千二十九生目 破壊
戦いは追い込みに入っていた。
暴れる魔王に私達が追い込まれているのか。
暴れなくてはいけないほど魔王を私達が追い詰めているのか。
「うぐ……」
「ハアァ!! そろそろ! 止まれ!」
「本当に効いているんですか!?」
「暴れっぷりを見るに、相当キレてはいるようだな」
魔王は未だたまに尾を激しく地面に叩きつけたりもする。
しっかり張り付くか離れていないととんでもない衝撃でふっとばされるが……
だいぶ上半身の方でも苦戦させられているらしい。
もちろん魔王からたしたら本当に僅かなダメージだが……
それでもここで攻撃をくわえる!
「ウグッ!? 剣が!?」
「もう持たないか……申し訳ありません、先に離脱します!」
「早く新しいのをもらってこないと……」
「わかった! ナブシウからもらってこい」
すでに弱点部分に多数の折れた武器が刺さっている。
兵士たちは急いで撤退し本部にいるナブシウから新武器を調達する予定だ。
実際にはナブシウが切断概念を付与した武器を後方兵たちが前衛兵に配布しているのを受け取るのだが。
「そろそろおとなしく、なれッ!」
強く何度も何度も様々な攻撃を叩き込んではいる。
そのたびに魔王の反応があちこちと出るが……
生命力すら見れないから効いているかすらわからないんだよなあ!
『また輝きが一層増し、埋め尽くそうとしている、高貴な空をな!』
『え!? 空をとぶって!?』
グルシムからの念話。
それはまずい!
「『みんな! 魔王が飛行しそう!』」
「なっ!」
『げぇー! ついにか!』
確かにわずかずつではあるものの翼が開きだしている!
イタ吉の念話のあとどんどん他の念話も飛び交う。
あの巨大な銛や鎖も先程の尾大回転で全部薙ぎ払われている。
『ぼ、僕が頭のところに行って時間を稼ぎます! 頭を砲撃して3つの頭をもっと錯乱させたらなんとかなるかも……!』
ドラーグが砲を抱えコロロと共に飛んでいこうとする。
……いや。
『ドラーグ、救護を優先して!』
『で、でも……』
『グルシムもいるから、今は耐え時だよ』
『……わかりました!』
このまま行けば多くの兵が振り落とされかねない。
それがドラーグの砲撃程度でどうにかなるとは思えない。
その前に抑えられないと……!
「もっと刺激しろ! やつに飛ばせるな!」
「ぐっ……!」
「う、腕があ……!」
ダカシの檄が飛ぶがもはやみんな苦しみのほうが興奮より勝っている。
兵士たちは武器を持つ腕も震えながら弱点をついている。
こうなると厳しいな……
「治して耐えるよ!」
光魔法"ヒーリング"を広域化!
現在ダメージを食らう原因が少ないから火力と回復に変化。
結局力の酷使で筋肉がボロボロなだけだからこれで一時的に威勢をつなぐ!
大量にいるからちょっとやそっとでは間に合わないが……
これで各々すこしずつでも!
「か、身体が楽に……!」
「ありがたい! まだ戦える!」
「無理はしないで! けど、どうにかして止めよう!」
攻撃を与えるときは渾身に。
汗を拭い再度振り下ろす。
まるで土でも耕しているかのようだが実際は魔王の弱点を殴っているだけだ。
何度も。何度も。何度も繰り返し。
翼が大きく広がったあたりで……
「この……! そろそろ……! 何かおきて!」
さらに振り下ろす。
たくさんの兵士にたぬ吉やダカシ。
そして私が力を込め――
「うん!?」「え?」「なんだ!?」
――いきなりその弱点から光が拡散した。
特に何かあるわけでもそこまで眩しいわけでもなく。
同時に今まで感じていた特殊な魔力反応が消え……
「「ヴォオオオーーッ!?」」
「なんだ……? 魔王が苦しんでいる……?」
「弱点を……1つ潰すことが出来たの!?」
唸っている……
苦しみもがくように魔王がうなり翼が閉じる。
特に尾は元気がなさげだ。
「やった……! ここの弱点を潰せたんだ……!」
「よし……なら、俺たちは次の準備をしに戻る。何かあったらまた呼んでくれ」
「やりましたね! ダカシさん、ローズさん! みなさんー!」
「「お、オーー!!」」
最初驚いて詰まったが歓喜の声が響く。
もちろんまだ1つだけ。
他も直に潰せるだろうが……
私は頭の方へ飛ばないと。
「「グ………ウォオオオォーー!!」」
「ま、また動き出した!」
私はダカシたちと別れ頭の方を目指す……途中で咆哮された。
強烈な力で私ごと吹き飛ばされる!
慌てて魔王背中にイバラを伸ばしてその巨大過ぎる鱗を掴む。
背の翼がまた開いている……さっきより速度が早い!
なんとかして頭の方へ行って時間を稼がないと……
『……む? 受けていないやつが? 我が空の力。輝きに突っ込むとは天界の戦士か……!?』
『えっ!? 乱入者!? 誰……?』
そしてこの咆哮が止むタイミングで誰かが遠くから飛んできたらしい。
グルシムの支援を受けず自力飛行する誰か……?
どちらの味方にせよ早くグルシムが見張っている魔王頭部までいかないと。




