九生目 転落
いつも通りスペードが狩りをしそれを私達が食べてから教育を受けてハートから自由行動を言い渡される。
さてこれからどうしようかと考える昼下がり。
スキルには種類があってスキルポイントを割り振る事でもレベルが上がるスキルと、スキルポイントではレベルが上がらないスキルがある。
そのことに観察レベルを上げようとして昔気づいた。
観察の他には無敵、光神術や光魔法はムリだった。
理由はわからないが、出来ることが増えるものは出来ない気がする。
逆に単純な能力強化である串刺しなんかはポイントで強化可能だった。
ならばポイント強化不可能のスキルは積極的に使って強くするしかない。
というわけで今日も今日とて兄弟たちと"遊び"をしよう。
そう決めて少し離れた場所に3匹で向かおうとしていた。
「敵襲ー!」
ダイヤペアの叫びが群れに響いた。
話には聞いていた。
群れは、同じホエハリ族には縄張りとして確保している土地であっても他の魔物にはその主張は通じない。
あまり積極的には狙われないがそれでもこちらを食い殺そうとする魔物はいる。
それらが襲ってくるのは特に仔どもがいる時だと。
仔そのものが足手まといになるのも要因だが何より仔どもは肉が美味いらしく執拗に狙ってくると。
ハートペアに教わった時はさすがに不安になった。
ホエハリ族は私が見る限りどちらかといえば狩る側でかなり強いのではと踏んでいた。
特にガウハリに進化したキングがいるためそう襲おうとする奴はいないと。
まさかその話を教わった後に襲撃があるなんて!
「仔どもたちは!?」
「大丈夫、確保済だ! 下がるから支援してくれ!」
駆け寄ってきたハートペアに身柄を守られダイヤペアが手早く守衛に回る。
『つまりは日常を送れるのは彼らのおかげもあるってこと。まあ今はわからないかも知れないけれどそのうちわかるよ』
そう言われたのはいつだったか。
彼らが襲撃寸前に敵を探知し数秒とは言えアドバンテージを持って敵に対して対策を取れた。
そして空中から招かねざる客は舞い降りた。
「接敵!」
「敵影多数!」
真っ先にこちらに向かって飛んで来たのは鳥のような奴らだ。
鳥のようなと言ったのは、私が知る限り鳥とは腕にあたる部分が両翼になっている。
但しこいつらは腕はあるし背中から翼が生えている。
なんて奴らだ!
[アシガラスLv.20]
真っ黒な羽根を撒き散らしながら突っ込んできたアシガラスをダイヤが直接抑え込む。
私は近くに来た奴らを片っ端から観察しつつハートに連れられ撤退。
レベルはかなりばらつきがあり下は10から上は25まで。
スペード部隊とダイヤペアがそれらに12羽群がられ……つまり倍数で攻撃されてるが意外と拮抗している。
つまりは種族としてはこちらより少し弱いのかも知れない。
いずれにせよ私が敵う相手では無いということだ。
素直に逃げる。
方向はキングとクイーンの方。
ダイヤペアはスペードと共に敵群れに対抗しジャックが私たちについてキングたちの元へ行くことになった。
「こいつら、俺らの獲物を横取りしようとした……!」
そんな言葉がスペードたちから漏れ聴こえていた。
騒ぎは大きいのでキングたちも直ぐに合流できるはずとのこと。
ぶっちゃけあの烏の群れはキングやクイーンには敵わないというのが私を含めこの場で走ってるメンバーの見解だった。
数羽こちらに飛んでくる烏ももちろんいる。
「落ちろ!」
しかしハートが身を呈して私達を隠しジャックが吠えると地面が変形して一本の鎗となって烏を串刺しにした。
一撃で貫かれた最初の烏のレベルは12、ジャックペアに比べれば確かに弱いがそれでも目を見張る威力だ。
土魔法みたいなやつなんだろうか。
数羽落としたところで今度は走る正面から巨大な烏。
「カアアアッ!!」
一声鳴いただけで私たちはともかくジャックまで一瞬怯んだ。
こいつ、絶対に強い!
