千十四生目 突撃
グルシムの力でみんな飛び出す。
軍事兵器も後で飛行の概念を付与し周りのサポートでとばすらしい。
めちゃくちゃだ。まさに神話。
これでもグルシムによると範囲が狭いからこそやれているらしい。
分神ではそこまで出力がでないので……
昔は本体で1つの世界を実質カバーしていたからこれぐらい可能なのかも。
その代わり飛行の付与につきっきりになるらしい。
そりゃこれだけすごい術式はね……
「うわぁー! 空を飛ぶって気持ちいいー!!」
「たまには飛ぶ側になるのも良いですね」
グレンくんやゴウが見える。
到着までしばしの遊覧飛行になるから存分に楽しんでいるみたいだ。
「グレンくん、ゴウ! 翼の調子はどう?」
「オレもいるぜ! 中々良いな、こいつは! 空を歩くのもなかなか乙だが別の良さがある!」
「うんうん、自力飛行というのもたまには乙だよね。やはり何かに乗るほうが性に合っているけれど」
ダンとオウカもいた。
まあ一緒にいたはずだし当然か。
「最高! いつもこんな感じで空飛んでいたんだ! すごいね!」
「あはは……」
「何よりも最適なのは移動距離ですね……ほらもうそろそろ付きますよ」
ゴウが話した通り私達はあっという間に帝都付近にある地獄山脈に近づく。
地獄の山々をすんなり飛び抜けて……
その先に見える巨大全貌をついに近くでお目見えする。
魔王は不動ながらも近づけば近づくほどその存在感は恐怖に変わる。
城壁の多くは破壊されその肉体は顕になっていた。
絵で見たものと同じく鋭い爪を持つ腕に立派な脚部。
この全身を支える脚は相当な質量を誇っているし……
そこから伸びる尾はまるでどこまでも続く道にも見えた。
尾の上を走るだけでも大変そう。
翼に今力はないがひとたびはためけばうっかりすれば流される。
それどころかどこまで飛び立つか……
戦略上必要な場所は複数あるものの私達は左頭……つまり向い合わせのときに右側の頭を狙うこととなる。
今魔王からみて左横を飛行している位置だ。
「すごい……きれぇ……! 城跡が邪魔なくらい……!」
「あれは……マズイな。師匠たちが言っていた、見るだけで心惑わす存在そのものじゃないか……! 飛んでるの面白いとか思っている場合じゃないな……弟! しっかり気を保たないと持っていかれるぞ!」
「えっ!? う、うんー!」
「良すぎると感じた相手にも強い敵意を感じるのって、難しいんだ……! 憧れでも、美しさでも、そこで負ける!」
インカの心にすごく実感が伴っている。
メンタル面の修行もしっかりつけられたらしい。
しかもかなり理屈建てて。
インカもハックも"進化"済みで戦いの準備はいつでも出来ている。
私も出来得る限りほぼオートで補助呪文を配っている。
こういうのは脳内で魔法の習慣化を組み込み自動化させるに限る。
今回魔王の攻撃そのものは即死級ばかりのはずだ。
土魔法"クラッシュガード"も大いに役立つだろう。
そして何より……
「そろそろこの距離なら……ハック!」
「わかったぁ! 連発は出来ないから、大事にしてねぇ!」
ハックが首から繋がった小さな分身とともに腕を天に掲げる。
ハックがあらゆるところから何かをサイコキネシスで集めていく。
見えないなにかだが確かに集うそれ……ハックに言わせると命……そしてエネルギーの残滓らしい。
集まったものはハックの頭上で形をなしてゆき……1つの造形を成す。
その光で出来た像はまるでハックの分身が巨大化したもの。
そして更にその像が……バラバラになった!
正確には小型化したのがたくさん飛び散る。
みんなの元へと飛び込み……
身体の中へと消えた。
「ち、力が溢れてくる!」
「良いねえ、盛り上がってきた!」
「うおおおっ! 今なら勝てる!」
「この力はねぇ、僕以外のみんなに気力充実と……もしも危なくなったときに、1度だけ身代わりしてくれるんだぁー」
ハックのこの能力は心の活力をみなぎらせつつ死に至る大きい攻撃を食らったとしても防ぐ。
簡単に言うと能力が身代わりになってくれる。
これにより『1度防ぐ』『死のダメージを身代わりする』で2回防げる。
ただしハックはハック自身の能力だけ対象外になるため主に距離を取るのは必須。
一応ハックによると秘策はあるらしいが……
教えてはもらっていない。秘密らしい。
「ヒャッホー! 俺に続けー!」
「いくぜー!」「突撃ー!」
「「ウオオオー!!」」
イタ吉たちがいくらかの兵をつれて突撃していく。
もはや防ぐのが意味ない相手の場合イタ吉の部隊である回避中心でかき乱す部隊が重要になる。
本格的な衝突が始まる前に敵の現在データをチェックしなくちゃ。




