千一生目 背中
とにかくナブシウとグルシムも必死におとなしくさせた。
まず彼等の距離を物理的に遠ざける。
具体的にはムキになっているナブシウをニンゲンたちのキャンプ地そのものに転移させた。
するとあら不思議。
置物のように静まり返った。
対するグルシム。
彼は落ち着いているようには見えるが実際の所なかばムキになっていた。
よくよくはなしを聞くと鍛冶を共にした頃から彼の上位存在に気を惹かれる程度に賛美をずっと聞いていたらしい。
だから今やっとほとんど誰も挟まずに素直な賞賛をできたのに……と。
……グルシムの素直な賞賛ほど他者に伝わらないものはない。
今までは鍛冶師たちがガンガン言葉を補うように話していてくれたのだろう。
だがホルヴィロスはちゃんと把握する前にグルシムの賞賛を行ったことで……
ナブシウの逆鱗に触れた。
言葉を重ねることで余計に悪化したというわけだ。
なんというかホルヴィロスには頭の痛くなる案件を押し付けてしまった……
話を私とホルヴィロスに聞いてもらえたこと。
それに理解してもらえたことと同時にまったくナブシウに伝わってないことを私達が親切丁寧に伝えてやっと落ち着く。
そのかわり今目の前で沈んでいるが。
「そうか……そうか……」
「彼等本当に神様なのかな? どうなっているの?」
「それに関してはちょっと私も聞きたいし、ホルヴィロスも若干……」
「ええっ!? そんなローズ! 私は完璧に神様だよ! だってちゃんと恋に愛に生きているからね!」
うん……まあそういう神さまもいるよね。
胸を張って言うことなのは別として。
「それよりも……この背中の花……」
そう背中の花。
もはや私に日の影を作るほど巨大な花。
正直重いを越えて邪魔。
「ん、んん!? そういえばその花、あの私が植えた……?」
「それ以外ないよ」
「え……なん……うん……!? ちょ、ちょっとまってね! そうか、まさかここまで急成長するだなんて思ってもいなかった……これがあの花だなんて、私の思っていた10倍、いや100倍は……ああさすがローズ、やっぱり私とローズの相性はバッチリなんだなうんうん」
全部聞こえているから早くしてくれないかな……
少しあれこれ話した後私の方を振り向く。
ホルヴィロスは分神でも大型獣くらいのサイズはあるし黙っていれば美しい神秘的な獣なんだけれどなあ……
「よし、ちょっとカクゴしてね」
「……え?」
「まずは座ってー背を上にねそべってーそうそう」
なんだか怖いことを言われたがホルヴィロスの指示に従い体制を変えていく。
ようは伏せたわけだが……
ツルがぐるりとホルヴィロスから伸びてくる。
「ウッ」
先に四肢が固定された。
もうこの時点で嫌な予感しかしないんだけれど。
ホルヴィロスはツタをうまく伸ばし四方八方から私のことをよく見る。
そして私の正面に回り込むとどこからか小さな木材らしき枝を取り出しツルでカッティングしてやすりをかけて……
「はいくわえて……んふふ、こんなに近くでかわいい3つ目がほんと最高! 何やらせても絵になるね、あ〜、貴方白く染め――」
「ちょ、ちょっと!? これって一体!? 添え木噛ませて固定って……」
光神術"サウンドウェーブ"を使っているので口を塞がれても話すことに問題はないが……
かなり頑強というかこの添え木恐ろしく柔軟かつ頑丈な素材でできている。
私が全力で噛むことを想定されている……
「――ああ、それかい? これからまあ……痛まないとは思うけれど、全力で噛み締めていた方が良いよ!」
「い……一体どうなるの……」
「それじゃあ引っこ抜くよ……3、2、1!」
ツルが背中に巻き付きかかる。
不思議なものでなんとなく背中にも感覚があるように感じるものだ。
……そして引き抜きが始まる。
力よりもとにかく丁寧に力が加わり始めるなり
全身に走る違和感。
待って。これどこまで深く根を張って……
「よし。ここだな……さあ、植え替えるから抜けて!」
「お、おぐぐ……!?」
思わず口の方から声が漏れる。
力いっぱい引き始めたのだ。
背中から何かが……というか花が引き抜かれる感覚が全身に走って思わず筋肉が硬直する。
つまり全身に力がこもってしまい顎も言わずもがな。
痛くはないが……これが固定の理由か!
強く地面に固定されているから引っ張られても動かないけれど感覚的に反射が起こってすごく力が入ってしまう。
「うぐぐ……」
「んんー!」
全身に力が入るのはこの引っ張る感覚が頭先にも手先にも来るからだ。
すごく……えぐい。痛くもないのにとてもえぐい!
体中が熱くなる……! ひぃー! なんなんだこれ!




