千四十五生目 死者
頭が揺れる。視界がにじむ。
恐ろしく肉体全体の感覚が狂う。
ああ。まだ私の身体には穴が開いたままだ。
けれど叫ぶ。走る。
魔法が放たれて私以外の4者とも致命的な穴が塞がれていく。
ああ。そうだ。あとは。
「糞が……!!」
「ガアァ!!」
空間が裂けて回転刃が飛び出る。
もはやそれを思考せずに防ぎ跳び避けて。
グレンくんの手元へ手を伸ばし。
"鷹目"で見てももう私のマントは脱色しきっているが。
それでも絞り出すんだ。
神力が残っていなくても私の身体全てを力に変え。
勇者の剣が目覚めるほどに巨大な神力を……どうにか……!
「ロー……」
「あとは……頼んだ」
勇者の剣が確かに輝くのを見て。
1つの刃が私の身体を貫いた。
何があったのだろう。
落ち着け自分。
光が前から流れてゆく空間で"私"はそう念じていた。
空間には私以外[]何もない。
腕を伸ばそうと足を踏み込もうとしても何も起こらない。
身体が動かないのではないことは直ぐに把握出来た身体がない。
ここには"私"も無いのかと焦る心とは裏腹に落ち着いた頭の部分で私は思考を走らせる。
そう、これは夢だ。
なあんだ夢かと思えば気持ちは楽になった。
前から後ろへ光が流れてゆく幻想的な景色を楽しむ余裕も湧いてきた。
後は身を任せていればいずれ夢は覚めるのだから今楽しまなくてはとまさに夢心地な気分で捉え……るかバカ!!
違う! "私"はドライだ!
何かこの景色は知っている。
だがアインスやツバイは……
そう意識した途端"私"の内側から何かが溢れ出てくる。
これは……眠っていた"私"の意識!
起きろ! おい! 寝てる場合じゃない!
[んあ……なにぃー? うーん、あ、あれ?]
[ここは……? なんだか見覚えるような……それに私……]
よしよし。
いい感じだ。
言語が言語の体をなしてなくて最早
意思だけが伝わってくるような感じになっているがそれはよし。
なんでこうなったか。
どうしてこうなったか。
ひとつひとつ振り返っていくぞ。
[ええと……確か私達は魔王を討伐するために――]
――――――。
――――。
――。
[つまりだ、"私"たちは……死んだのか?]
[そうっぽい?]
うーん……確かに私は刃に刺されて……
けど待ってほしい。
ここはなぜか覚えがある。だよね?
[それもそうだな……"私"はなぜかこの奇妙な空間を知っている]
[わたしもー! まあおんなじキオクだから、そうなるよね!]
このままではラチがあかない。
少し探索してみよう。
肉体がなくとも意思があれば探索は可能。
そう。死霊術師なら。
[死霊術師じゃねぇんだよな]
[ギリギリきゅーだいてんのギリギリみならいだよね〜]
うん……まあわりと理論はわかっているはずなんだけれどうまくはないね……
ただ私の生がまだ早すぎるからそう素早くできるものでもないとも聞いたけれど。
適性はともかくやれるだけやってみよう。
少しずつ歩むように私は進んでいく。
つまりは思考の中で感じ取れる世界の先にポインティングし……
そこに自動誘引されるように自分を滑車で引っ張るイメージ。
これを筋力なしでとにかくイメージで構成しなくてはならない。
身振り手振りをするものがないからなあ。
それはともかくとして。
転生したとき……かな?
なんだかそのあたりで見覚えがある気もする。
目覚めたら消えてしまうそんな泡沫の夢。
[うーん、なんだかおかしいよね]
[うん?]
[わたしたち、ゆーしゃの剣にメチャクチャパワーおくれたよね? でも、もうかみさまパワーはカラッケツ、いったいナニをおくったの?]
[んん……そう言われれば確かにそうだな。いくらなんでも都合のいい奇跡が起きている]
アインスやドライの言うとおりそこは変だ。
奇跡か……そういえば蒼竜に『後は奇跡でも起こせばいい』とかなんとか言われてた気がするなあ。
神格……神のうつわとか結局なにに使えば良いかわからずじまいだ。
そもそも私達が死んでいるというのも少し変だ。
死んで肉体がないというわりに無駄に元気すぎる。
もはや死霊術師見習いとして手癖のようにやっているが自己保全の術を使えている。
今の霊魂移動の術にしてもそうだ。
これらはきっちり行動力と術式を使用している。
私が邪霊体魔物に変化したのならともかくどう考えてもステータスフラット。
だが生きているともいい難い。
まずまあ身体がない。
そしてログの展開や"観察"などのスキルの一部が使用不可。
口か光神術"サウンドウェーブ"使用による音声発信ができないため呪文詠唱はできない。
死霊術師として学んだ技術は事前準備がいるものじゃなければひととおり可能。
ならばやることは知識に従うのみ。




