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千八十生目 復讐

 皇帝の放つ言葉。

 車椅子に乗って現れ復活の兆しをみせつけたところから放たられる言葉は。


「みな、皇帝はまだ蒼竜からは見放されていなかったようだ。ついて来るな?」


 その言葉に返事はない。

 軍ではないし個人の集まりでもなく……

 そこには絶対的な統制がひかれていたからだ。


 皇帝を頂点とした体制。

 絶対的な存在の前にすることはみなひとつ。

 何も言わず車椅子の彼より身を低く(こうべ)を垂れた。


「うむ」


 満足気につぶやくと共にホルヴィロスがツルで車椅子を押す。

 私は端のほうだったし特に臣下ではないのでみんなと同じ動きをしていないしきっとしてはいけない。

 彼らの中の特別な世界を壊さないように見ていることが最善だと判断した。


「あ、そうそう。今日から歩く練習をしようか」


 ホルヴィロスが運びながら気が紛れる話をする。

 皇帝の姿は見れば見るほど完璧だが……

 "見透す眼"!


 中身はというと……

 うわ!? これはなんなんだ!?

 植物!? 内臓が植物と融合していて……


 これはすごい。

 どんな医療知識と腕だ。


「む。もう歩行練習か。正直動けるかはわからないが……」

「ガンガン動いてみたほうが良いからね。なあに、付き添うよ」

「私も、無茶をさせないように見張りますので」


 医者もその場に合流し歩んでいく。

 ちらりと私の方へ皇帝の視線が向けられた気がした。

 すぐ前へ目線は戻る。


 ……おや? 誰かが駆けてきた?

 走ってきたのは……

 ウォンレイ王とダンダラだ!


 忙しいふたりだから遅れてしまったのだろう。

 別にそれを誰かが咎めるでもないが。

 ウォンレイ王は言わずもがなダンダラこの場にいる唯一の王子。


 いつもは自分の剣を溺愛しているへんた……変わったニンゲンだが今だけはその剣……宝石剣を触りもしていなかった。


「はぁ、はぁ、皇帝……! 随分と、お元気になられたようで、本当に良かったです」

「帝都奪還ならびに魔王の撃破、おめでとうございます陛下、いや、本当に良かった」

「御苦労。皇帝として生き長らえた。だが民たちの多くは帝都にまだ戻れずにいる。出来得る限り早い復興をする」

「ええ、もちろんですとも!」

「自分の体、もっと労ってくれよ……!」


 歩き別の場所に移動しながら彼らで少しなごやかな会話が飛び交う。

 やはり身内の力は大きいのか皇帝が特に心がやわらかくなった匂いがする。

 きっと皇帝も本当は不安で……その上で立ち上がろうとしている。


 その支えになってくれるのが子やみんなというのは……

 どこまでも力になるのだろう。

 私も今その力を実感しているからとてもわかる。


 みんなが会話しながら去っていく背中を見つつその場を離れた。







 そして今つながりからわざと距離を置こうとする者へと会いにいった。

 アノニマルースの正面玄関。

 大きな門扉が開かれた場所から外に出ようとするもの。


「ダカシ!」

「……どうして俺が出ていくことが分かった?」

「多少のカンと、妹さんがね」

「……アカネか……」


 アカネが目を覚ました。

 ただまだ現実と夢の境目が曖昧なのかふわふわと幻覚を見ている旨の発言をして逆に現実をあまり認識していなかった。

 ただ頻繁に家族の……兄の行方を看護師にたずねていたらしい。


 なぜか『どこかに行っちゃう』と言って。

 確かに目覚めてからダカシが訪れたらしい履歴が残されていなかった。

 おそらく出立前意識のないとダカシが思い込んでいた時期にどこかへ行く旨を話していたのだろう。


 だがそれを聞いていたアカネは半ば夢うつつながら話してくれたと。

 あとはもうダカシの痕跡をひたすらたどるだけだ。

 身を潜めない獲物の追尾だなんてとてもやりやすい。


 ダカシの行動はもう制限されてなどはいない。

 アノニマルースでも受け入れられもはやアノニマルースから出るのも自由。

 だが……ダカシの性格からして彼は誰にも何も言わず二度と戻らずいなくなるはずだ。


「アカネちゃん、ちゃんとではないけれど目を覚ましたよ。キミを探していた」

「俺は……アイツに直接会わせる顔を持ち合わせていない。それに、俺は復讐を果たした。もうこの剣は返す。お前達とは復讐という目的で共に戦っただけにすぎない。もう俺には用がないはずだろう?」


 ダカシの復讐刀……

 皇国からのレンタルで復讐を終えた者には返却の義務がある。  

 そして小剣の方は悪魔の力が変に侵食しているのか剣が変な紋様に色変わりしている。


 だがダカシの言い回しは変だ。

 そもそも剣を返すからどうのこうのは別に新しい剣を買えばいいしあんなに助けたがっていたアカネを放置してどこかに行く理由にはなっていない。

 つまり……アカネにあわせる顔がないと言うのは具体的に言えば。


「ダカシ、アカネへの罪悪感を?」


 ダカシは答えずにどこか遠くを見つめた。

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