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剣と魔法のクトゥルフ神話で現代譚  作者: ナイカナ・S・ガシャンナ
第一章 THE CALL OF CTHULHU
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セッション5 キャンペーンスタート2

 黒卯内部、第一会議室前廊下。

「団長、只今参りました――――」

「遅いっ!」

 ノックをし、ドアを開けた直後、申し合わせたようなタイミングで刀矢の顔面に靴底が突き刺さった。油断していたところに一撃、まして肉体的には大して鍛えていない刀矢に避けられる筈もなく、直撃を受けた彼はそのまま後方の壁に激突した。

「と、刀矢先輩!?」

 來霧が慌てて刀矢に駆け寄り、セラやアリエッタの四人は刀矢を蹴り飛ばした足の持ち主を見た。踝まで届く黒髪。來霧よりも幼い容姿ながらもセーラー服を着た少女は未だ怒り収まらぬ状態で、眉を吊り上げて腰に手を当てていた。

「この私が『来い』と言ったら三分で来いと言っただろうが! それを十分も遅れて来るとは……! 刀矢! お前、寝ながら歩いていたのか!?」

「九頭竜、九頭竜。永浦、聞いてないぜ」

 アリエッタが冷静に告げる。見れば、刀矢は壁に背を預けたまま目を回していた。四肢は完全に弛緩しており、一目で気絶しているのが分かる。そんな彼の状態を見た団長こと黒髪の童女――九頭竜流譜はフンッと鼻を鳴らすと、

「何だ、だらしのない奴だな!」

「人の顔面蹴っといてその言い草は何でありますかと冷静に突っ込みを入れます」

「人が顔面蹴られてる場面に遭遇しても表情微動だにしないセラさんも異常ですよー」

「むぅっ……なんと見事な踵の入り具合……! ええい、羨ましいぞ、弟よ! 妹よ、是非私も蹴ってくれたまえ!」

「いーから黙ってろよ、クソM」

「貴方達、少しは副長の心配しませんの!?」

 会議室の中から流譜とは異なる少女の声が飛んで来た。網帝寺亜理紗。先の戦闘で黒卯の指揮を執っていた金髪縦ロール少女だ。

「お前ら何をそこで突っ立っているのだ。さっさと部屋に入るがいい。こら刀矢! いつまで寝ている! さっさと起きて茶でも入れろ! 使えない下僕め!」

「……それ間違っても僕が床で寝る原因を作った人が言っていい台詞じゃないよね?」

 意識を取り戻した刀矢が顔を手で覆いながら身を起こす。掌に隠された鼻から一筋の赤い液体が垂れていた。

「だ、大丈夫ですの? 鼻血出てますわよ」

「大丈夫、大丈夫。こんなの日常茶飯事だから」

「蹴られる事が日常茶飯事とは嫌なルーチンワークもあったものでありますね」

「我々の業界ではご褒美です」

 流譜に招かれて部屋の中へと入る六人。灰色の絨毯が敷き詰められた室内には会議テーブルとオフィス用の回転椅子が七人分並べられていた。隣の部屋には給湯室であり、会議室と直通となっている。

「……さて、茶とは言ったけど……紅茶がいいかい? それとも緑茶かな? ああ、別に額面通り茶で縛らなくてもコーヒーでもいいよ」

「紅茶がいい! 早くしろ! すぐに飲める温度でな!」

「はいはい」

 刀矢が給湯室へと向かい、他の六人は椅子へと座った。

 刀矢が紅茶を入れている間に流譜は自分の席に置いてあった紙袋からフライドチキンを取り出した。犬歯を立ててフライドチキンに噛みつき、豪快に食い千切る。咀嚼しながら流譜はふとセラの顔色が悪い事に気づいた。

「む、セラ。元気がないのか? そういうときは肉だ。肉を分けてやるぞ、ほれ」

「いえ、結構であります。今は食欲がないので。というか、なんでまだ肉を食べているのですか。二時間食べ放題で散々焼肉食べてきたのではないのですか」

「二時間では食べ足りなくてな。焼肉屋を出た後に買ったんだ」

「明らかに食べすぎと判断出来るであります。太れ」

 などと雑談をしている間に刀矢が紅茶を入れ終えてカップをトレイに乗せてきた。

 配られた紅茶に皆が口をつけ、一息。

「……うまいな」

 流譜が感想を口にした。

「私はな、刀矢の入れた茶以外は認めない事にしているのだ」

「そりゃまた狭量な事で」

「褒めてやっているのに、何だその言い草は。お前の茶が一番うまいって事なのだぞ、素直に受け取れ!」

「ですわね。私も副長の入れた紅茶大好きですのよ」

「ぼくも好きだよ!」

「……そりゃどーも」

「うむ!」

 流譜の指摘に亜理紗と來霧が続く。連続で褒められて照れたのか刀矢が頬を少し朱に染める。そんな彼を見て流譜は満足そうに頷き、他の七人はニヤニヤと意地悪そうに刀矢を見守った。

「では、皆様。そろそろ始めてもよろしいでしょうか?」

 紅茶をティーカップに置き、亜理紗が口を開く。

 彼女は居並ぶメンバーの顔を見据えた後、こう言った。

「我が朱無市の今後についてと新たなる敵への対応についてに」

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