千八生目 無謀
インカとハック……つまりきょうだいたちが"進化"した!
まあそれよりも。
"観察"! 比較とか何が私に危険かとかそういう情報は良いや。
[ガウハリマ Lv.45]
[ガウハリマ 個体名:インカローズ
金色の輝きは遠くからでもよく分かる。そのためにどのような戦いの場でも自らに敵をひきつけ、まとめて串刺しにするのを得意とする]
[フタハリー Lv.43]
[フタハリー 個体名:ハックマナイト
首から伸びている個体は自身の分身。見た目と違って魔力的な全身頭脳の役割を果たす上器用なため本体との協力でなんでもできる]
ふたりとも実に頼もしい……!
"率いる者"と"指導者"のコンボで私は彼等の経験を得られて彼等は私の経験を得られる。
特に近い彼等には多くの経験がコピー交換されみなぎっているはず。
……あれそれなのになんで私前の教室時にあんなに下手くそな像を?
あー……私のレベル停滞が原因かな。
それとも……私がハックの美術経験を多く受けていたのにあまりそちらに触れていなかったから変にコントロールできず暴走した……?
つまり技巧のない力だけで土いじりをしてしまったので目的のものができなかった……みたいな。
まあそこは考えてもしかたない。
「でも、本当にふたりとも大丈夫? いくら"進化"できても相手は……」
「俺はもちろん! この姿ならばっちり戦える! あ、ただそんなに時間が持たないんだけどな……」
「僕はさすがにふたりみたいに前へ出て殴り合いするのはちょっと難しいと思う。けれど……秘策はあるから! 僕のこの姿、結構面白いことができるんだー!」
ハックの小さい方が光を軽く帯びると周囲の石たちが同じ光を帯びる。
そして……空へと浮かんだ。
「サイコキネシス!?」
「まだまだ!」
さらに小さい方が腕をバタつかせると石たちが1箇所に集まっていく。
それはあっという間に形をかえ……
圧縮されるようにひとつの小さな像になった。
「うわ……それって確か"火のモニュメント"だっけ!?」
「そう! さらに……!」
今度は急激に光が像に集まっていく。
するといきなり像が発火した!
結構大きな火だ!
「す、すごい……これも魔法?」
「そうかな? それと色々サポートするのは任せてよお! 色々試したいことがあるんだあ〜」
「んじゃあ、火の始末は任せて」
インカの言葉にハックも肯定。
インカが今度は力を見せてくれるらしい。
インカがぶんばると金色の鎧がいっそう輝く。
そして1歩踏み込む。
同時に鎧が大胆に変化し左右から大きな槍が伸びる!
槍たちは内側だけ平らでハックの火像を勢いよく挟む。
そして……消化の音と共に潰された。
すぐに槍がもとに戻り鎧は無傷。
石像はあとかたもなく砕けていた。
「地味っちゃあ地味なんだけれど、意外に使えるんだぞ?」
「いや、今の速度での重量ある突きって……しかも器用に挟んでいたし、明らかにすごく大変じゃあ」
「うん? うん、うん……そう……かな……あの時に比べたらぜんぜん……むしろ楽……」
インカの目がどこか遠くを見てしまっている。
おそらく脳内でとんでもない修行風景が浮かんでいるのだろう。
インカは力押しグセがあったが今のはどちらかというと技の類い。
相当みっちりしこまれたんだろうなあ……戦いの技を。
ふたりとも"進化"をとく。
ハックが魔法を使えるのは知っていたがインカは魔法を使えないのに"進化"するとは……
まだまだ私の知らない戦いの術があるんだなあ。
「……ふたりとも、戦いの前に本格的に打ち合わせたいから、この後大丈夫かな?」
「「もちろん!」」
「それと、久々に3匹でやろう! 俺たちならできるさ!」
インカが私に軽く頭をこすってくる。
私も返しつつハックもそれにくわわる。
「うん、私達で」
「僕たちで、魔王をどうにかしよう!」
「おいおい、そこは倒そうじゃないのか?」
「いやでも、魔王を見ちゃったら僕たちだけで倒せるとか、思えないしぃ」
「うっ、まあそうだけれど……だけど俺たちだけじゃないしな」
みんなで圧倒的なそれを見上げる。
魔王。私達だなんて砂粒のような存在感の差。
それでも砂粒だって集団で巻き上がれば驚異だって見せつけなくちゃ。
決戦の時は近い。
"観察"。
[魔王Lv.? 比較:無謀 危険行動:不明 異常化攻撃:不明]
[魔王 終焉をもたらすものであり、はじまりを告げるもの。それはあらゆる存在よりも上位に位置する]
「うっ!」
「お姉ちゃん?」
「ああ、大丈夫。ちょっとたちくらんだだけで……」
「本番はまだなんだから、しっかり休めよ妹」
魔王は解析させる気を感じさせないのと……"観察"するだけで凄まじい力に圧される。
まさに見抜こうとすることすらも危険だと言うかのように。




