千十五生目 対立
魔王を前に部隊が別れていく。
勇者含む強襲班は固まって勇者を守りつつ移動。
魔王の弱点は複数箇所あり同時に軍が展開していく。
グルシムが展開する飛行可能エリアは今の所本拠地から魔王へ向けて伸びている。
ただ少しずつ短くなり最終的に魔王の範囲カバーが精一杯になるそうだ。
今どんどん軍隊が到達しているから問題なさそう。
ただ兵器組はやや遅くなる。
魔王がそれまてまに動かなければ一斉にしかけるが……
「魔王行動開始ー!!」
「了解、魔王行動開始ー!!」
誰かが叫びそれを聞いたものがさらに叫ぶ。
……まあそう都合良くはいかないよね。
魔王はその3つ首をこちらの方へと向けだしたのだ。
真ん中だけは相変わらず上を見ている。
「……ス……」「……ル……」
「なんだ……?」
「帝国語……?」
その巨大な竜じみているがもっと神々しい何かの頭たちは唸るように何かを話した。
だがそれはすぐにはっきりとする。
「ユウシャ……コロス……ユウシャ……コロス!」
「ジアース……カエル……ジアース……カエル!」
「「うわあっ!?」」
全身がビリビリとしびれるほどの衝撃。
たんに空気の震えではない。
上位に位置するような存在が発する力が私達の存在を揺るがすような……そんな言葉。
私はともかくみんなは明らかに苦しみだし高度が落ちだしている。
これはまずい……
神という存在に飲み込まれかけているのか!?
「俺の輝きに任せろ! この戦い、聖戦とす、故に、煌めく光の"圧"は俺の輝きで昇華され、煌めく光すら撃ち抜く!」
グルシムが私達の近くを飛び回りひろく光を撒いていく。
すると明らかに私や兵たちにかかるビリビリとした負担が消えた。
神の力ぶつかり合いを中和したのか!
「グルシム助かる!」
「光宿す身であればこの程度容易いこと! では彼方にいる光の子らにもオレの輝きを届けに行こう!」
「ユウシャ……コロス……!」「ジアース……カエル……!」
ずっとゆっくり唸るように魔王は2つの首が話している。
そして……2つの首は互いを見つめ合う。
……何が起こるかと思ったら互いの頭をぶつけ合った!?
「ユウシャ、コロス!」「チキュウ、カエル!」
「一体何をしているんだ!?」
「もしかして、魔王の意思とラキョウの意思が混雑しているのか!?」
「多分、そう!」
グレンくんが推察したことはほぼ間違いないはずだ。
ここまでわかりやすく意思が割れているとは……むしろやりやすいかもしれない。
問題は……
身体が大きく揺れ動きだした!
「危ねえ! あの巨体を食らったらタダじゃすまねえぞ!」
ダンが叫ぶの少し遠くから聴こえる。 腕は大きく振りかぶり尾は波打ちだす。
そして頭同士は離れ……ぶつかりあう!
幸いなことに巨体ゆえ速度は非常に緩慢じみて見える。
実際は山が速度マッハ越えで突っ込んで来るようなものだが……
少なくとも機敏に細かく技量をもって高速であたり一面振り払う……みたいな芸当は到底できそうにないのが幸い。
「このまま暴れられたら、兵器どころじゃあ……! オウカさん!」
「ああ。我々は! 我々は砂塵に舞うテテフフのように的確に一太刀ずつ敵に浴びせろ! 行けー!!」
「「ウォオオオーッ!!」」
オウカの号令が響き次々と兵が飛び込んで行く。
グレン君は大事にはするが同時に必須戦力。
対魔王加護を発動し配る役割。
そこまで時間が持たない加護のため戦地で配っているわけだ。
効率は悪いがグレンくんしかできない。
逆に私の補助魔法はみんなに事前に話し私の直接的な仲間ならばだいたい"率いる者"を通して魔法を配れる。
ただ事前に把握と順序とおおよそ効果が切れる時間を逆算してのかけ直しを話したらすごい顔をされたが……
仕方ないので最低限に。
それとは別に各々の魔法素質により効能が左右されるので結局各々気をつけてもらうしかなかった。
特に土魔法"クラッシュガード"のような効果が発動すれば消える魔法は気をつけてもらうように。
あれならば1度光つき魔王の爪振りを喰らっても"連重撃"をセットされていなければ耐えられる。
「とにかく弱点に接近しないとぉー!」
「うわ……始まったぞ! 魔王から光が!」
近づいているイタ吉ははともかく私達はまだ遠い。
きょうだいで急接近……していたら。
事前情報通り魔王の周囲に複雑な光の線がまとわれる。
「あれが……1本1本が対城兵器並のエネルギーがある……」
「事前情報通りだっ! 怯むな!」
「隙間は見えているし知っている……! 私達人類の歴史が勝つ!」
「触れるどころか近づきすらするなよ! 蒸発する!」
グレンくんの話した通り1本1本の巨大なエネルギー量……それは素の龍脈に匹敵する。
ダンが叫ぶのはそれだけの危険がそこにあるからだ。
ゴウの話す通りニンゲンたちの歴史がアレに近づいた者の末路を語っている。
そしてオウカが啖呵を切って接近を促した!




