千六生目 光陰
ウロスさんが少し落ち着くのを待ってテントに戻る。
カムラさんにお茶を淹れ直してもらいホッとひといき。
「ふぅ〜」
「やっぱりカムラの淹れたお茶はおいしいじゃん!」
「おかわりもありますよ」
魔王がそばにいるとは思えないほどに緩やかな時が流れる。
それがほんのひとときの余韻でも。
ウロスさんはコップを置き私の方に向き直った。
「ところで……わたしがラキョウを倒すことを頼んでおいてなんのんだけどじゃん」
「はい?」
「ローズちゃん自身は何のために敵と戦う?」
それは直球で投げつけられるボール。
戦いとは目的と手段どちらにもなりうるもの。
私の中にある答えは……
「……戦いは、手段だと思っています。もちろん苦しいものなので、戦う時は戦い自体を目的と思い込むように楽しむようにはしていますが……でないと性質的に固まってしまうので」
(まあ、主に"私"によって楽しんでいるがな!)
そう。ドライのおかげで私は戦えると言っても過言ではない。
そしてアインスのおかげで戦いに余裕を持てる。
(ふふふ、それほどでもある! それにね、ツバイのおかげでたたかっていてもキンチョーかんをたもてるんだよ!)
なるほど……そういう見方もあるか。
ともかく私達は何らかの解決で戦闘するしかないことも多いと知っている。
故にそのときはためらわないし……戦いを通じて互いの想いを深められる。
「でも今回のような誰もが逃げ出したい戦いでも、ローズちゃんは戦ってくれるじゃん。手段としてでも、それ以上に何を目的としているんじゃん? 解決なら……それこそプロに任せるという点もあるじゃん」
「うーんそうか……あまりそういう事を考えたことはなかったかもしれません……私自身がなぜ戦いの先を求めるか……」
……ピンと来た。
私が顔を上げるとウロスさんが期待を込めた顔を椅子の上からのぞかせる。
「そうか……私は戦いによって知れる何かを……その先を、そしてみんなをもっと知りたいんだと思います!」
「おや、今までははっきりとはわからなかったのじゃん?」
「とある友達の言葉をふと思い出しまして。今までしっかり言葉にならなかったけれど確かにあった感情を……今形にできたんです。ありがとうございます!」
そうか……もっとわかりたいんだ。
私のことも相手のことも。
イタ吉の『冒険したい』という一連の言葉を思い出して私に通じる部分をしっかり導き出せれた。
何ひとつ通じ合えないと分かったその先にも何かわかりあえるものがあると思って。
それは記憶の欠如による渇望でもあるけれど……
私本来の質でもあるんだ。
私がどんどんと外へ行きたい、その根源的欲求のため……
前に私は私の影たる部分と向き合った。
今度は私の光たる部分を見なくちゃいけないんだ。
それが私の魔王に立ち向かう姿勢であり……そのまま質につながるんだ。
生きるとは。
それを私は昔ただ命がある状態ではないと示した。
それはアンデッドのカムラさんが『生きている』と感じるからこそに余計強く実感している。
たのしさを追い求め幸せを探した後帰る場所がある……
生きる。生きていくってきっとそんな単純なことなのだろう。
だから私も……生きるために知る。
「おや、何か感謝されるようなことしたじゃん? むしろわたしが感謝することばかりなような……」
「いえ、私自身またひとつ学べましたから!」
「ふふ、私もおふたりにはいつも感謝しています」
「そうかじゃん! アハハ、みんな良いひとたちじゃん! そう、本当にわたしは……」
ウロスさんは笑いながらもなんだかなきそうで。
それが嬉しいのか悲しいのかはっきりとはわからなかった。
でも……はっきりさせなくても良いようなそんな和やかな空気だ。
戦いをして違いに笑いあえたならば。
そして最後こうして誰かと語り合えたら。
そこが平和な世で違いに遊べて。
多くの不安を抱えずにすむそんな場所ならば……
それほど生きているって言える時はないだろう。
夜中は兵たちも見張り以外は眠りにつく。
しかもアンデッドの脅威はないのでかなり手すき。
魔王に警戒すればいいから。
ジャグナーたち指揮団はまだ帰ってこないし蒼竜もまだこない。
魔王の動きもないけれど……少しずつ焦ってくる。
私達戦闘組ができること。それは!
眠ることだ。
こういうとき戦士たるものは豪胆に深く眠れるらしい。
実際にダンダラやイタ吉はグースカ眠っている。
私は戦士になれないとこういうときつくづく思う……
"四無効"で眠りはコントロールできるがそれがかえって深い眠りに落ちる怖さを意識してしまう。
もちろん深く寝たところで野生時に培った力で簡単におきれるけれど。
それとは別に魔王が……ね。




