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百二生目 薬物

 葉を取り出して見せてくれたのはありがたい。

 視界内ならこいつが使えるからだ。

 さっきは妨害だの密閉空間で暗かったのとよく見えにくかった。

 今ならいけるはず。


 スキル"観察"!

[ベリトット 通称ラクラクハーブ。魔力のある劇毒を持ち危険だが食用者の苦痛を取り除くため薬品に使われたりドラッグ乱用に用いられるという]


 ナイス観察。

 私の知りたい情報が集まりやすくなっている気がする。

 後は確認だ。


「ねえイタ吉、彼等の取り出し葉っぱはベリトットって言う、紫の葉っぱなんだけど知ってる?」

「おお、知ってる知ってる。最初の日に詰所で教えられた中に毒々しい紫色の葉っぱを見かけたら、すぐに教えろって言われた!

 たしかマヤク……? か何かで流行ってるけど普通はイホーで危ないんだってさ」


 麻薬で違法、やはりか……

 イタ吉は初日ひたすら詰所で街での常識を叩き込まれていたのが役に立ったようだ。

 だとすると、麻薬の違法取引現場?


 それぞれの顔ぶれも"観察"しておこう。

 数は今さっきフルーツと葉っぱを運んだネズミを含めて8。

 いかにも強そうなのがひとりと中間がふたり。


 残りの5体は弱そう。

 ネズミも弱い組だ。

 ただ私がトランスしたのもあるし能力を数値ではかれるわけじゃないし実際肌で強さを感じたわけでもない。

 だから実はみんな私たちと比較してめっちゃ強いかもだし逆もありうる。


 声が聴こえないのはもどかしいな。

 認識阻害魔法の一環で防音されている。

 視界は確保出来ているから少しは良いけれど。


 ええと、そういえば"読心"をもっと意識してやってみれば声を聞くのに近いことが出来るかな?

 やってみよう。


(……たく、アイツ運ぶのに目立つなよな。誰かに目をつけられたらどうするんだ!

 まああいつの妨害魔法は完璧なハズだ、バレはしないだろうが……)


 お、いい感じ。

 これはさっきネズミを殴ったやつの心の声。

 態度も苛ついているし隠す気はない心の声は非常に良く拾える。

 どうやら妨害は完璧ではないようですよ。


(うう……また怒られた。嫌だなあこんな仕事。言われたものを運ぶだけだけど、どんどん危ないものになっているし……

 でもちょっとでも何かしたら怒られるし殴られるし……それに味方がいなくなっちゃう……

 我慢しなきゃ)


 こっちはネズミくん。

 いかにも不幸に巻き込まれたあげく自身の居場所になってしまいズルズルと悪友に引きずられている感じ。

 たぶんこのネズミくんが全力で立ち向かっても目の前のイライラしているやつには何も出来ず殺される。

 それほどの力量差がある。


 だからこそ共依存に近い関係になっているなぁ。

 しかもネズミくんは読み取れない心を何か隠しているようだな……

 厄介そうだ。

 ん? 動きがあるかな。


 葉っぱを強そうなふたりがザクザク加工している。

 そうして出来た葉巻を"観察"。


[ベリトットの葉巻 異常付与:幻惑 錯乱 能力低下 

 ベリトットを使用した葉巻。火をつけて煙を吸い込むと強烈な不調を起こすが種族によっては緩和され一時的な快楽を得る。ただし強烈な後遺症と依存性がある。純度低め]


 うわあ、真っ黒じゃないですか。

 完全におクスリだ。

 さてはて、どうするべきか。


 とりあえずイタ吉に把握した情報を伝える。

 少しの間ふたりで対策を話していたらまた動きがあった。

 彼等はどうやら売りさばきにいくらしい。


 5匹のうちネズミくんを除く4匹の弱いやつらに命じて外へ向かわせるようだ。

 イタ吉に伝える。


「よし、だったらここはオイラの腕のみせどころだな」

「大丈夫?」

「なあにライバルに今のオイラの実力見せつけないとな!」


 わりと、殺したりしない? みたいな意味だったんだけれどまあ、大丈夫かな……?

