千生目 考慮
当時の資料は凄惨だった。
それ以外の資料たちも読み漁ってゆきこの部屋は特有の重っくるしい空気に包まれていた。
資料の読み疲れも大きい。
「何だいあんたたち! 図書館は墓所ではないんだ! こんな重い空気漂わせてるんじゃないよ!」
「ああ……すみませんマダム」
「どうもいかんな……魔王を倒すはずが、魔王の実態に飲まれかけている」
フルスおばあさんにリユウ指揮官長は謝ったものの場の空気が大きく変わるわけでもない。
鼻息ひとつフルスおはあさんは鳴らす音のみ響く。
ウォンレイ王が仕切り直しに肩や首を回していた。
私はそろそろ"進化"が切れるな……
けれど情報そのものはかなり有用なものが多かった。
なにせ……
「でも見つけはしましたね……一筋の光明」
「現代の力と、当時と違う魔物たちの加勢……それに……」
「今、魔王があまりはっきり行動していないこと……得られた資料に分割されたままの力」
「ただ、魔王外部は力の分割にあまり影響は見られなかったらしい。計算上内部の変化が大きいらしいが……」
「内部だけは資料がない。か」
ウォンレイ王のシメの言葉にみんなため息をつく。
弱くなった内部というのはわからない。
生きて帰ったものはいないからだ。
だが何らかの勝算を得て内部に潜り弱体化させ相打ちした。
今は弱ったままのため内部に入れば勝算がかなり高い。
だがどう入れば死なずに済むのか……
一応過去の作戦では魔王の全身にある急所を刺激し動きを止めてから入っていた。
逆に言えば単に飛び込んだらおそらくは死ぬということ。
あらゆる方法で内臓を弱らせて内臓を潰せば良いのかな……
「そこらへんも含めてもっと資料を精査してみましょう」
「ローズ、お前は現場にも回らなくちゃならない。ここでこれ以上体力を浪費せず休め。魔王がいつ動くかはわからないが、それまでにこちらも準備を出来得る限りする」
「わかった、ありがとうジャグナー、みなさん」
ここは彼等に任せよう。
私はいざという時のために脳内に保存した資料たちを読み解きつつ……
今は休みに戻ろう。
ふう……
あの空間から抜けて現場に空魔法"ファストトラベル"で戻ってきた。
なんだか久しぶりの外な気はするが気はするだけだ。
……背中の花が私より大きいような。
細かくあの部屋から出て階段で水を飲んだりしていたが……
今も空魔法"ストレージ"からだした水瓶から水を飲んでいる。
このままだと私が水を飲み尽くすのでいい加減ホルヴィロスのところにいこう。
距離はそれほどなく歩けばすぐについた。
……けれど。
「ナブシウ、喧嘩をするのはやめなさい」
「だからなぜ我が神の良さを理解しようとしない! あまねく光、天を仰いだその時にある存在こそ、我が神だというのに!」
「俺がそれを知らないとでも思っているのか? それこそ見くびりというものだ、それこそ幼子の知能でも分かることだろう」
「グルシム、少し言葉を――」
「何が幼子でもわかるだ! 」
「俺の言葉尻を捉えないでくれ、稚拙さは恥ずべきところだ……うむ、つまり俺には威光などは身に余るということだ、太陽は苦手だからな」
「ぬおおおおおおっ!! 離せ! 離さんか!!」
3わんこたちが遊……仲違いしていた。
当者たちの目の前で犬扱いする気はないが分神だとどうも神々らしさがない。
現在ホルヴィロスによりナブシウは無理やりグルシムから距離を取らされている。
当のグルシムは頭にはてなマーク浮かんでいそう……
今のグルシムの言葉……間違いなく褒めとして使っている。
だからややこしいのだ。
グルシム初心者は見た目の死神系統ぽさも合わさり完全に敵意しか見いだせない。
「お前は、初めてあって鍛冶を共にした時から気に食わなかった! あ、あの時は余裕がそうなかったが……今なら言える! 我が神への侮蔑は許さんぞ!」
「事実だ、侮蔑ではない」
「グルシム、少しお静かに。貴方の気持ちは私が把握しているので」
「む……」
もはやナブシウは発狂状態でホルヴィロスのツルたちに飲み込まれていっている。
グルシムは自分の善意が伝わらず困惑しているし……
(私は先程から貴方様の神をほめているので)侮蔑ではない(し、ただ感心するだけで貶してなど無く)事実だ(けを話しているはず)
あたりの言葉をつむいだのかな……
グルシムは長くても短くても勘違いのもとしかばらまかれていない……!
確かにこれは頭が痛くなる。
早く合流しよう。
……さっきからとんでもなく背中が重いことを除いて気持ちは素早くなんだけれど。
「みんなー! 何やってるのー!」
「ローズ! 良いところに! なんなんこのふたり! なんでこんなに仲が悪いのー!」
「ま、前の時はそうでもなかったのに……!」
「そうだな」
「ローズ! このみすぼらしいわからずやをどうにかしろ! 我が神への尊敬の念がまるで足りん!!」
なんでこうなったのか……と思ったが。
ナブシウが緊張はほぐれだした今。
無駄に尊大かつナブシウの飼い主に対してデリケートな対応を求められるのに無限に話を振られ。
グルシムがいつもの調子で言葉がほとんど足りない会話をすればこうなる……か。
あまりに考えなしだった。




