千七生目 進化
真夜中寝付けずにいた。
私が夜行性だからというのもないこともあるが。
"四無効"によるコントロールですぐ眠ることもできる。
でも魔王が気になって眠れない……
こういうとき自分の変な小心さを痛感する。
……うん?
外から物音。
この感じは……そうか。
もっとも慣れ親しんだ相手だ。
「はーい、今行くよ」
イタ吉が寝ている横を抜け光神術"サウンドウェーブ"を絞って狭い範囲に声をお届け。
聞かせる相手はテント前の影ふたり。
幕をあけると……
「やあ!」
「おはよーお姉ちゃん!」
「妹、間に合ったみたいだな!」
きょうだいであるふたりだ。
弟のハックは私と同じケンハリマ。
兄はガウハリという背に大きな金針を背負う種族で見た目はともかく同じ日にうまれた同士である。
「ここだとうるさくなるから向こうへ行こうか」
「うん」「ああ!」
輝く魔王がよく見える地。
そこに私達は並び尾を揺らす。
たまに重なるのがそっとしたコミュニケーション。
「こうして3匹で集まるのは久々な気がするね〜」
「ははは、俺がずっと修行していたからな……」
「偶然そこで会って、ビックリしたよお〜」
「まあ、きっかけは同じみたいだしなあ」
ふたりともわざわざ口にしなくてもきっかけは分かる。
魔王の復活だ。
ひとめ見てみたい野次馬的な心もわかるし……私のもとにきたということは私を心配してくれたのだろう。
「はぁー、ほんと凄いなあの魔王……どう勝てば良いんだろう」
「倒すのもったいないなあー……このまま像の型取りさせてくれないかなぁ? あ、そうだお姉ちゃん。今回は僕たちも戦うよう」
「……えっ!?」
びっくりした。
ハックの言葉にインカも肯定している。
な……なんというか。
「だ、大丈夫!? 相手は魔王で、しかもインカは修行中、ハックは最近戦いはご無沙汰なんじゃあ……」
「くふふ、まあね! 確かにこのままじゃあ足を引っ張っちゃうけれど……」
「俺たちも最低限は仕上げて来たってことだ。弟もできるんだよな?」
「もちろん!」
な……なんだ?
ふたりは立ち上がり私の前に歩む。
そして振り返って静かに立つ。
「よーし、やるよー!」
「ああ。これが俺の……」
「僕の……」
「「"進化"!」」
急激にふたりのエネルギーがましていく。
ハックの方は覚えがある……魔力が合成され急激に増していくのはわかる。
しかしインカは……!
「"進化"!? それにインカ兄さんのって……」
「ああ、俺に魔法の才能はないからな……違う方向からのアプローチってやつさ!」
行動力がカタチとなって爆発的に増している!?
見た目で言えばハックはハック中心にドンドン光が淡く強まっていっている。
そしてインカは凄まじい光が包み登っていっている。
ふたつの力は今……ここに結ばれる。
「「ハアッ!!」」
……凄まじい圧の後に光がおさまる。
2つの"進化"。
2つの姿。
「よっし! 成功!!」
インカの姿。
それはひとめ見てまるで私のグラハリーが如き重鎧獣戦士。
だがその姿は根本的な部分が違った。
全身槍とも言える異様に攻撃的な姿。
さらには私のグラハリーよりも大きく重くそして……目立っている。
金色の鎧を纏っているのと同然な姿だ。
「見てみて〜! 僕の新たな姿ぁ!」
ハックはきれいに獣型二足歩行になっている。
私のホリハリーよりもちゃんとしているんじゃないだろうか。
結構大きいからケンハリマの私では見上げることに。
身体に装飾じみた針が変化した形が多数あるのはともかくとして。
その……首後ろから……
何かが伸びている。
それは浮いている。
接続部を除けば球体に近い。
小さめの獣耳に巨大な単眼そして位置的に目と内部干渉しそうなギザ口に申し訳程度の手。
ふわふわと浮いているそれはまさにギョッとさせる存在感を放っていた。
「す、すごい! ふたりともいつの間に"進化"を!?」
「僕はこっそり。こうみえてみんなに置いていかれるのはイヤだからねえ〜!」
「俺は知っての通り、修行でな。まあ……間に合わせるためにかなり無茶をしたけれど……」
インカの修行風景……
あの一方的な暴力に見間違うような光景を思い出す。
そっと心の中に閉じた。
ハックは全然しらなかったがそういえばハックはなんだかんだ昔も私たちにおいていかれないようにとオジサンに修行頼んだこともあったっけか。
もちろんインカも一緒に。
そうだな……きっとハックもずっと気にしていたのだろう。
私からするとハックの腕は宝物を作り上げるのに向いているので無茶はしてほしくないが……
その腕が少し異形風に大きくなっていて黒いトパーズじみた宝石が埋まっている。
私のホリハリー時の胸にある宝石に似たものかな。




