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剣と魔法のクトゥルフ神話で現代譚  作者: ナイカナ・S・ガシャンナ
第三章 フランケンシュタインの怪物
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セッション51 オートマタ3

「おう、お疲れさん!」

 戦闘終了後、物陰に隠れていた三護が拍手しながら出て来た。

「先生、少しは手伝って下さいよ」

「はん? おいおい、無茶言うなよ。こっちァただの保健医だぜィ?」

「よく言いますよ……」

 刀矢が溜息を吐く。

 その隣で流譜がゴミを見る目で伏した騎士達を見下していた。

「ふん。異教だの異形だの、見た途端に排撃しようとしてきおって。自律機械(オートマタ)か、こいつら」

「…………」

「ん? どうしたんだい、來霧君?」

 刀矢が來霧が寂しそうな、悲しそうな目をしている事に気付いた。

 刀矢に呼ばれ、來霧が振り返る。そして、騎士達へと目を向けた。

「刀矢先輩。……この人達、僕達の事を化け物って……敵だって……」

「ああ……彼らは聖騎士だからね。そういう反応は仕方ないんじゃないかな」

「ふん。元より我々は化け物だろうよ。こいつらの敵意なんぞ、今更気にする事ではあるまい」

「そういう訳にはいかないんだよ、流譜。お前と來霧君とじゃ考え方が違うんだから」

「ふむ?」

 流譜が首を傾げるが、保健室での会話を聞いていない彼女では、刀矢が何を言っているのか分かる筈もない。刀矢も三護もこれは來霧のプライベートだとして、説明せずに口を噤んだ。誰も何も言えず、沈黙が場に降りる。

 その沈黙を破ったのは、菖蒲だった。

「……先、進み、ましょーか……。ねっ、來霧」

「…………うん」

 菖蒲に促され、來霧が城へと足を向ける。

 刀矢と流譜も顔を見合わせ、彼の後ろを歩き出した。

 三護は伏した騎士達を心配していたが、やがて四人の後を追った。



 刀矢達がアルゲバル城まで辿り着いた時、城門の前には黒い軍服の男達が整列していた。全員が首から上が魚顔であり、純粋な人類は一人もいない。彼らが何者かなど問われるまでもない。ダーグアオン帝国大海軍の軍人達だ。

「騎士団の人は……いないね」

 來霧が周辺を見渡してそう言う。

 來霧達は城の近くにある廃屋の一つに隠れて、城の様子を伺っていた。來霧の言う通り、見える範囲に騎士の姿は一人もいない。浮浪者すら見当たらない。皆、大海軍を恐れて近付こうとしていないのだ。

「城、大海軍に乗っ取られていたのだな。道理で騎士共があんな所をうろついていた訳だ」

「戻るべき自分達の巣に戻れず、途方に暮れていた所だったって事だね」

 挙句、狂気に陥ったというオチだ。

「それで、先生の友人はどちらに?」

「城の中だ。王侯貴族の棲家にゃ御約束の、秘密の通路が幾つかある。それのどれかにいる筈だ。が、ああも軍人共がうじゃうじゃしていたんじゃ中に入れやしねェ」

 そこで、

「お前さんらはここで暴れて注意を引き付けてくれねえかィ? 大海軍を相手に戦うのは危険な仕事だとは思うが……」

「いえ、御安い御用ですよ。この程度の暴力沙汰、日常茶飯事です」

「別にそのまま城の中にまで攻め入ってしまっても構わんのだろう?」

「ははっ、まぁな。城の中にも大海軍はいるだろうし、寧ろ大歓迎だぜィ」

 三護と流譜が目を合わせ、笑う。

「では、我々が戦闘を開始した後、先生は城のどこか人気のない所から入ってくれ」

「あいよ。そんじゃ」

「……ぐっど、らっく……ですよぅ」

「応。死ぬんじゃねェぞ、お前さんら」

 三護が廃屋の裏手から出て行く。それを確認した後、

「行くぞ! 流譜、号令を!」

「総員、突撃ィィィィ――――――ッ!」

 刀矢達が大海軍目掛けて突貫した。



 アルゲバル城、門衛所。

 門衛とは守衛の内、門の出入り口に配置される者を指す。本来なら門衛所には騎士達が詰めている筈だが、城が大海軍に乗っ取られた今、騎士はいない。代わりにここにいるのは大海軍の軍人達だ。

「敵襲! 敵襲!」

 その門衛所の扉が勢いよく開かれた。入って来たのはやはり大海軍人だ。

「どうした? 敵襲だと?」

「ああ! 敵だ、敵の襲撃だ! 奴ら門の正面から来やがった!」

「落ち着け。誰が襲撃して来たんだ? 銀腕の騎士団か?」

「違う、騎士の奴らじゃねえ! あんな時代遅れの甲冑なんか着ちゃいなかった! アレは……アレは、そう! 学生服だ!」

「学生?」

「そうだ、学ランとセーラー服だ! ありゃあどこの制服だったか……?」

「学生……未成年の子供がこの城を襲撃したと言うのか?」

「未成年とかそんなん関係ねえよ! とにかく強過ぎて手に負えねえんだ! いいから増援に来てくれ!」

 入って来た軍人は興奮しており、焦燥しているのが見て分かった。

 対して門衛所の軍人達は顔を見合わせると、部屋の奥を見た。

「……どうしますか、将軍?」

 そこにはベッドで惰眠を貪る一人の人影があった。

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