セッション39 黄衣の騎士1
シャッガイからの昆虫。
昆虫に似た外見をしている為そう呼ばれているが、勿論実際には昆虫ではない。三つの口や十本の脚といった昆虫とは異なる特徴が持つ、惑星シャッガイから来訪した異星人だ。成虫は鳩程の大きさにもなり、光合成を行う事で栄養を得ている。
食事は必要としない分、彼らの生涯は悦楽の為に費やされる。退廃的な文化を持ち、しばしば他の生物を拷問しては苦痛に悶える様を見て愉悦を感じるとされている。
彼らは真の意味で物質的な存在ではなく、霊体化して人間の脳に寄生する能力を持つ。寄生し、催眠術を用いて幻覚や偽の記憶を植え付け、その人間を洗脳する事が出来るのだ。
李斜涯はその能力に特化した妖虫だ。
記憶の捏造、
五感の偽装、
思想の改竄、
行動の強制、
機械の意識。
五種のパターンを使いこなす彼は精神魔術において万能と言える。その実力は同族すらも洗脳し、自らの分身として扱う事が出来る程だ。彼がこれまで他人を支配する為に嗾けて来た妖虫は、全て彼によって道具へと洗脳された同胞だった訳である。
同胞を媒介にした催眠術『妖虫憑き』の使い手。
催眠術のスペシャリスト――それが『脳蝕み』の由来だ。
催眠術以外にも、同胞を介すれば精神感応も可能だ。
彼に即座に操れない者は、彼と同等の精神魔術を修めた者か、発狂して手が付けられなくなった者だけだ。精神魔術の修得者は自身が操られない方法を無意識の内に心得ているものだ。流譜は洗脳レベルの精神感応魔術を使える為、刀矢は発狂済みである為、彼の催眠術を退けられた。
しかし、それもあくまで即座にはという話である。
時間さえ掛ければ流譜も刀矢も洗脳可能だ。如何なる相手だろうと自身の技術を通用させるからこそのスペシャリストである。
とはいえ、今は戦闘中。時間を掛けて洗脳している暇はない。
即座に洗脳出来ない相手を斜涯はどうするか。
その答えは、これからすぐに分かる――――