 角に潜んで出待ち。

 幻想の壁から彼等のうち4匹が出てきた。


 いずれも小動物系魔物でいかにも子分と言ったところ。

 レベルは全体的に10ちょい。

 昔のイタ吉ならば数の差であっさり負けるだろう。


[イナヅチLv.20(個体名:イタ吉)]


 強くなるという熱意は本物でレベルの上昇率は大きい。

 私はイタ吉に補助魔法をかけつつさらに下がったところへ向かうように指示する。

 私は……こっちかな。


 角を二回曲がったくらいではこの複雑な細道からは抜けられない。

 彼等が道の真ん中辺りに来た時にイタ吉が正面から立ち塞がった。

 当然4匹は良い顔をしない。


「なんだ、オマエ? ヤル気か、ああ?」


 戦意を隠そうともしないイタ吉と4匹。

 答えは決まっていた。


「その持っているもの、ダメなやつだろ!」

「知ってるならしかたねえ、やっちまえ!」


 飛びかかる4匹。

 イタ吉は身構えて初撃を跳んで避ける。

 私は"以心伝心"で念話を飛ばす。


『"率いる者"で"三魔"を!』


 さっきの打ち合わせでイタ吉に"率いる者"のスキルは伝えてある。

 イタ吉がキズナが繋がっている対象内なのも確認済み。

 問題なく私の魔法が使えるはずだ。


 ただし貸すスキルは全てレベルが1になる。

 これは"率いる者"のレベルが1なせいだろう。

 それでも魔法なら使いやすいはずだ。


 私から行動力が少し吸われる。

 うわっイタ吉がスキルを使う場合も私負担か!?

 イタ吉が二足立ちして前足を何かを抱えるように構える。


 光が集まり炎が形をなす。

 使う魔法は……


「フレイムボール!」

「うわっ! 火を!?」


 細い路地で火の玉を飛ばされて避ける場所もなくそれぞれかすっていく。

 一番後ろにいる相手が身体に受けたが耐えた。

 ニヤリと笑っている。


「なあにこけおどしだ、こんなのは……」

「バカ!! 避けなきゃ荷物が!!」

「……ああっ!?」


 いくらホンニンが無事でも荷物はそうはいかない。

 持っていた小袋にあっさり引火している。

 混ぜものをたくさん使ってかさ増しして作った葉巻が入った袋だ。

 慌てて消化に走るが。


「それ! "フレイムボール"!」

「オマエ!! 今は!!」


 容赦なくイタ吉がフレイムボールを連発する。

 必死に避けて荷物は身体を張って守るが限度がある。

 荷物を守るために彼等が身体を張って受けるハメになりコゲコゲだ。


「ようし、じゃあやるかな!」

「な、何を!?」


 既に細い路地で必死に荷物を守った彼等は息もたえだえ。

 別に生命力が尽きそうというわけではないがノックアウト間近に見える。

 イタ吉は前足の爪同士をかち合わせて研ぐかのような音を鳴らす。


 四足になり駆け寄って爪が輝く。

 武技発動の合図だ。

 イタ吉が彼等の間を駆け抜けながら前足を高速で振るう。


 速度重視で放たれた斬撃は光と共に多数の爪跡を残す。

 イタ吉が駆け抜けた3匹はあっという間に全身の皮を裂かれてバタリと倒れた。

 死んでは……ないな。

 目を回すかのように気を失っているだけだ。


「"乱れ切り"! どうだ!」

『おお、新技かな』


 少なくとも私はこの技を知らない。

 私は位置バレすると困るから念話で話しかける。

 完璧に決めたイタ吉に恐怖するのは最後の1匹。


「ひ、ひいい!!」


 慌てて背後へとかける。

 さっきの幻の壁向こうへと逃げて助けを求めるつもりだろう。

 だけど、させない。


 最後の1匹が角を曲がるとそこにいるのは私。

 いやはや、隠れてスタンバイしておいて良かったよ。

 さあて。


「こんにちはー」

「ヒエッ!? ま、まさか!!」


 土の新魔法。


[ロックボーン 棒状の石を作り出す]


 小さいのを作り出す。

 作り出した瞬間は手元に置くか投げるかを選べるので遠慮なくぶん投げた。

 最後の1匹の頭に当たりパーン! と石が砕ける。


「ぐえっ!?」


 変な声を出してノックアウト。

 イタ吉もこっちへ顔を覗かせてきた。


「見てたよ、凄いじゃん」

「まあな! とりあえずこいつらどうしようか」


 くたばっている間にきっちり拘束と"無敵"を使い戦意をなくしておく。

 回復はしない。


 さてと後は幻の壁の向こうにいる相手だけだ!


「さっきのゴタゴタで気づかれたか?」

「いんや、くつろいでいる。音は外からも中からも防音する魔法がかかっているみたいだね」


 視界を飛ばして確認したから間違いない。

 ラッキーだ。

 このチャンスを逃す手はない。

 早速私達は乗り込むことにした。

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