千四十二生目 消失
小イタ吉が躍り出るとウェーブビームがグレンくんの位置とズレて放たれる。
攻撃の誘導スキル……便利だ。
当然グレンくんは別方向へ逃れる。
「あの光線には当たりたくないな……!」
インカは全身が針を変化させた重鎧に包まれている。
受けたらそりゃあ腐食されそう。
生体とは言え実体は金属に近いし。
というわけでインカもウェーブビームを避けつつ今度は右大動脈に突き刺しそのまま魔王の椅子さらには座っている魔王ラキョウまで。
一瞬で駆け抜け重鎧を変形させた槍で突き切り裂いた!
「煩いハエだ」
「ちいっ」
だが槍の痕跡はすぐに消えてゆく。
手応えもなかったのかインカはすぐに下がって追撃回避。
しかしその回避先に空間の裂け目を置かれ足の鎧を刃で引っ掛けられた。
「わっ!? っと」
致命的なダメージにはなんとかならずに下がりきれる。
「ラキョウ! 俺たちに素直に殺されろ!」
「諦めろ、所詮縋ったのはアリもしない希望と知れ!」
ダカシはグレンくんの方へと寄って空間から飛び出てくる刃を剣戟で代わりに受ける。
結局グレンくんに余計なエネルギーを使わせると戦えないからだ。
先程の斬撃……前のただ大きく強くした破壊の力とはまた別の方向性を感じた。
ジャンルとしては小手先かもしれない。
けれどそれが恐ろしいほどに有効だった。
強大なパワーを繊細に留めておく必要がある。
それをうまくコントロールするには私とグレンくん双方の能力と同調が必須だ。
こちらの神力残量は4分の3。
効率化をはかれば十分行ける。
「グレンくん、どう!?」
「現在再構成中……変換……断ち切る力……再展開開始、よし、ローズ、いけそう!」
みんなでグレンくんへの攻撃嵐から守る。
飛行自体は全員できる。
その間にグレンくんは勇者の剣へ再びさっきのことが出来るように再現。
そろそろ神力が必要かな。
グレンくんが背の翼を羽ばたかせ飛び回り上空から私の方へと近づき……
「えっ!?」
「あれっ?」
突然グレンくんのバランスが崩れる。
いやグレンくんだけじゃない。
私以外の宙に浮いた面々が次々落ちだした。
着地狩りされないようグレンくんに私が飛びつき動きを止めないようにする。
当然のように空間は裂けて床から刻むように刃が飛び出た。
「危なかった……翼の感覚がいきなりなくなって……あれ?」
「みんなの翼がなくなっている……まさか!」
私は自前だがみんなはグルシムからの借り物。
そしてグルシムはある程度の範囲しかカバーできないと話していた……
そういえばと思い出し思考を回すと微弱ながらドラーグからの念話が感じられる……
『ドラーグ!?』
『……ズ様……王は……高い……んな小さ……見え……』
『だいたいわかった、ありがとう!』
ほぼ真上に飛び続けていた外側魔王。
ドラーグによるともはや小さく見えるだけになったほど距離が離れているらしい。
もうコレ以上は念話すらも届かない領域……
この惑星の保護された概念の壁に突入しているのか。
「ゲァハハハガァ! 無様に落ちたな!
これほど高く飛べばどうやら神の加護というものは、届かないらしいな!」
「みんな! 今は耐えて! 魔王ラキョウを絶つにはまだ遠い!」
「うげげ、これもしもの回避が出来ないからきついぜ……!」
「もっと連携して避けるしか無い。空中に身を乗り出す瞬間が1番隙だらけで危険だ」
「もしもの時は俺の鎧で盾になる。妹や勇者を全力で生かすんだ!」
魔王ラキョウの下衆びた笑いが響く。
イタ吉たちは軽やかに身を回しなんとか避けているものの。
敵の攻撃は本当に絶え間なく来るためこのままだといつかへばる。
ダカシはグレンくんをうまく守るように身を挺している。
だがほんの少しで剣をこえて身を完全に削られそうで生命力も少なからず削れている
もちろん"ヒーリング"は飛ばしているが命はなくなれば戦いはそれまで。
後でやれたら蘇生するが運も絡む……
だがグレンくんは守らないと……
インカは私を庇うように回り込んでくれている。
後ろ足も痛むだろうが"ヒーリング"で我慢してもらうしかない。
まだこれからも傷が増えるのだから。
それを覚悟するようにインカも削られた端から新たな鎧を重ねもはや使い捨てるように生やし直していた。
私はグレンくんを安全地帯に流れるようおろしつつグレンくんと手をあわせ勇者の剣に神力を送り込む。
リチャージを終えイメージ同調。
勇者の剣"次元斬"構成開始。
"同調化"により2つの意思をここに束ね。
同時に加速踏み込みをする。
グレンくんの全速力に私が合わせイタ吉たちが拓く道を走る。
「「2撃目!」」
「「行けえ!!」」
大量に思考試算しなおされ直感的に感じ取った先への道。
たったひとつ見えたそれを最短距離で突っ走って……!
右動脈へ斬りつける!




