千五生目 恋愛
ラキョウとのことをウロスさんやカムラさんに伝えた。
ウロスさんは特に言葉ひとつひとつに感じるところがあったようで。
何かを考え込むようにお茶をすする。
私も受け皿にあるお茶を飲む。
紅茶は意外なくらい舌になじんだ。
さすがカムラさんが入れたものだ。
「ねえ、ちょっと聞いてほしいことがあるんじゃん」
「あ、はいどうしました?」
お茶を飲みひと息ついたころ。
ウロスさんは椅子から降りて外へと歩む。
私とカムラさんも後を追った。
テントの外に出れば既に日は沈み月明かりの空。
だがそれより目立つのは魔王。
夜になるとはっきりしたが光が魔王の身体周辺を漂いめぐり美しくその威光を映し示している。
ウロスさんはその魔王を見上げていた。
「魔王の……いや、ラキョウのことですか?」
「うん。わたしがローズちゃんにこんなこと頼む筋はないことではないとわかっているじゃんけど……ローズちゃん。ラキョウを殺してあげて欲しい」
「ウロス様……! よろしいのですか」
「ウロスさん……」
私達はウロスさんに言われなくてもラキョウを倒しそして法により斃すことになっていた。
たまたま彼が魔王の力に飲まれただけで。
それでもウロスさんはわざわざそれを告げた。
「本当は私の手で終わらせたかったんじゃん。けれど、ラキョウはあんなふうになってしまった……けりをつけるのは難しいじゃん。わたしは、わたしの信じれる相手に託したいんじゃん」
「……私も、その時が来たら微力ながらお手伝いさせてもらう所存です」
「ウロスさん、カムラさん……わかりました。改めてその依頼を受けます。けれど、その……ラキョウのこともう少し聞いてもよろしいですか?」
私達もウロスさんの横に並ぶ。
ウロスさんはただひたすらに魔王を……その中にいる魂を見つめていた。
「ラキョウは……前も話したけれど、わたしの最初の弟子で、そしてある時からいなくなり、馬鹿な道に堕ちたじゃん……」
「ええ、ユウレンさんより前にと聞きました」
「はい。私も直接会ったことはありません」
「……だけど、馬鹿弟子が出ていった理由は、実はわかっているんじゃん」
おやその話は初めてだ。
ウロスさんは顔を少し俯向け話を、続ける。
「馬鹿弟子は……わたしの初めての弟子だったし、住む場所なかったらしく、私と共に旅をしたんじゃん。それこそ長い間……ふたりの間に距離が不自然なほどに、縮まるほどに」
「不自然……まさか」
「なるほど……もしや恋仲でしたか」
カムラさんの言葉にウロスさんは静かにうなずく。
だが直後に首を横にふった。
これは……
「……どちらかがそうとはっきり言ったわけではない?」
「まあ、ね。弟子とわたしは……自然に距離は近づいたんじゃん。けれども、わたしは師匠と弟子という居心地の良い関係をすてれなかったんじゃん。向こうが一線を越えようとしている時に、わたしはなんとなくで止めてしまって……そして自然に会話が減り、いつの間にかわたしのそばからラキョウはいなくなったんじゃん」
師と弟子。
その関係性を護るというのは健全的なことではある。
教え子に立場を利用して迫るのはあまりよいとされない。
ただウロスさんの表情からはそれ以上の強い何かをこめていた。
目から涙が溢れそうになっているような。
強く顔がゆがむのを抑えているような。
「なるほど……もしかして私が創られた理由は……」
「あっ! もちろんちゃんと新技術の発展とか、術の極めとかあるじゃん! でも、顔の理由は……忘れられなかったからじゃん」
「なるほど……」
「ウロスさん……でも、そんな相手を殺すのは忍びないのでは」
ウロスさんは今度私の方を向く。
幼い顔の奥に見える老練の表情。
自己転生したその身体は肉体とそぐわない感情を瞳にうつしだしていた。
「ラキョウは許されないだけのことをして、そのうえであんなことになってるじゃん。わたしがラキョウの引き金を引いてしまったのなら、本当はわたしがどうにかしなくちゃいけないじゃん。けれど……できない。
わたしは、アレに勝てるビジョンは見えないじゃん……だから!」
「……わかりました、私に託されました」
「私も。そして……少し訂正を。ラキョウがああなったのは誰のせいでもありません、本人そのもののせいですとも。ラキョウはウロス様の意思とは関係なく行われたのです」
カムラさんが語る言葉。
ウロスさんはふと片目から涙を1滴こぼし。
慌てて魔王の方に……上の方に顔を向き直した。
「ば、馬鹿! その顔で言うのはズルじゃん!」
「おや、創造主はウロス様と存じていましたが?」
「ウロスさんがなんであんな城内にひとり来たのか驚きましたが……今聞いた分しっかりやらせてもらいます」
ウロスさんもまた未来へ進もうとしているのだ。




