九百九十九生目 現実
私が読んでいた本と別の本情報で勇者と魔王の戦いで何があったのか少しずつ見えてきた。
「なるほどな……魔王は力を7つ飛ばされたのか。それが封印の外法だったのじゃないかとな」
「もし、それがまだ世界中に散ったままならば、魔王は弱ったままだというのか!」
「弱ってあれというのは実に頭が痛い話だがな……」
「ひとつの街が潰えるほどの犠牲者をだす外法とは……」
みなその力強さを間近でみてきている。
個人の刃など意味など無い。
ひとつの城を越える大きさに君臨し吠えるだけで周囲に猛風を起こす。
近づくことすら困難な相手を弱らせた状態だと言うのはなんとも言い難かった。
「復活したさいに散った力を取り戻した、というのは?」
「しかし、その7つのものが集まるような光景は……」
「あれ、この剣は宝石剣じゃないか?」
「知っているのダンダラ!」
ダンダラはあごひげに手を添えてじっくり宝石剣らしきスケッチを見る。
ふと動きが止まって「あっ」と声を上げた。
「やっぱそうだ! この剣、別の国に保管されている宝石剣のひとつだな! 昔見たぞ」
「じゃあ……宝石剣たちってもしかして……」
「まさかのビーストソウルの親は魔王だったのか……?」
親という表現はどうかと思うが。
ダンダラが触る鞘に収まった宝石剣ビーストソウルはわずかに震えている気がした。
「親……かどうかはともかく、その剣は魔王の力のひとつということになる。ぜひしっかりと管理していてくれたまえ」
「それはリユウ殿に言われるまでもなく!」
「そう、力がここにある以上魔王の力を封印する手が2度は通らんだろうな……やはり倒し方だ」
「どう勇者は倒したのか、その資料があれば……」
ウォンレイ王が見回して……はたと気づく。
視線の先に何かを見つけたらしい。
ズンズンとニンゲンをかき分け書棚に近づき奥へと手を入れる。
そしてどこからか1冊の紙束を取り出した。
あれ……
「あんなのあったっけ……」
「おかしい、先程そのあたりの本を取ったときはそんなものは……」
「隠されていたらしい。どうやら相応の能力と求める心が揃わねば、見つからないようにな。これは……具体的な当時の戦術資料……」
ウォンレイ王が机の上に置き広げた資料。
最大クラスで重要な当時の実際に戦った資料が隠されていたとは……
"絶対感知"使っておけば良かったかな。
ウォンレイ王は軽く目を通して次々ページを飛ばしていく。
目的のものを見つけるかのように。
あとでしっかり読みたいし私の脳内に覚えて保存しておこう。
そうしてぴたりとひとつのページで手がとまる。
そこには魔王の全身と多く書き込まれたデータがあった。
……魔王について調べるだけ調べた情報の塊だ。
「魔王の全身が委細に書き込まれているとはな……」
私達が見た魔王は帝都城に半身を埋めているものだ。
これは全身を委細に書き込んだあとがある。
前見た絵のものは抽象的な描き方……つまりデフォルメされてたんだよね。
まず特徴として大きな翼だ。
立派な脚部のほか長い尾もあるらしい。
飛ぶ時は相当に長く見えるはず。
そしてピンポイントで指摘されているのは……
「なるほど……魔王の急所か……しかし同時に強い攻撃にさらされる可能性があるらしい」
「いくつもあるな。各々潰さないと厄介そうだが……」
「さらに、中に勇者を送り込む作戦だったようですね。少しだけ弱らせた後勇者を内部に送り込み、体内から殺す……何という危険な賭け……」
リユウ指揮官長が頭を指で抑える。
確かにこれは勝てる見込みが恐ろしく低い。
普通体内に乗り込むとかやらないしそれぞれの弱点を攻めても少ししか弱体しないとかほぼ無理がある。
「だが、これがあればさらなる研究が重ねられる。もっと有用な情報はないか……?」
ウォンレイ王は再びページをめくりだす。
……実際に編成された軍。
戦場になった土地。
そして……実際の戦闘を記したもの。
パッと見えただけでも凄惨のひとことだった。
編成された精鋭部隊たちはほぼ使い捨て。
人員をすりつぶし限界まで人道を投げ捨てた非情な指揮でにどと帰らぬ道を走らせ軍事魔法も容赦なく放ち。
そして勇者たちはやっと動きを止めた3つ首から魔王の中へ侵入。
なんとか撃破をしたが勇者も精鋭たちも生きては帰らず。
凄惨の末に未来を勝ち取ったものだった。
そこに華やかな神話はない。
輝かしい美談もない。
血で血を洗う地獄が最後まで記されていただけだった。
「……スーッ……フー……」
誰かのついたため息は私達の神話の渦中からおぞましい現実へと引き戻した。
……私たちはこれに立ち向かうのだ。
勇者グレンくんが感じていた恐怖とそれでも立ち向かう勇気のすごさをやっと噛み締められる。
この植え付けられた地獄じみた絶望に立ち向かえる唯一の希望というのは間違っていないのだろう。