[ミルガラス レベル2]
恐らくアイツらのボスだ。
鳴いた直後に雷が実体を持った剣がミルガラスの手元に現れた。
ジャックが後れをとるまいと土魔法を展開する。
しかしそれらは一刀のもと切り崩された。
電気が地面を打ち崩すなんてそんなでたらめな。
それに言葉がわからなくても分かる程度にキレている。
激しくこちらをにらみつけ剣をやたらめったら振り回してジャックペアが近づけないでいた。
スペードの話から推測するとスペードの獲物を横取りしようとしたアシガラスを撃退。
その話がボスに伝わり群れまでつけさせた後復讐兼狩りに来たという所か。
なんて執念だ。
一瞬の攻防。
ミルガラスが剣先から雷撃を放つ瞬間にジャックは土魔法で私達を覆うように展開し土に当たる。
思った通り電撃は私たちに向かって放たれた。
ジャックふたりは強いがハートと仔どもたちは弱いと見抜いたからだろう。
盛られた土壁に電気が当たった後土は砕け散った。
即座にもう一射しようとしたスキを狙ってジャックペアが飛び込んだ。
二匹同時息を合わせたタックル。
一瞬気のせいかと思ったが間違いなく背中のハリが鈍く輝き大きさが増した。
そしてそのままミルガラスを串刺し!
何本もの針が体中に突き刺さり傍目には勝負あったように見える。
腕の剣は空中に霧散した。
しかしジャックペアは針の大きさを元に戻すと同時に着地、すぐにバック。
それと同時に兄ジャックが殴りつけられた。
後退中の一撃により威力は弱まったものの悲鳴が上がるほどの威力。
「おい!大丈夫か!」
「これは……どこか折れたか……」
対するミルガラスは抜けた穴から一瞬血が噴き出たが直ぐにおさまった。
忌々しく睨みつけているがそれだけだ。
こっちは渾身の連携でちょっとしたダメージ、対して向こうは一発殴るだけで致命的。
不利すぎる。
だから私はそいつが突然取った行動は理解出来なかった。
あまりにも迫力が、恐怖が、理不尽が繰り広げられたそれに私は飲まれまるで傍観していた。
私も巻き込まれている当事者だと真に理解するのは次の瞬間。
何かに追われるかのように急に大烏がこちらへ突っ込んできた。
いや何かなんて考えるまでもなくキングとクイーンが近くまで来たのだ。
多少のダメージでも即死しかねない相手よりマシ。
その咄嗟の動きにジャックたちですらギリギリ追いつく程度だった。
背の針を光らせ屈んで針に突っ込ませる。
しかしそれらも多少の痛み覚悟で針ごと殴り跳ねる。
僅かな時を稼いだジャックたちによりハートが反応し即時回避。
イは反射的にハートについて行けたしハはハートに強引に引っ張られる。
つまりは私と大烏までの間は何もなし。
速く動くものほど私の目は正確に捉える。
だからこそ何が起こったか何をすべきかは直ぐに理解した。
最高画質の百何十フレームで撮られたスロー映像のようにくっきりしっかり見惚れるように。
そんな光景は私の目の特徴を理解すれば当然危険そのもの。
されどもこの身体はあまりに鈍く動かない。
「あ……」
動けない。
ガチガチに強張っていたことに今更気づいても手遅れだ。
突っ込んでくるダンプカーの前に私は突っ立っている。
ハートの二匹が距離的に間に合わないと判断し片側が防御を張りながら立ちふさがりもう片側が突き飛ばす。
ハート二匹が無残に殴り飛ばされ宙を舞い鈍すぎると嘲笑うように大烏は突き飛ばされた私を脚で掴まえた。
「……え?」
私があとえを言い終えるまでに全て終わっていた。
ごく僅かな時はジャックが体制を立て直す時を許さない。
綺麗なまでに見事な戦線突破からの離脱。
おまけ付。
