千三生目 大小
私の背中から花が抜けた。
ツルの拘束がとけて噛み付いていた添え木も外される。
なんとか力を取り戻して立ち上がる。
なんというか……全身にまるで無理なくちからがみなぎってくる。
肉体がひとりでに踊りだすような感覚。
なんの憂いもなく清々しく迎えた目覚めの夜にも似ている。
「おっと」
"進化"が解けて元の身体に戻った。
ケンハリマ……4足で3つ目以外はただの青い獣ないつもの姿。
私のプレーンでありやはり安心して落ち着く姿。
それに今まで長時間"進化"して戻るとひどい肉体疲労や精神疲労に襲われていたが元気ハツラツ。
確かに力感覚の差異や肉体感覚と視線の高さ違いはあるもののその程度。
これほど元気な"進化"戻りはそうない。
「すごい……元気に溢れている!」
「それはよかった! やっぱりげーんきなローズが1番だもんね!! ああ、毛並みきれいだよ毛並み!」
流れるようにホルヴィロスがセクハラツルを伸びてきたので流れるように前足で対抗払い。
それすらうれしそうなのが困る。
若干様式美じみているが。
そして……地面に植えられた花。
何ひとつとっても"ネオハリー"時に大きくなった私より花が大きい。
葉は青々しく花は幻想的なほどに1輪でカラフルに。
「それにしても立派な花だね……」
「フフン、どうだ! 我が神の力たる私の引きは!」
「あれが闇にすら浮かばん鈍重さか。あまりに神とは思えん。太陽も眠るだろうな、これでは」
「……んっん! ホルヴィロス?」
「えー、神という立場からしてもビックリな力で、自分とはまるで違う重厚な身体での引きは見事。貴方の主である太陽神も安心して眠れるわけがわかる見事さだった、と」
「ほほう、 グルシム! お前もよく分かっているようだな!」
ついにグルシムが即キレせずホルヴィロスにぶん投げるようになった……
そしてホルヴィロスも万能の翻訳っぷりを発揮するし。
ナブシウに馴れ馴れしく黒ダイヤに近い身体でベジベシされているグルシムもまんざらでもなさそうだ。
私がいなくてもなんとか回って行けてそうでよかった……
さっきの喧嘩見せられるとものすごく不安になったからねこの神たち……
やはりもともと群れる必要性などないから根本的に同格に対しての扱いがホルヴィロスをのぞいてひどいというか。
グルシムは一向にコミュニケーション能力は向上しないしナブシウはずっとナブシウの主の話を繰り広げる。
なんとかまとまりを見せているのはホルヴィロスのおかげだ。
まさかここまで彼の立ち回りがうまいとは……私にもうまく立ち回ってほしい。
「あ、おーい! みんな! この花が育ったからきたんだけれど!」
「うん、いい感じに育ったのかな? 見せてみて」
おや。勇者グレンくんだ。
そういえばグレンくんも花治療を受けていたんだっけ。
私も興味本位で歩み近づく。
「じゃあ引っこ抜くよ。3、2、1!」
「うわっはぁ!?」
固定も何もせずホルヴィロスは彼の背中から簡単に花を引き抜く。
それもそのはず。
その花はキュートな小さい花だった。
根だけはしっかりあったもののホルヴィロスが光を込めて地面に勢いよく埋め込んだらすっぽりと入った。
うわなんか根を見ていたら身体がかゆくなる……
私の中に入っていたというのは怖い。
「……私のと全然違う……」
「ロ~ズとの相性はすごく良かったからね! 勇者との相性はふつうだね」
「ふああ、これは効く……!」
グレンくんもいちどへたり込んだ後復活。
見るからに肌ツヤツヤ顔色良し。
……あ! そうだ顔色!
「ホルヴィロス、向こうのテントにおられる皇帝を治せないかな? かなりボロボロで……」
ホルヴィロスの高い回復能力が活かせるのならばあの皇帝をも高度に癒せるかもしれない。
しかしホルヴィロスはあまり良い顔をしていない。
「ええっ、でもその人蒼竜信徒だよね? 他神の信徒に軽率に手を出すのはなあ」
「えっ? 神様同士ってそういう事があるんだ」
「もちろん! 宗派によるけれど結構ご法度が多いんだよ」
「……いや、私が驚いたのはそういう事ではなくて、それだけ色々とありそうなのに私には安易にあんなことやこんなことしたなって……明らかに蒼竜の気配あっただろうに……」
ホルヴィロスが固まった。
私が信徒ではなくとも神使なのはホルヴィロスが感知できないのは考えづらい。
ぎこちなく首を回し……草笛を吹き出した。
「ピューピュー……」
「ホルヴィロス……」
「一体何を……うわ、立派な花!」
3体の神様はにぎやかそうだ。
魔王の戦いに彼等は絶対にいることになるのだろうなあ……




