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剣と魔法のクトゥルフ神話で現代譚  作者: ナイカナ・S・ガシャンナ
第一章 THE CALL OF CTHULHU
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セッション7 キャンペーンスタート4

「ふむ、では、魚鱗の軍勢の情報収集については頼姫君に一任するとして……他に議題はないかね?」

「そうだね――亜理紗ちゃん。『ダーグアオン帝国』や『大帝教会』の動きはどうなっているかな?」

「はい。……結論から言ってしまいますと、普段通りですわ。表沙汰にはならない程度に小競り合いはしながらも大きな騒動には発展せず、牽制し合っていますわね」

 この世界を分かつ勢力は大雑把に分類して三つある。

 己が崇める邪神の復活を最終目標に掲げる異形、『狂信者』。

 旧神と聖術に身を委ね、人類第一主義を叫ぶ者、『聖騎士』。

 敵対者の技術である魔術をもって対抗する人間、『魔導士』。

 勿論、この三つの勢力が単純に三つ巴しているのではない。魔導士の中でも使う魔術によって対立しているし、狂信者でさえも信仰の形態や経典から幾つもの派閥に分かれている。

 狂信者の勢力なら『ダーグアオン帝国』、聖騎士の勢力なら『大帝教会』といった組織が代表的だ。朱無市自警団は魔導士の勢力に分類される。目的の為なら敵の技術だろうが敵の種族だろうが構わず受け入れ、戦力を増強していく。それが彼らの組織の特徴だった。

 大規模な組織は自国以外にも領土を持っている。先の例に出たダーグアオン帝国なら関西、大帝教会なら東北を植民地支配している。どこも大戦時に侵略された結果だ。ダーグアオン帝国と違い、大帝教会は保護という名目を立てているが、実質的には変わらない。主義主張が違うだけで他の組織も狂信者と同様、自国の領土拡大を欲している。迂闊に近付けば、そのまま吸収されかねない。

 群雄割拠の時代だ。大小様々な勢力が入り乱れ、対峙しながら癒着して、混沌としているのが現在の世界なのだ。

「そっか。その分じゃあこっちにまで飛び火するような事態には滅多にならないかな」

「国境付近は酷い有様らしいですけどね。それが朱無市にまで影響する可能性は低いかと」

「ふぅん……それじゃあ、目下のところは魚鱗の軍勢だけに気をつけていればいい、って事になるのかな」

「そういう事になりますわね」

 いずれ解決しなければいけない問題ですが、という台詞を亜理紗は内心に留める。

 実際、現状の朱無市はかなり危険地帯にいる。関西を帝国、東北を教会に抑えられているという事は、関東にいる朱無市は挟み撃ちにされているという事だ。どちらの組織も敵である以上、どちらかに攻められた場合、どちらかに頼る事が出来ない。二組織同時に侵攻してくる場合もある。

 救いなのは、この二組織が共闘する可能性が皆無である事だ。どんな状況下でもあろうとも正しき神と人間の力以外に頼らない聖騎士と、邪神の為なら何でもする狂信者とでは相性が悪すぎる。この二つの勢力が手を組む可能性はありえない。

「これで話し合う事終わりか? んじゃ、解散だな。腹減ったなー。帰りに牛丼でも食って帰ろうぜー」

「そこで牛丼をチョイスする辺り女子力の低さが伺えるでありますね」

「何だよ、いいじゃねえか別に。ていうかお前に女子力とか言われたくねえんだよ! だったらお前は小腹が空いたときには何を食うんだ。言ってみろ!」

「……テケリ・リーメイト」

 テケリ・リーメイトとはバランス栄養食の商品名だ。四角柱状のクッキーで手軽に栄養補給出来る為忙しいときの携帯食として愛されている。チョコレート味やサラダ味があるなど種類も豊富だ。

「テケリ・リという名称に一抹どころじゃねえ不安を感じるが……それはともかく。ほら見ろ。淡白すぎんだよお前は。もっとがっつり食わねえと健康に悪いぞ」

「テケリ・リーメイトを馬鹿にすると許さないのであります」

「まあまあ、喧嘩はよろしくありませんわよ。それこそ女子力の低下を招きますわ。ていうか、多分この中で一番女子力が高いのって……」

 椅子を鳴らして立ち上がり、睨み合う二人。そんな二人を宥めつつ亜理紗が視線を向けた先には、

「……え? 何?」

 皆の視線が刀矢に集まる。

 確かに、静かな物腰や紅茶の入れ方などから見ればこの面子の中では最も女子力が高いと言えるかもしれない。少なくともがさつという単語を体現しているかのような流譜やアリエッタには望むべくもないスペックの持ち主だ。

「……副長、バリバリの男ですけどね」

「え? だから何が?」

「何でもありませんわ。…………小腹といえば副長、この後は何かありませんの? わたくし、スイーツを食べたい気分なのですけれど」

「それなら寮に帰ればケーキがあるよ。今日はショートケーキを焼いたんだ。といっても、お馴染みのスポンジケーキじゃなくて、ビスケットを土台にしたアメリカ式の奴だけど」

 刀矢の回答に亜理紗とセラと頼姫が慄いた。

「こ、これが女子力……! 悔しいですわ、悔しいですわ!」

「お菓子を作れる技術、プライスレス……! ていうか、なんでナチュラルにケーキとか返答してくるのでありますか、この人」

「多分、刀矢さんが甘党だからだと思いますねー。前にクリーム系とか好きだって言ってました。クリーム、ふふ、如何にも女子っぽい選択ですよね」

「……ねえ、流譜。何なのこの空気?」

「お前が気にする事ではない。それよりも紅茶のおかわりを頼む」

 女子力欲しい三人組が戦慄に肩を震わせる。女子力とかどうでもいい流譜とアリエッタの二人は興味なさそうに鼻を鳴らした。流譜に紅茶を注ぐ刀矢の姿がまた様になっており、それが三人組に畏怖の念を懐かせた。來霧はきょとんとした表情をし、ギルバートはニヤニヤするばかりで何も言わず、話についていけなかった刀矢は小首をかしげるばかりだった。

「…………?」

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