千十六生目 脱色
魔王が暴れつつも魔王周囲を纏うように網目を張った。
攻勢結界であり触れれば蒸発する。
まずはあの網向こうへと行かなくてはならない。
幸い線同士はかなり規則的な網状でなおかつ1つ1つが私達からしたらあまりに大きい。
というよりほぼザルである。
接近すれば接近するほど魔王の大きさとともに網目は素通り出来るのに余りある大きさと感じた。
もちろん近づくことでさえ危ない代物だが……
これなら予定通り兵器も運び込める!
なるほど……この網目。
相手がもし魔王と同格……それこそ蒼竜なんかであった場合。
非常に厄介なのだろう。私達を相手することは本来考えられていない。
無事素通りさせつもらった。
「弱点接近!」
『弱点近いぜ!』
『弱点だ!』
『なるほど……コレが弱点だね』
次々"以心伝心"を私から"率いる者"で借りた念話が飛び交う。
魔王の弱点はそれぞれ遠い位置にあるため少ない兵数をさらに分けなくてはいけない。
とはいえどんどん後続がやってくるが……それまでは耐えねば。
私が近づいた弱点は横腹の一部。
ぐっと近づいて分かったがここには確かに何かがいる。
魔王だが魔王じゃない存在を感じる……
皮膚の上に何枚かの巨大な鱗が浮き見た目そのものに大きな違いは少ないが……
「お、おいアレ!」
「インカ、ハック、みんな! 来るよ!」
――空間が裂ける。
そう表現するのがただしく思えるほどに眼の前にある魔王の身体が裂ける。
そして中から這い出るもの。
それは美しく、そして思わず顔をゆがめてしまうような存在。
翼だ。
そこには3対6枚の翼と大きな槍だけが出てきた。
純白で美しい翼は空間が閉じても生えるべき本体がそこにない。
かわりに白金色の巨大な槍が宙を舞って身構えられる。
「綺麗……だけどぉ……」
「なんだ、これ、敵、なのか……?」
「すごくまずい予感しかしない……!」
1にも2にも……
"観察"!
[魔王]
あっ……あれ?
例のごとくほとんど読み取れない魔王のデータが読み取れるだけ?
何度やっても同じ……つまり……そうかこれは!
「ヒィィ!」
「ま、魔王の暴れにも気をつけなくちゃいけないのに……!」
「みんな! こいつは魔王の能力だ! そしておそらく……こいつこそが魔王の弱点……!」
裏で念話が飛び交う。
どこもかしこも同じような状況らしい。
やはり弱点にだけ現れている……
「事前の話にはない敵だねぇ……!」
「魔王も前回の反省を踏まえているってことだな、嫌なことに!」
「ハックはカバーを! 私とインカが引きつけつつ、事前の話通り1撃離脱を繰り返す!」
「オ……」
「「ウオオオォー!!」」
(やっと戦いらしくなってきたじゃねえか……!)
ドライの昂りはともかく兵たちは無理やり士気を上げるしか無い。
とにもかくにも私とインカが前に踏み込む。
ハックは兵たちと引いた位置で大丈夫だからだ。
「……わかるな……じんわりくるこの気配……俺たちみたいなカトンボすら殺しにくるという殺意が伝わってくる……!」
「……槍が来る!」
槍を振るう肉体はないため自由に動く。
みんなは軌道が読めないが……私なら読める。
今槍が構えられ……そう私のゼロエネミーと同じだから。
私のゼロエネミー出すタイミングを間違えないようにしないと。
「うん!? 何か大きいのが来るよ!」
「うぐっ、この感じ師匠たちの……それ以上……!? まずい!」
インカは何か感じ取ったのか私と同じ動きをした。
一気に下降。
そして槍は大きく光を纏いつつ動く。
「避けて!」「避けろ!」
「うわっ」「ぐっ」「え?」
それは大重量の大雑把な薙ぎ払い。
遠く離れた兵たちには届かないはずの位置。
……振りと同時にビームが放たれなければ。
極光が見えたのはここだけではなかった。
各地からその光線が瞬くのが見える。
なんと豪勢な蚊取りなんだ……!
「い、生きてるか!?」
「あ、ぶなかったぁ……!」
「くっ……全員……いる!」
「攻撃が当たって爆発したやつもいたな! 下がれ! 防御かかるまでは下がるんだ!」
今の瞬きで近くのところに確かに爆音がいくつか。
全員無事とは言え次をくらえば早々にハックの身代わり効果を喪失する。
あんな攻撃どうしろと……うん?
「色が……脱色している……脱色している……!」
「ど、どうした妹、確かに槍の色が変わっているが……」
「ほとんど脱色している……そうか、だったらまだなんとかなる!」
あの槍の脱色は神の力が失われたということ。
少しずつ戻っているが再チャージまでやつはほぼ単なる浮いた槍だ!




