千二生目 引抜
ホルヴィロスが私を固定して私に生やした背中の花を引っこ抜こうと一生懸命引っ張っていた。
私は口に添え木すら詰められ必死にこらえる。
痛くはないが全身に張り巡らされた根が凄まじい刺激になる……!
「う、うう……! だめだあ! 分神じゃあこれ以上力が入らない!」
「ん、ぐぐ……」
「えっ? ど、どうするの?」
口から漏れるのはうめき声のみ。
光神術の"サウンドウェーブ"で話せるから問題はないけれど……
「こうなったら……グルシム君! 手伝って!」
「うん?」
「あー」
そういえばグルシム……いるのを忘れていた。
尾先まで張り巡らされた根は非常に強固でホルヴィロスだけでは私のしっぽがピンとなっちゃうのみ。
グルシムはホルヴィロスにツタを巻きつけられ後ろ向きに。
そのまま軽く浮遊する。
「その細蔓では千切れそうだな。全力か」
「そう、細かいことは私が調整するから、貴方はとにかく引っぱって、そのままちぎれるくらいに!」
「うう、今度こそ頼んだよ……!」
「いくよ! 3、2、1!」
同時にグルシムとホルヴィロスが全力牽引!
私の全身は背中からの圧になんだか体が持っていかれそうだ……!
痛くないが全身に不思議な刺激が走って思わず私もふんばってしまう。
「そーれ! そーれ!」
「はぁ……!」
「フグーッ!」
背中から魂でも抜けるんじゃないかって感じだ!
全身がここまで同時に内側から刺激されるのがこんなに重労働とは!
「フギギ……!」
「「っはぁーっ! ……はあ、はあ……」」
「駄目だ、足りない……」
え……まだ抜けない!?
なんだか全身揺さぶられそうだったのに……
「ね、ねえコレ抜いて大丈夫なものなの……?」
「ああ、そこは私がちゃんとやるから! けれど……ここまで掴んで離さないだなんて、恐ろしいくらいに相性良し……きっと私とローズの相性もこのぐらい――」
「――呼んでこよう」
グルシムがツタを振り払い歩いていく。
……誰を?
……まさか!
私とホルヴィロスの顔が合う。
同じ発想に至ったらしい。
「「ナブシウを!?」」
なんとかホルヴィロスが合流してでナブシウを引きずって持ってきた。
固まっていたから逆に刺激さえあれば逃走は早かったらしい。
ホルヴィロスがひたすら話しグルシムには黙っていてもらい……
その先でなんとか。
「ね、ほら、ナブシウとあなたの主の、力がないと、私達ではどうしようもない。貴方の力がいるの」
「……そ、そうか! ならば仕方ないな! ははは! ならば仕方あるまい、こ、この私! 我が神に代わり力を貸してやろう!」
「なんとも機嫌取りをされたとは思えぬほど大きく出た振る舞むぐぐご……」
「ええもう、まさに大盤振る舞いというやつだね。滅多にない機会で光栄だよね」
「……む、そうか。それでいいのか……」
ホルヴィロスはこういう時落ち着くような低めの声でゆっくりと諭すよう話す。
それが功を成したのかナブシウはやる気になった。
グルシムが何か言いかけたのをホルヴィロスがツルで抑えつつ代弁。
グルシムの唸るような声は不満を訴えているようだし雰囲気もまるでムスッとしているが実は関係ない。
今のは『そういえば良かったのか〜』みたいな感心だ。
ホルヴィロス……私以外が相手だとめちゃくちゃ優秀だ……!
「よーし! 今度こそ引っこ抜くよローズ!! フフフ、絡みついて引っこ抜いてエヘヘへ」
「う、うん……」
私が……絡まなければ……うん。
というわけで。
今度こそ引っこ抜くために列にナブシウが加わる。
ナブシウが最前線で次がホルヴィロスそしてグルシムだ。
事実上重さ順か。
「さあ、我が神から賜った力、とくと見せよう!」
「3、2、1!」
「「ハァーッ!!」」
「ングッ!?」
一斉に引いた力が今までよりも遥かに来ている!
全身にビリビリくるような刺激はナブシウの重みによる引きか!
こ……これは……!
「「それーっ!!」」
ズルリ。
背中から全身の中身が抜け出すかのように何かがズレる。
そして私の中に張り巡らされていた根が……背の花が……抜けた!
「ンンーッ!?」
その瞬間に感じたのはまさに魂の昇華。
体中から今度は力が抜ける。
根が掴んでいた土が開放され……緩くなってしまうように。
身体が固定されていなければ地面に溶け込むように倒れるほどの異様な感覚。
痛くはない。かといって気持ちいいのかすらわからない。
ただただ全身の肉がふわふわとし、ほぐれて液体になるかのようだった。
「フワァァゥ……」
「地面に植え替えて……と。ふう。そうなんだよね、これはクセになりやすいから、あんまり処方しないんだよ。その代わり、ものすごい効果は高いよ!」
ね……眠ってしまいそう。




