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剣と魔法のクトゥルフ神話で現代譚  作者: ナイカナ・S・ガシャンナ
第三章 フランケンシュタインの怪物
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セッション55 デザイナーベビー3

「ぼくは……行かない。母さんの所には戻らない」

 母からの問い。諏來の誘い。

 來霧の答えは、拒絶だった。

「ぼくは、ぼくはもう生き方を決めた。人として正しく生きると決めたんだ。だから、行かない! 母さんのやっている事は間違っている! 間違っている人の下には就かない!」

 息子の拒否を受けても尚、母は表情を変えない。

 來霧の言葉は続く。

「帝国は―――大海軍は悪だ。人類と人外の敵だ。ぼくは先輩達の敵になりたくない! 悪になってまで生きていたくない!」

「――――――」

「ぼくは朱無市自警団三番隊長・浅古來霧だ! 朱無市(みんな)から離れる訳にはいかない!」

 そこまで言い切り、來霧は荒い呼吸を繰り返した。眉間に皺を寄せ、目には若干の涙を溜めている。母親相手に否定の言葉を並べるのは、如何に敵とはいえ辛いものがあったのだ。

 そんな息子の言葉を聞き終えた諏來はフッと笑いを零すと、

「馬鹿な子だね。何をもって正義とするかも定められていない癖に。これもキミの教育の賜物かな、刀矢?」

「…………さあ? でも、これで分かったでしょう。來霧君は貴方の所には行かない。貴方と戦うしかなくなった訳だ」

「ん。そーだね」

 微笑を苦笑に変え、諏來が肩を竦める。

「あーあ、ざーんねん!」

 諏來がパチンと指を鳴らす。直後、城のバルコニーから二つの人影が落ちて来た。

 一人は十代前半の童女。しかし、その身長が異常だ。ざっと見ても三メートルは確実に超えている。童女の身体比率のままで三メートルだ。容姿そのものは來霧が童女だったらこうなっていただろうという印象。

 もう一人は十代後半の少年。黒髪で外見年齢が上である事以外は、こちらも來霧にそっくりな容姿をしている。他に特徴的な箇所を挙げるとすれば、犬歯が妙に長い事と肌が病的に青白い事位か。

 刀矢と諏來との間に着地した二人は、敵意を宿した瞳で刀矢達を見据える。彼らが諏來の味方である事は明白だ。

「03! 05……!」

「03? 05? ……まさか」

「そう、そのまさかだよ。ショゴス融合兵士量産計画の生き残り。試作品の三番目と五番目さ。來霧にとっては姉や兄に当たるね」

「…………ッ!」

 來霧が顔面蒼白で息を呑む。

 來霧にとっては久々の肉親の再会だ。それが母親に続き、敵対という形になってしまった。彼の心中は如何ばかりか。

「生きていたんですね……。僕がST機関を壊滅した時、二人は既にいなくなっていたものですから、てっきり死んだものだと思っていましたが……」

「ああ、それだよ。キミが何か良くない事を企んでいるのに気付いたから、その前に二人を連れてトンズラしたんだ。まさか機関丸ごと壊してくれるとは思っていなかったけど」

「成程」

 諏來に頷きながら刀矢は星の精を指示を出す。

 敵が何をしても、いつでも迎撃出来るように。

「ちゃんと名前付けてあげたから、そっちで呼んであげて。03が巳雷(みらい)、05が磊護(らいご)だよ」

「ふむ。浅古巳雷と浅古磊護という訳か」

「そゆこと。巳雷! 磊護!」

 諏來が右腕を振り上げ、スッと下ろす。

 指差した先にいるのは己が息子・來霧だ。

「殺しちゃって。保存状態をより良くしたかったから生かしたまま連れ帰りたかったけど、死体でも、まあ、サンプルにはなるよね」

「母さん……!」

 來霧が瞠目する。

 実の母親が実の兄姉に自分を殺せと命じたのだ。動揺するのも無理からぬ話である。

「……ああ、『邪神の器』も殺しちゃっていいや。クトゥルフを崇める者達にとっては必要な存在だけど、古のものにとってはクトゥルフは怨敵だものね。ここで復活の芽を摘んでおくのも悪くないね」

「刀矢!」

 名指しされた『邪神の器』―――流譜が吼える。

 その双眸は猛々しい戦意に燃えていた。刀矢も頷く。

「ああ、もう遠慮は要らない。浅古諏來を討ち滅ぼせ、流譜! ―――來霧君」

「先輩……?」

 來霧が不安そうな目で刀矢を見る。

 その目を刀矢は真っ直ぐ見返した。

「君は僕の部下で、僕の友達で、僕の後輩だ。それは覚えておいてくれ」

「うん。……うん! 分かったよ、刀矢先輩!」

 來霧が斧槍を握る。

 迷いはある。動揺も悲しみも晴れない。

 それでも、戦おうという意志が起きた。刀矢の言葉で來霧は自分の居場所と自分のやるべき事を思い出したのだ。

「―――征くぞ!」

「はい!」

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