千三十六生目 無貫
ダカシは魔王に1発膝蹴りを食らわして追撃を避けつつ下がる。
空間が裂けていきなり飛び出してくるならかなり前兆が薄いな……前衛タイプはともかく私が苦手とするやつだ。
「ちっ、なんだか入りが浅いな。しっかり入れたつもりだったんだが……」
「ガァァァ……!! オ前ラ滅ボシ! ジ・アースヘ向カウ……!!」
「ローズ危ない!」
えっ?
イタ吉が叫び身体は自然に半歩下がる。
……空間が裂けた!
そこから唐突におぞましい風貌のドリルが飛び出てくる。
いきなり……!
半歩では足りないのでイバラでブロックしつつ横へ吹き飛び避ける。
「ウッ! 助かったよ!」
「ローズは相変わらず変なところで戦闘感鈍いな!」
イタ吉たちがなかなか極まっているだけな気もする。
なにせ今のような唐突に出てきた刃の攻撃たちがみんなあったようだが全員自力でしのいでいる。
私だけか音も匂いもない攻撃にとまどうの!
"絶対感知"ならわかるんだろうけどその瞬間に使わないと意味がないしな……
ドリルなどの刃はまた空間の向こうへ消えている。
生成されるのは一瞬のみで長く持つものじゃないらしい。
今度は小イタ吉が仕掛けていた。
小イタ吉の接近に反応し今度は積極的な攻めの姿勢を見せるラキョウの怨念。
「ほらっ、大人しく死んどけ!」
「殺ス……! 排除……! 帰郷ヲ果タスゥ!!」
「なんだー……? 言葉があまり聞こえてない?」
小イタ吉の動きに合わせ次々次元から刃が飛び出す。
的確に刃が飛び出る位置を避けて接近しているが……
小イタ吉の声はあまり届いている様子がない。
「コココ殺、勇者、オ前等、全員、ミンチカカカカ潰ス帰ルルル!!」
「こいつイカれてやがる……!」
もはやラキョウ怨念体はその乗っ取っている何かと意思が大きくまざり正気すら吹き飛んでいるかのように見える。
小イタ吉が爪で攻め込む……瞬間にいつの間にか尾刃イタ吉が割り込む。
瞬時に尾の刃が瞬時に斬り裂いた!
小イタ吉の方に空間の刃が飛び出し毛を散らし避ける。
尾の刃が斬り裂いたもののいくつかは空間の刃に防がれるが……
それでも手数が上回りラキョウの怨念はさらに叫ぶ。
「ガアアァァ!!」
「どうしたー、この程度か!?」
イタ吉たちは飛び出る刃をそらしつつ退避。
かわりに私が入りイバラで空間から飛び出る刃と斬り合う。
イバラトゲ部分鎧化で弾く!
またみんなのところにも様々な刃が大きく飛び出て振るわれる。
みんなかすりはしているものの防具で塞がれたり薄皮1枚剥けた程度で大きく生命力が削られたりはしていない。
敵も底が見えないが浅いとはいえイタ吉の刃も通っている。
ラキョウか取り憑いている魔王が意思をはっきりと取り戻さないかぎりいけるんじゃないか!?
私は空間の刃とかどこにでるかまだまだはっきりわからないので愚直に見てから避ける。
難しいようで今の"ネオハリー"の身体能力と元々動くものならしっかり見える目が合わさって意識さえしていればなんとかなる。
目の前首に向けて空間が避けたので屈んで駆ける。
目の前縦に空間が裂けたので針を鎧化したのを肩に生やし身を翻して擦るように避ける。
そのまま直進!
最後足元から空間が裂けたのを跳んで避けそのまま飛行!
距離十分。
イバラを伸ばし鞭剣ゼロエネミーをとばす!
"千の茨"として伸ばし多数に別れたイバラたちが一斉に敵へと襲いかかる!
当然いくつも斬り捨てられ切り払われる。
しかしその後ろから横から次のイバラが伸び攻める!
「グガァァァー!! 潰ス、潰シ切ル帰ルコココ……!!」
「ラキョウ、魔王、今その苦しみから解き放つ!」
大量のイバラが猛烈な勢いで叩き刺し爆発し傷つけ傷を抉る。
一瞬でその全てを行うが何度も空間に裂け目が生じイバラたちを切り刻んでいく。
さすがにスキだらけなため鞭剣ゼロエネミーも空間の裂け目の隙間にねじ込み斬り裂いて開く。
十分な能力を維持できなくなる前にイバラたちを引っ込める。
全部斬られてからだと修復速度や行動力摩耗に差がある。
それに……イバラの代わりに土魔法"Eスピア"を"二重魔法"2連続!
つまり4回の"Eスピア"をあらゆる方向からラキョウの怨念に突き刺す!
重さも太さも……そして何より頑丈さはこの魔王の身体が変質したもの。
楽には弾けず貫く!
「ううん……?」
「今度は俺だ、魔王! やぁっ!!」
確かに土槍は突き刺さりイバラで滅多打ちにした。
それなのになんなんだこの実感の薄さ……
実体のない幽霊を殴る感じでもなく……かといってしっかり入った感じもない。
なんだかあのラキョウ怨霊……私達はちゃんと理解して戦っていない気がする。




