千四十一生目 本質
"止眼"で脳内時間を伸ばして情報整理中。
勇者の剣はおそらくは単なる凄まじく強い剣じゃなくてそれこそ『概念』に干渉できなくちゃいけないんだ。
大神と小神の材料をふんだんに使っているのだから。
単なる生物の身でありながら神との……そして魔王との垣根すらも壊し世界の法則を貫く刃。
おそらくはそれが求められる姿。
だがそれにはグレンくんの理解以上に身がまだ未熟。
準備を整えた先代勇者ですら引き出しきれなかったその力。
おそらくはこれが機能不全を起こしているのは神の力が足りないのだ。
神の素材をふんだんに使って私が借りていた神の力をあれだけ吸ってもまだ。
なぜニンゲンの……勇者の身で扱い切れないで機能不全を起こしているのかと考察はあとだ。
特に先代は本当に勇者の剣を単なる強い剣だと思っていたから使い切れずあげく錆させてしまったのかもしれないし。
ならば現代ではそれらを踏まえてひとつひとつ越えるしかない。
"止眼"を解除してグレンくんの中で情報整理されていくのをなんとなく"同調化"で感じる。
やはり"同調化"と"止眼"は組み合わせると相手の脳内時間も伸ばせるのか……
「いける?」
「もちろん!」
グレンくんの意思が伝わり目の前はどこから迫ってくるかなんとなくわかった。
敵殺意が形になっているのが見える。
イタ吉たちの時も少しは思ったが私の慣れでより理解が深まり把握できだした。
当然のように私達を180度取り囲むように配置するからこそグレンくんを掴んで飛ぶことで避けられる。
囲むという配置そのものもは良いが素早く飛び回ればそれは敵にとって振り回されるだけのこと。
さっきまではできなかったがなんとなく来る位置がわかるのなら余裕!
「ちょこまかと!」
そしてその間にグレンくん手にある勇者の剣へと力を注ぐ!
マントの神の力……使いすぎに注意しつつ。
グレンくんは自身の勇者の力を剣へと注ぎこむ。
「ヤアッ!」
「まだ……もう少し……!」
アインスに軌道制御を任しているためかなりハチャメチャな飛行。
ただそうしないとどうみても空間の裂け目攻撃からは対応できない。
当然他のみんなも仕掛けようとして魔王に攻撃を仕向けられている。
逆に言えば魔王の意識があちこちに割かれているのだ。
私だけに構っていられないから突破口がほんのわずか生まれる!
「す、すごい避け方……!」
「グレンくん、大丈夫!?」
「もちろん!」
私と違ってグレンくんは例え対魔王能力が高くとも攻撃の被命中時は大きく生命力が削られかねない。
だから無茶機動も少し我慢してもらわなくては……!
イバラに鎧をまとわせ空間の裂け目から飛び出す刃たちを防ぎ……
無理やりこじあけ接近!
「グレンくんと私で、イメージをひとつに!」
「神の力は概念の力……勇者の力は創造の力……切り裂くのは遥か遠くにある、近くのそれ……前のは力任せだった。今度はちゃんと見定めて、斬る!」
"同調化"は"以心伝心"と違って勇者の剣の実態が見えるわけではない。
けれどグレンくんを通して伝わるのだ。
勇者の剣が今その力花開かせようとしていることを。
空魔法"ディメーションスラッシュ"を互いに意識し私が唱え……
その力を発動するのではなく勇者の剣に合わせるイメージ。
「何だ……? いけっ!」
「させない!」
敵の大動脈付近までこれたものの目の前の空間裂け目から球体が複数。
しかしきっちり大盾ゼロエネミーを構えて……
敵のウェーブビームを防ぎ切る!
「厶……」
「「いっけぇ!!」」
同時に飛び上がり……
その実体の見えるナイフ部分を当てるように。
飛び降り振り下ろした!
グレンくんから見えたイメージはあの刀。
グレンくんが気に入っていた形状だ。
それが敵の見えない魔の力ごと断つように。
断つのは流れそのもの。
見た目に囚われず本質そのものを断つ。
勇者の剣はナイフごと魔王の大動脈に切り裂かれ……
切り裂いたところから強く光が放たれる。
そして魔王の椅子へと流れていたエネルギーが目に見えて止まった。
まずは1本残り2本!
「次元斬! 決まった! おわっ!?」
「危ない!?」
「ぐ……く……! 何だと……そのようなことが、なぜ……! だが、この程度など!」
さすがに魔王ラキョウも怒ったらしい。
私たちに大量の空間裂け目と回転刃を向けてきた。
急いで跳んで解散し違いに狙いをそらす。
避けられるものは避けてそうでないものはなんとか鎧で受ける。
ノコギリ状の刃が回転しているからかなりガリガリ削られてすごく不快な振動。
同時に勢いも結構あるから無傷とはいかない。
たいてい生命力は削られる。
無理やり斬り裂いて跳ね除ける勇者の剣がおかしいだけで。
当然敵の狙い本命は勇者の剣。
球体がウェーブビームを放ちグレンくんの背後から狙っていたのを大盾ゼロエネミーでしっかり防ぐ。
さらに前方に現れた球体は……
「残念させないぜ!」
「ありがとう! イタ吉たち!」
小イタ吉が躍り出て攻撃が強制的に逸れた!




