千二十六生目 二重
魔王との戦いは苛烈さを極める。
気づけば歩むだけで兵器は蹴散らされ多数の兵が血まみれで本部にワープで搬送される。
魔物兵なら鎧の効果で直接アノニマルース行きだろう。
本部ではおそらくホルヴィロスがせっせと治しているだろう。
ナブシウはどんどん新しく切断の概念を付与した武器をつくりグルシムは場の味方に飛行の概念を作り出してみんなをとばす。
どれか欠ければ楽に負ける……
「グルシム! もっと早く翔ばすことはできない!?」
「光よりもその向こうか! 砕ける肉体がそこにあれば、だが俺の限度もある! さらなる鍛錬だな、もっと輝くには!」
「そうか……翔ぶ側とグルシムの出力バランスの限度か……そうだよなあ、もっと飛行の訓練や力量の高さがないと大変なことになるものね。わかった……ならばそれ以外でどうにかしなくちゃね」
「栄光は我らに常にある! 輝きを撃ち抜けー!」
グルシムは私の元をすぐに飛び去って魔王頭の方へ行く。
グルシムも不安ではあるが魔王の様子を探る重要な仕事だ。
密接している私達では把握しきれないことがあるからね。
問題があるとすれば読解できるの現場で私くらいなことだ……
まあ嘆いていても仕方ない。
やっていくだけだ。
私はその後も左横腹にうなじそれと左翼と背腰さらに右モモや右腕付け根そして尾真ん中。
この7つの弱点にいる翼を倒すため飛び回った。
グレンくんと別れ……
時には私自身が吹き飛ばされ……
翼を次々落とし。
1つ落とすたびに兵たちが次々脱落して……
それでも砲台は撃ち続け。
魔王の脚は鎖とおもりが巻かれ。
例え豆鉄砲程度になったとしても全身に砲弾が浴びせられる。
もはや兵士たちはハックの能力でスレスレ生きてはいるだけで。
それで数を減らしつつも。
「「ウオオオオォー!!」」
「これで!」
「また1つ翼が落ちた……!」
のこり1対2枚まで減っていた翼。
それがついには1枚片翼にまで減る。
これだけやってまだ魔王自体には大したダメージが入っていないのが恐ろしい……
私も汗がすごくて手や足がびしゃびしゃ。
みんなも疲労の色を隠せていない。
もはや何時間殴っているのか……
だがゴールが見えてくればやる気はわく。
みなここに飛んでいるのは無傷ながら何度も死にかけた者達のみ。
その目はまさに死線をくぐり抜け続けた歴戦の顔ぶれになっていた。
逆に言えばもう戦闘兵は2割ほど摩耗している。
持ってきた兵器もいくらかは蹴散らされ尾で叩き潰され済み。
まだまだ残っているとは言えそれらも疲弊してないといえば嘘だろう。
実際の戦争時は何日もやるだろうが魔王戦はあまりに一瞬が重すぎる。
そして翼を落としたということは……
「魔法が、来る!」
「妹! 弟!」
「急ごうー!」
再度残った翼が輝き出す。
攻撃というのはいくつか種類があるが……
わかっているからこそ恐いという類のものだ!
私達のいる場所に向けて魔王の身体を基点に外空間へ向けて空気ごと滅する魔法を放つのがこれの効果。
武器の振りとは関係なく発動し……
効果後空気の戻りで飛行の概念がついている味方たちはみな凄まじく吸引される。
単純故に強力。
「なっ、今回は発動地点が広いぞ!?」
「全力で逃げれば間に合うー!」
「マジか……拡散急ぐんだ!」
翼が狭まるたびに効果が強力になっていたのは感じていた。
私達の範囲を広く覆うように魔法が用意されている。
私はともかくみんなの避難はギリギリだ!
ひと足先に抜けてイバラを即伸ばす。
魔王の身体自体とインカやハックそれに近くの兵達に向け"千の茨"!
極光が走る!
そして……光が収まれば今度は猛風!
みんな巻き込まれまいと魔王やとげなしイバラを掴む。
重い……!
範囲の広さは風の強さや長さにも影響するのか。
終わるよりも先に槍による薙ぎ払いが来る!
私たちみたいに魔王へ張り付いている者は平気だが……
「「わあああーっ!!」」
宙に浮いていた面々は別。
一部が切り裂かれ"クラッシュガード"を消費した。
早く準備……!
「……んえぇ!?」「ハッ」「悪寒が……まさか!」
「「魔法がまた来る!?」」
嘘だろう!?
急激に高まる魔力。
今撃ったばかりなのに……!
私達は魔法を撃たれれば攻撃能力はほぼ削がれてしまう。
おそらく向こうも無理をした連続発射のはず。
ここを乗り切れば……!
「範囲は……!? な、なんだ!?」
「うわぁ、これまずいよぉ! すんごく広い!」
「翼の前全てから離れるんだ! 早く!」
「「ウ、ウワアァァ!?」」
全員全力撤退!
本当になりふり構わないのか左横腹のかなり広範囲……
翼すら含む戦闘区域全体を狙ってきた!
空魔法"ファストトラベル"は間に合わない!