九十五生目 入院
さらに私は自分の群れへとダチョウ型骸骨を走らせる。
一時的に私の言うことを聴くようになっているから便利だ。
辿り着いて群れのみんなへ相談する。
森の中でしか取れない素材も多い。
地の利を完全に理解しているこの森に住む魔物の方が有利なのだ。
父と母に先に相談して全て伝え乗り切るためだからと言った。
というよりこのふたりにはどうやっても隠し通せないし。
だから先に伝えそしてみんなには私が死にそうなのは伏せて欲しいとも。
「あら、それはどうしてなのですか?」
「やはり無用な混乱が起きたり心配されると群れ全体に支障をきたすので……全て終わってから安心して伝えたいのです」
「わかりました、意思は尊重します」
更には全面的に協力してくれるらしい。
もちろん群れの維持が最優先。
だがそれでも万の力を得たにも等しい。
そうして群れのみんなには私からやってほしいことを伝えた。
もちろんキングとクイーンの許可があることも。
ホエハリたちだけじゃない、ドラゴンにたぬ吉もいる。
「……ふむふむ、それらを集めたら良いんだな?」
「楽そうだが数が多いな、集めたら骸骨がもっていくんだったっけ」
「よし、みんな僕らの妹の為に、やろう!」
『おーー!!』
素直に身内扱いで張り切ってくれるのは少し照れるがありがたい。
そしてあとひとつのアテ。
「久々だな! 協力要請か」
私は雄鶏たちの群れ、キラーコッコとコッコクイーンのところへやってきていた。
コッコクイーンは前の時に協力体勢を結んである。
その後は特にこれと言った接触はなかったのだが、今回思い切って頼んでみた。
伝える内容はシンプルに命がかかっているから助けてというもの。
誰とかなんでとかは彼等には言わないでおくかわり、火急なのは明確にした。
協力してもらうほどのものだというのを理解してもらうためだ。
誰が危険かは言うと完全な私欲協力申請になってしまう。
事実はそうでも伏せたほうが良いこともある。
「ふむ、了承した。では単刀直入に言う、我々はその見返りをもらいたい」
「それは何が良いのですか?」
当然協力してもらうのだから何かを渡す必要はあるだろう。
果たして彼等が要求するのはなんなのだ……?
そこが読めない。
「我々が求める報酬、それは……訓練だ!」
「へ、訓練?」
「ああ、我々は前回の時良いように操られ全滅の危機にあった!」
コッコクイーンたちは状態異常にさせられ命令に服従させられていた。
たしかに非常に危険ではあったなぁ……
「その後我々は特訓を続けてきたものの、根本的にはまだこれといった差は生み出せていない!
そのため我々は貴君に目をつけた。かの操ってきたニンゲンを打ち破った貴君ならば、また違ったものを我々から見つけ出せると考えたのだ!」
「だから訓練を……わかりました」
彼等も生き残るために色々考えているのだろう。
問題は雄鶏たちが鳥頭だから大変そうだが……
その後は訓練はこっちの協力要請が終わってからと話し付けて早速集めに行ってもらった。
「……というわけだ、理解したな、向かえ!」
コッコクイーンの号令と共に一斉に雄鶏たちが散っていく。
動きが完全に統率されていて凄いなあ。
一糸乱れぬ動きを見送ってから私もその場を離れた。
街へつき一息ついてから九尾の屋敷へ。
一通りの協力体制が整ったのを話すと九尾は感心していた。
「お前さん、薄々思っとったがそれだけ多種多様な種族をその身ひとつでまとめあげるのは、かなり変わっとるのう」
「みたい……ですね」
「『疑似共有魂』もなしになぜそのような事が出来るのか、後々解剖でもしようかの」
「勘弁してください!?」
生き残っても死ぬじゃないか!
まあ冗談といった感じではあるが。
……冗談だよね?
さて、後は……そうだなぁ。
「残り何か手伝えることはありますか?」
「ふむ、お前さんにしか出来ないことがあるぞ」
「それは?」
「それは……」
そして私は診療所で寝かされている。
私に出来ることは、みんなを信じて後は天に任せることだった。
いや正確には……
「私の寿命を限界まで伸ばす、か……」
私は、ここにきて私という一番デカい敵と闘うハメになった。
事実上何も出来ないのがもどかしい。
目をつむり横になって少しでも自分がすり減らないように苦労する。
診療所の作業音以外何も聴こえない。
薄々感じていたが私はホエハリとなってニンゲンの頃より時間感覚が違うみたいだ。
知識上ニンゲンの時間は1日が飛ぶように過ぎ去っていく感じだった。
ホエハリとなって1時間がいつまでも長く感じる早さで流れるようになった。
そして今は。
ひたすら耐えて独特な診療所のかおりが漂う今は。
1分1秒があまりにも長い……!
私は常に動いてきた。
前世知識ではネズミとナマケモノの感じる体感時間はまったく違うという。
それは寿命が特に大きく影響しているらしい。
私のホエハリ族も元々10年ほどで大往生という種族のはずだ。
その分濃密に感じる時間をこれでもかと駆け抜けてきた。
まさに僅かな時が惜しく感じるように。
みんなを信じれないわけではない。
だけれどもコレほどまでにただ待つのがつらいとは。
なんのことでもない物音が騒音に聴こえてくる。
ああ、いけない。
むしろこんな状態では精神をすり減らしそうだ。
寝よう、寝れば時間は過ぎる。
さあ、寝るぞ!
……
…………
………………ちょっと待って今何時間過ぎた?
すごい頑張って寝ようとしたんだけれど、ええと?
「すいません、時間は……
え、まだその時間ですか?
いえ、ありがとうございました」
……看護師さんの言っていたことから計測すると数分しかたってなかった……
この街には時間概念が持ち込まれている。
間違いなく九尾のおじいさんたちのだ。
だから前世と似た感じで時間はわかるのだが……
うーん、だからこそわかる全然時間過ぎてない!
困った、寝るのがこんなに苦労するとは。
確かに私は普段はあれだけ寝たいと思っていたよ。
ゴロゴロしたいと。
でもさ、こうさ、違うじゃん?
治すために命をすり減らさないように必死に耐えるためにゴロゴロと寝たいわけじゃないんだよ。
ぬくぬくと快適環境で不安なんて無しで楽しくゴロゴロしたいんだよ。
ほうら願い叶ったろ? って言われたら思ってたのと違う! としか言えない。
しかも寝るのは強制選択。
ぬくぬくと気の向くまま遊び気の向くまま寝るのとは違う。
これは一種の地獄だ。
これらの思考遊びすらもはや時間を減らしてくれない。
かくなるうえは……
やりたくないがやりたくない。
「すいません、寝付けないので睡眠導入剤ないですか?」
あれからお医者さんとあんまり使うのは身体に負担があると説明されつつも、眠れなくて負担が増すよりかはとなんとか処方してもらえた。
そして苦い薬を飲んでしばらくたった今頃やっと眠気が来たよ。
ここまでが地獄だった……
睡眠導入剤も緩いのを入れてもらっただけだし即効性でも1時間はかかる。
これは胃腸からの吸収のやら薬の効果がある場所までたどり着くまでの関係だから仕方ない。
眠るまでの辛抱とさっきまでひたすら算数とか数学とか前世の記憶から引っ張る遊びしていた。
つらい。
ただ眠くなってきたということはこれでやっと解放される。
ああ、123の123乗の計算なんてしなくていいんだ。
こたえは……こころのなかで……
そして私は再び心のスキマにある世界へとおちていった。