千四生目 旧知
ホルヴィロスは蒼竜の信徒である皇帝には治療を施しにくいとのこと。
ただいちど看てほしいな……
「……そうだ、この後蒼竜が来るんだけれどその時に許諾をとってみるよ」
「本当!? それなら助かる! 勝手にやって怒られるのも、ローズのお願いを断るのも嫌だったからね!」
「うん、やってみるよ」
まあ蒼竜ならアイスで釣れば大丈夫だろう。
ナブシウは主自慢ばかりしているしグルシムは余計な口をはさまず聞いている様子
今の所大丈夫そうかな。
私は移動して保護されていたウロスさんに会いに行った。
ウロスさんは見た目が見た目で完全に少女なので戦闘メンバーとは別のところだ。
まあ実際にウロスさんはそこまで戦闘得意ってわけでもないだろうし……
だが意外だったのは。
「おや、ローズさん」
「カムラさん!? いつの間にこちらへ!?」
アンデッドでありユウレンの保護者兼執事であるカムラさんがそこにいた。
やはり顔はラキョウと瓜ふたつながら間違えようのないほどに柔らかな表情。
ウロスさんにちょうどお茶を注いでいたころだった。
「何、ひと段落したと聞きまして、皆様にお茶でも入れようかと」
「プハーッ! 本当、カムラの入れる茶は最高じゃん! ローズちゃんもどうお?」
「いや、それよりここではカムラさんの顔はッ……!」
危険。と言おうとしてそう言えばみんな相手していない。
普通に客相手しているし保護されたウロスさんに近づけている。
「ンフフ、確かに兵士たちはラキョウの顔を見ているじゃん。あれだけ空にデカデカとスクリーンされたからじゃんね。けれど! カムラ!」
「はい、むしろこういう場では……こうです」
カムラさんはその目を開く。
そこにはしろく濁った死を表す瞳。
……ああ! アンデッドの顔か!
「なるほど……その目をみんな見たから……」
「偽装をしなければアンデッドなのはひと目でわかるもので」
「それに私とつながりがあるから証明方法はいっぱいあるじゃん! 敵アンデッドでないと証明する方法にはことかかないじゃん。それにラキョウ本人はローズちゃん、君たちが報告したとおりならば……」
なるほど諸問題は解決済みと。
ウロスさんも私達の報告はちゃんと受け取っていたらしい。
ウロスさんは魔王の方へと目線を移す。
「そう。魔王の力に取り込まれ、おそらくはまだあそこに……」
「馬鹿弟子め……自分の尻もまだ拭えないのにこんなことをして……」
ウロスさんがぼそりとつぶやく。
私も隣に近寄るとカムラさんがそっと水受けを差し出してきた。
中身は紅茶だ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「……おそらくはあの馬鹿弟子、まだあの中にいるじゃん」
「ええまあ、取り込まれたのはみました」
「いや、身体の方じゃないじゃん。魂の方じゃん」
ウロスさんは首を横にふり言葉を続けた。
なるほど……魂。
でもなぜわかったのだろう。
「魂が、なぜまだ魔王の中にいると?」
「あの馬鹿弟子の魂を呼び出せなかったからじゃん。私達死霊術師は、魂とのコネクトを持っているじゃん。生きているときに呼べば呼応し、死んでいれば魂召喚に反応を示すじゃん。しかし馬鹿弟子はどちらでもない……馬鹿弟子の魂が完全に隠れている状態なんじゃん」
「隠れている……つまりまだ魔王の中にいると?」
「そう思っているんじゃん」
あの中に彼の魂がいまだ囚われているし肉体もあるのかどうかすらわからない……
それは早くどうにかしたいな。
悪人とは言えそして自業自得とはいえそれは裁きのうえで受けなくては。
それに魔王への影響も気になる……
うっかり逆乗っ取りされたら大変なことになる。
未だに魔王が静かなのはそのせいかもしれない。
ならばおそらく主導権の混乱している今のうちに準備を整えたい。
「そういえば馬鹿弟子は何か言っていたじゃん?」
「私のモデル相手の話、気にならないと言えば嘘になりますね」
「ラキョウなら――」
私はラキョウとの会話内容を伝えた。
特にカムラさんやウロスさんに言及した部分は細く。
ラキョウがウロスさんに対してこの世界唯一と言える救い以上の何かを見出し……同時に見限っていたことも。
ラキョウの『ババアと俺のことを何も知らずに語るな』や『ババアはババアだ、俺にとってそれ以上でもそれ以下でもない』という言葉は引っかかるほどにラキョウから強い感情を感じていた。
実際それらを語る時にウロスさんの表情は驚いたり何かを押し殺すような顔をしたりとコロコロ変わる。
「――と言ったところです」
「そうか……馬鹿弟子がそんなことを……」
「ううむ、私のモデルはかなり口が悪かったようですね」
カムラさんがうーむと唸るのもまあわかる……




