声が聞こえてきた。


「クソッ……ウック……クソッ……! 俺は死ぬべきなんだよ……!」

「キミにはアカネからも……そして私からも生きていて欲しい。それがもしまだ負担があると感じるならば、生きることで償いを続けてくれ」

「……本当、厳しいなお前は……!」


 しばらくの間泣き止むのを待つ。

 そして……

 拘束をといた。






 ダカシは涙をぬぐい立ち上がる。

 剣の反応……まるでダカシの矛盾した心理を表しているかのようだった。

 もしかして悪魔の力がそうさせたのか……?


 考察はともかく今はダカシだ。


「……恥ずかしい所を見せたな」

「誰だって泣くし怒るよ。でもダカシは背負いすぎだよ。時には荷をおろしてみても良いんだから。荷を運ぶには、生き続けるしかないんだ」

「いつ、いつ重荷をおろしていいんだよ……俺なんかが……」

「アカネちゃんの前にいる時くらいは良いんじゃないかな」

「……そうか」


 別にダカシの何かがこれで決定的に変わったわけではない。

 それでも。

 少しだけでもダカシは顔をすこしだけ笑顔に歪ませた。


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