「カァカァ!」
あっさりと上空に飛び一声鳴くと各地から烏たちがやってきた。
何羽かは今日スペードが獲ってきた物を運んでいる。
陽動と本命そしてボス自らが身体をはった時間稼ぎ。
敵わない相手がいるとわかれば即時離脱。
あまりにも頭の良い動きだ。
そして私はその大烏の脚に身動き取れないほどキツく握られている。
痛い、本当に痛い。
針を挿し込めないかと思ったが脚にまるで入らない。
普通に針ごと持たれ折られている。
痛みを確認する余裕が出来たというよりやっと私が現実に追いついた。
その時背後から石が飛んできた。
なんとか顔を向けると母がこの遠距離にもかかわらず石を弾き当てようとしている。
しかし空中戦は彼らのほうが上手。
気にする程でもないと避けられている。
しかし次に飛んできた金の鎗には驚いた。
これは……キングの背にあるものだ。
理屈はわからないがキングが背の針を取り無理矢理弾き飛ばして当てようとしている。
流石に烏はこれに慌て何匹か掠めたが速度を上げて範囲から離脱。
ああ、群れのみんなが木々に飲まれていく。
「くおおおん、くおおおおおん!」
口から出た悲しい叫びに答えたのは烏の馬鹿にしたような声のみだった。
だけどやっと現実を認めた私は抵抗を諦めなかった。
私は死にたくない!
このまま楽々と食べられたくない!
怖い!
私が殺せなくとも相手は殺しに来る。
あまりにも当たり前な事実を突きつけられた私は何にでも縋った。
僅かなスキを見つけ僅かに生き残れる道を探すために。
今、組み合わせる。
今、可能性を探す。
無敵……
無敵無敵無敵無敵無敵無敵。
無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵!
心からの祈りのように無敵を行い続ける。
大烏は少なくとも子分をやられ自身も傷つき消化不良でせめてものという思いで私を掴まえた。
ホエハリ族に対する怒りに私が僅かでも含まれているのなら。
一瞬のスキがそこに生まれてくれれば……!
無敵!
「カァ?」
わずか、そう僅かに私への拘束力が弱まってボスが間の抜けた声を出した。
祈りは届いた。
ならば実行あるのみ。
私は即ライトを発生させる。
光度最大、場所は大烏の目の前。
瞬間的に視界を焼くほどの光が瞬く。
「カァ!?」
大烏は頭が良いため何かの攻撃だと思い咄嗟に停止した。
目を閉じていた私ですら結構つらい光を受けて大烏が無事なはずはない。
慌てた動きは足元まではついていけず私は大烏からすっぽ抜けた。
まだだ、まだ彼らから十分な距離がない。
光が治まった今私が落ちているのを見つけるのは時間の問題。
だからこそのダーク!
今度は烏部隊全体を包んだ大きなもの。
いきなりの事にカアカアあちこちから声が上がる。
もはや私発見どころでは無くなった烏たちをまくことには成功したようだ。
しかし下はほどよく森があるが普通にいけば身体はバラバラになる。
だからあまりやりたくなくともやらなくちゃ。
方向は落下側から私に向けて威力は落下となるべく同程度、やや少なめに。
これが今最後の賭け。
サウンドウェーブ!!
思いっきり腹から衝撃を受ける。
とても痛いが死ぬほどじゃない。
なにより落下速度が緩んでいる!
自分自身に攻撃し続け維持しなくてはならないという拷問は森の側まで落下したことでやっと解放された。
後は。
「ぐえっ」
「うっ」
「あだっ」
ボキボキと枝が豪快に折れ私の身体を打ち支える。
最後地面近くの草むらに落ちる事で私はやっと安堵。
しかしそれと同時に痛みがやってきて意識も手放した。