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九百九十七生目 権化

 地下深くに隠された厳かな空間。

 時でも止まっていたかのようにホコリひとつない場に私達が外部者としてかき乱す。

 目的のものを手に入れに。


 大きな机。複数の椅子。

 そして書庫。

 ここにあるものは人類の切り札にして隠さねばならなかったもの。


 そしてこれから私達の未来をつなぐもの。

 ここにある大量の図書こそが打倒魔王への道のりだ。


「ようこそ反魔の図書館へ。持ち出しは厳禁だよ。そして魔物で立ち入ったのはアンタが初さ。そうそう、みな古くて外に運んだら壊れちまうからね」

「反魔の図書館……それならここにみんなを呼び込みます」

「図書館では静かに。それが守れるならなんだって良いさ、どっこいしょ」


 フルスおばあさんは手近な椅子にちんまり腰掛ける。

 とにかく急いでみんなにここへ来てもらわねば。

 連絡をして。(くう)魔法"サモンアーリー"で必要な相手たちを呼び。


 その場で緊急会議が開かれた。

 ニンゲンたち複数人にジャグナーそして私。

 みんなで書物を引っ張り出しあれでもないこれでもないと言い合っている。


 私がまず手を出したのは皇帝から受けた紙のメモに記された位置にある本。

 トゲのないイバラで"千の茨"の器用さを活かし楽々慎重に本を扱う。

 この本はとても分厚く羊皮紙あたりで書かれたいかにも古いものだ。


 中身を素早くめくってゆき中身を覚える。

 ……

 …………うん? 今のページ!


「これは……」

「どうしたローズ? 弱点でも見つけたか?」

「そうではないんだけれど……ほら」


 私が机の上に広げた書物のページ。

 そこには大きく古風な絵で描かれた壮大な神たる存在が空を優雅に飛び回る姿が描かれていた。

 地上ではあらゆる存在が祈り見上げているようだ。


「この描かれ方、おかしくない?」

「おかしい……というと?」


 私の声に覗き込んだうちのひとりから声が上がる。

 と思ったらリユウ指揮官長だった。

 私は少し前からこの方面をかじっているからなんとなくわかったが……そりゃこれはふつうわからない絵だよね。


「この文字自体は隣国のもので旧い言い回しのため慣れる必要はありますが、絵としてはこの順に見て……最後に人々が崇める力が魔王に注がれています」

「ふむ……うん? 崇めている? 恐れているのではなく?」

「おそれてはいます。ただし畏敬(いけい)のようです。これではまるで……」

「当時もいたのだろうな。カエリラスのように……いや、それ以上に狂信的な者共が。そして……その者たちのほうが正確に魔王を描いたのだろう」

「王……」


 ウォンレイ王も声を聞きここへやってきた。

 そして手に有る本を机に置く。

 これは……手記?


 開かれたページには手書きで文字が綴られている。

 これは別大陸の文字で有名なやつか……

 "言語解読"があるので大丈夫。


 開かれたページは魔王を崇拝していた言葉がつづられたあげく街でわりと大っぴらに複数のニンゲンたちが信仰していたというもの。

 蒼竜信仰の区域ではないものの別のメイン宗教となかなか対立していたらしい……


「これは……」

「明らかに異常だ。我々の世代にこのような話は残っていない。魔王は敵であり、人を滅ぼす存在とされている……実際に被害もかなりあったはずだ」


 その後も見つける文献たちは魔王を信仰していた書物たちだった。

 さらに時代後期になるにつれ激しい宗教対立に魔王の消滅そして陰惨な魔王信仰狩り……

 何よりも魔王がいなくなったあと急速に悪化していく環境への不安視も多かった。


 理由はニンゲンだ。

 魔王を二度と復活させないために今では禁じられている大幅な環境破壊に魔物への無関係なレベルまでやりぬく執念殲滅も。

 ニンゲンたちがそこでは神を……魔王を退け暴虐無道な存在に成り果てたものとして書かれていた。


 魔王は確かにニンゲンを許さず殺そうと行動していた。

 だが本を見ているとそれがまるで『世を護る正義として悪を討つ神』だ。

 魔王が暴れる前の資料もありあまりに急速に人類が開拓していっているのが見える。


 だがもちろんそれらを読んだところで魔王を良しとするわけでも倒すという決意がゆらぐわけでもない。

 なぜなら私達の世代は既に反省をした。

 対策を講じ後の世である今は自然との共存を是としている。


 それでもみんな陰鬱な表情をしていた。

 私の魔王への感想は先程の手記にも言葉で出てきた。


[彼は、この世界を守るためにいるのだろう]


 と。

 

「魔王の表に出ている文献はみんなバラバラだよなあ」

「そもそも童話本でも人間大程度に描かれるのがほとんどだしな」

「魔王の行動理由は、幼い頃聞いた話だともっと殺したいから殺したいーみたいな、まさに破壊の権化みたいな感じだったんだがな……」

「どの本でも表にあるものはみなそうだろうな……」


 重い溜息が流れる。

 もっと思考的に相容れるのが不可能な存在かと思っていた。

 邪悪の権化ではなくなんならカエリラスのような存在に利用されていい破壊装置でもない。


 逆に言えば私は魔王と話をつけられる……のか?

 いや今は余計な期待はやめよう。

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