千四十生目 破壊
「勇者の剣、か……」
魔王ラキョウにエネルギーを送る大動脈に攻撃が当たって通じているはずなのにまるでその手応えがない。
つまり斬れたのに切れていなかった。
それをグレンくんは敵が次元ごと違うからだと看破したが……
次元ごと異質な存在……試してみるか?
「私が前に出る! 少しカバーを!」
「何か試すのか?」
「ならやるぜ!」
イタ吉たちと"同調化"による連携だ。
目の前にたくさん飛び出てきた空間の裂け目。
小イタ吉が躍り出て大きくした爪の光で衝突。
さすがに誰かが当たりに行けば展開速度よりこちらの移動が勝る。
さらに囲むように多数の裂け目。
尾刃イタ吉が刃を振るい私は小イタ吉を抱きかかえ上に飛ぶ。
裂け目と避け目のあいだをイバラでこじ開け無理やり通る!
そして急加速落下しある程度の距離に着地。
小イタ吉を離して……
「少しだけ止まるよ!」
「あいよー!」
空魔法"ディメーションスラッシュ"!
私の手もとに発生する光の刃。
それを思いっきり回転切りのようにし……振る!
当然敵の刃も私達の足止めを狙ってくる。
空間の裂け目から斧やらドリルやら豪華に飛び出してくるのを……
小イタ吉が放った能力で全て小イタ吉の方へ飛び出す!
地味だし効果も1瞬ながらこの『敵の攻撃をこちらへ向ける』能力は凶悪。
しかも誘導しておいて自身はそこから身軽さを利用し離脱。
刃同士は変にぶつかり合い機能不全。
私はぐるりと回って手元の光がどんどんのび……
円状に魔王ラキョウとそれに連なる横2つの動脈に光がつく。
私の背後は発動させなくていい。
前方部分だけ空間ごと斬り裂く!
次元を超え裂いてくれ!
切れるような音と共に景色が一気にズレた。
すぐにそのズレは治るが……
私達のいる次元空間ごと裂いた1撃。
それは確かに敵に傷を残し――
「……ッ! 無事!?」
「ほほう。面白い。だがそれは曲芸の域を出んな。我の居る場所まで届くには、遠い」
「グッ!?」「うおっ!?」
傷跡が……残ってない!
僅かですら届かないのか!
さらに向こうから空間の裂け目からきた大槍で私達は吹き飛ばされる。
ギリギリ小イタ吉へのイバラ伸ばしは間に合ったので鎧化で守ったが……
そこそこ痛そうだ。
私自身も食らって痛かったが治療はイタ吉たちが優先だな……
「どうする……? どうしたら突破できる……?」
「グァアハハ!! 踊れ、踊れ!」
グレンくんが悩めば悩むほど魔王ラキョウは愉しげにあざ笑う。
私たちに大量の空間裂け目を仕向け必死に避けさせ……
それを椅子の上で眺められ続けているのなんだか腹が立つ!
「クソッ、分かった上で勝てないってのか!?」
「そう、その絶望……絶望こそ愉悦ろ、! そう、我は……無敵だ!!」
「無敵……!」
私の"無敵"と関係がないことはわかっている。
ただあんな全てを敵に回しつつ通らないから無敵と言われると……
なんとも虚しく……そして絶対的な隔絶を感じる差だ。
「まだ……まだ手はある! だから、折れないで!」
「次はどうする!? 勇者の力もさっきの魔法も効かないだなんて!」
「足掻け、もがけ! そうしたほうが、より絶望は深くなるというもの……!」
ハッタリでも今考えながら動け!
当然足を止めれば空間の裂け目に囲まれる。
広い空間を縦横無尽に飛び回りつつグレンくんたちの方も見る。
そうだ……魔王は神すら越えた場にいるといっていた。
だがならば……もしかしたら!
「グレンくん、合わせて!」
「えっ、う、うん!」
グレンくんと"同調化"を使って……成功。
グレンくんとのつながりを感じる。
前までよりも強く。
「これは……うん!」
グレンくんも私の意思が共有されやることが把握できたらしい。
ちょっと"止眼"で脳内時間だけ飛躍させ整理。
なにきっとたぶん簡単な話だ。
まず外側魔王そのものは神の力を十分恐れていた。
理屈として私達小物相手ではあんなザル過ぎる大網を全身に纏いなどしない。 あれは大神たちへの対策だ。
そしてそれはおそらく魔王本体と呼ばれた内側魔王すらも斃される力があるから。
次元が多少違っても神たる手はおそらく届くのだろう。
ならば簡単。
いくら私の神出力は借り物で弱いとはいえ力は力。
勇者の力という魔王に少しだけ近づけるものにブレイカーと呼ばれる勇者の剣。
おそらくは『壊す物』とわざわざ魔王ラキョウが魔王の記憶から発言したりやたら腐食破損を狙うにはわけがある。
アレが唯一垣根を壊して届きうるものだからだ。
もちろんアレだけでは届かない。
私達はまだ勇者の剣を深く理解できる前に戦っている。
ただ金竜の……大神の尾を材料として元々使われているのは知っている。
おそらくはまだ勇者の剣は本来の力を引き出せていない。