千十生目 回帰
蒼竜とはあっさり話が決着した。
目に涙を浮かべる蒼竜……ニンゲンの身体の機能を使ってみたかったのかな。
まあそれを表すほどに魔王は嫌なんだろうけれど。
「わかったわかった、後は秘密兵器ポジションで良いから」
「戦わないよ!?」
「うん、そういうこと」
蒼竜はそれだけ聞くと足早にどこかへと去っていく。
魔王が見えないところにこもるつもりだな……
……あっ。考えていれば。
「むう。日輪の輝きは過ぎた力だ、地の底は暗闇の底だというのに」
「もうちょっと日陰を渡っていこうか」
「ハハハ、我が神もおそらく絶好調だろう!」
日なたは苦手らしいグルシムにすっかり翻訳家のホルヴィロスそしてなんだか機嫌の良さげナブシウ。
彼等3柱とも話しておかねば。
「みんな! さっき蒼竜とあったんだけれど、ひととおりオーケーだってさ!」
「ローズ!! 今の顔良い!!」
「ほう、我が神の威光は蒼竜とやらも認めるところのようだな!」
「なるほど。ならば魔王への踏み込みに使おう。我々の微力をな」
彼等自体には事前にしっかり協力をとりつけていた。
ただ蒼竜が懸念だっただけで。
これで最良のプランが使える。
『ジャグナー?』
『うん? そっちから連絡ということは……』
『プランAがつかえる!』
『そうか! それなら懸念が消えたな! よし、伝えてくる!』
ジャグナーに"以心伝心"で念話。
事前にちょっと聞いていた中で1番現実的なプランが実行可能になった。
神とニンゲンそして魔物の織りなす力で攻略する前提のプランだ。
念話はすぐに途切れたからジャグナーのほうはドタバタしているらしい。
なにせギリギリだったからね。
「時はわずか。決まればまごつく余裕もない。急ぐぞ」
「うん、準備したいんだね。どこでやる?」
「来い」
私達はグルシムに連れられ歩みを変える。
ニンゲンたちをかきわけテントをかきわけ。
少し奥まった誰も踏み込まない位置でグルシムは止まった。
「ここだ」
そこは一見何の変哲もない拠点の影になる場所。
ただ濃密な魔力を感じる……
グルシムが踏み込めばそれは姿を表した。
光で描かれた魔法陣が地面と空中に現れたのだ。
これ描くの絶対面倒だな……って私でも思うほど。
グルシムはこれの準備をしてあったようだ。
「良し。やればいい、話したとおりな」
「うーん、とりあえずついてきたけれど、何が行われるんだろう……」
「我が神とは関係のなさそうな魔法陣だな……」
ナブシウの言うことはそりゃそうなのでスルーして……
グルシムが魔法陣の中央に行き私は魔法陣の特定位置へ移動。
魔法陣内なのに描かれていない空白ポイントだ。
「えっと、発音はグルシムが知っていたあの言葉でいいのかな?」
「ああ。昔の子らの言語……ニンゲンたちが紡いだ言葉」
「古代崖の迷宮国語……ンッンン……」
古代帝国語とは正確には違う部分がある。
いわゆるなまりなんだがこの魔法陣はそれ前提。
久々なので事前準備を万端にした……とグルシムは言っていたのでもともとはここまでガチガチにいらないのかもしれない。
「グルシム、顕世回帰を!」
「ああ。ならば……سیمرغ。この名において宣言する。我が身を今、世界のために捧げよう」
グルシムは目を閉じて私は左腕をグルシムへ伸ばす。
グルシムが発した真名は独特の音で他のものに置き換えるのは難しい。
むしろ無理やり置き換えると『グルシム』になる。
魔法を操る感覚で手のひらに行動力を動かしていくが魔力にしない。
行動力に色がつくとグルシムが扱いづらくなるからだ。
「幽世に約束の灯をともせ。小鳥たちが栄光を願うならば、己が大顎にて汲み上げられた深き微睡みの海を飲み干そう」
「うわっ!?」
「凄まじい力を感じる……神の力をこんな風に?」
発音を重視してハキハキと話す。
古代崖の国語なのでみんなにはわからないだろうが。
これはグルシムがわかればいいのだ。
グルシムを"観察"したときに"言語学者"で学んだ。
使ったことはなかったが……
役に立つとは。
私の腕から拡散していくエネルギーたちが魔法陣に満ち起動していく。
私の言葉で片側の解除キーを回した状態。
グルシムは私の言葉と共に足を踏み尾を揺らし背の翼をはためかせる。
それは踊りのようにも見えるし。
厳格な儀式めいてもいる。
徐々に移動して魔法陣をぐるりとまわる。
魔力と神力があたりに漂いだして混ざり合い高まってゆく。
「吹き抜ける目覚めの風と共に屍は白き王へ回帰し顕世する!」
「まっ、待て、なんだこの力は!? コレはまるで我が神の一端……!?」
「コレは来るよ……大物が!」
私は行動力のコントロールだけは忘れないようにして。
そしてグルシムはふたたび真ん中に踏み込み。
これで両側からの解除キーが揃った。
最高にエネルギーは高まり辺りは光が立ち上り風が上へと噴きこむ。
私とグルシムは息を合わせる。
「「顕世回帰!」」