千六十九生目 違和
私のトランスしたこの姿。
胸の赤い石が私そのもの……
ならば私の肉体的内側に詰まり渦巻いているこのものなんなのか。
思ったよりもあまりに自分が前と違いすぎて……
もはやちゃんと生物と言えるかどうかも怪しくて。
私の顔は自然に苦笑いしていた。
それはともかくとして……
私自身をもっとちゃんと調べてみよう。
"観察"!
[名前無し Lv.15]
[名前無し 個体名:ローズオーラ
新たなる小神。名前をつける権利がある。名前をつける?]
む。名前付け選択か……
魔王が作った部分らしいから聞いておけばよかった。
でもまあ名前か……それなら私のものだし何か考えるかあ。
[ニーダレス Lv.15]
[ニーダレス 個体名:ローズオーラ
ケンハリマが特別な転生を行うことでなれた小神。美しい胸の宝石こそが命の源で、どのような攻撃でも砕けない。多くのつながりがそのまま力になるからだ]
「はい、次はローズちゃん!」
結局全員の診察が終わるまで考え込んでしまった……
でもいい感じだと思う。
うん。これからの私はニーダレスだ!
「はいはい……って!?」
そういえばみんなの様子は?
って見回したらいない!
そのかわりなんだかこのテントとつながる反対側から危険な気配を感じる……
「どうしたの?」
「いや、みんなはどうしたのかなって……本当に危険ないよね?」
「そこは大丈夫! 調整に調整を重ねて運用しているからね!」
本当に大丈夫なのか……って。
ホルヴィロスが真顔でツタを私に伸ばしてきたかと思ったら胸の石を触られた!?
凄まじくゾワゾワする!
「ちょっ、ホルヴィロス!?」
「……さっき、苦しんでいたよね。痛みじゃなくて……これのせいで」
「え?」
ホルヴィロス……私を何か見ていたのか。
真面目に診察してあげてほしい。
いやまあ神からしたら余裕だからなのだろうが。
「姿が変わった……だけじゃない。貴方はかなり生命としては新たなステージまで押し上げられている。神としての立場にね」
「うんまあ……色々あってね……少し心臓潰されたりはしたけれど、こうしてなんとか……」
「えええ!!?? ちょっと!? 何があったの!?」
あ……まずい。
これは余計なことを言った……
「……かくかくしかじかという感じで、なんとか戻ってこれたんだよ」
結局中で何があったかを話すことになった。
私が見た不思議な世界の光景も。
すべて聞き終えつつホルヴィロスもアレコレと診察が終わったらしい。
「すごいね……もうそこまで行くとさすがローズ! って感じにしかならないよ! ほんと、ほんーーと、生き返って来てくれて良かったー!!」
「わわっ!? ほんと、今回はみんなのおかげで助かったよ……!」
「本当、本当良かったあ……!」
ホルヴィロスは万感の思いで尾を許し私の背と頭を撫で回す。
いつものセクハラ感がまるでなく私という生を実感したいがために。
……今回は迷惑かけちゃったなあ。
「そ、そうだ! 私の見たあの景色、不思議な世界については何かしらない?」
「いや、ちょっとわからないね。そもそも私は初めから神だからなあ……」
あの死んだ時に見た世界……気にはなるが今はまあ大丈夫だろう。
それよりも……
「まあ、そうだよね。それより私の体のことは何か分かった?」
「そこはバッチリ! ……ねえ、貴方は神になったけれど、そのことで体が変わっていること、まだ受け止めきれない?」
いきなり私の本心に近いところを打たれた。
かなり驚いたが……ちゃんと見ていたというのは間違いなさそうだ。
隠しきれるものではないか。
「まあ……ちょっと、思ったよりもちゃんと整理できないというか、頭ではわかっている部分も多いけれど、体が全く馴染んでないというか……」
前のトランス直後とはまるで違う。
前のはとてもしっくり来たのだが今回のはまるで浮ついている。
いや……正確には沈んでいる。
私が皮袋で中身が全部渦巻くエネルギーのような。
理屈上私の全身が成立していないような。
まるで私が私という体にいないかのような……
ホルヴィロスは私の心を見透かすかのようにこちらを見る。
その瞳は私の心を映し出しているかのようだった。
「……そうだね。その感覚はとても大事なんだよ。今貴方が感じている違和感……そして恐怖。私が診てきた限り、単なる生物の自身と神々の自身はまるで違う」
「自身……? 体の違和感と何か関係が? ……まさか」
「グルシムのことは覚えているよね。姿が多少変化したさいに、凄まじく性格が変わったこと」
そう……グルシムは死者の姿から生者の姿になっただけでまるでテンションが真逆になった。
あれは何かあるのだろうか。




