セッション2 大SAN事世界大戦後の世界観2
セラの猛攻を逃れた――否、セラに無視された戦闘機の二機が黒卯へと接近する。対する黒卯は揃いの制服を着た数人の青年が甲板に立ち、バズーカ砲を構えた。
青年ら――朱無市自警団の団員達が戦闘機に向けてバズーカ砲の引き金を引く。魔術が組み込まれた似非近代兵器『サセックス砲』は砲弾を射出する火薬だけではなく、砲弾そのものまで魔力で代用している。魔力を一個の塊に超々高密度圧縮し、砲弾とする魔術兵装だ。砲弾を発射すると同時に後部の術式機械が大気中の魔力を吸引し、自動的に次弾を形成する。実物の弾丸を撃つ大砲よりも値段が張るが、大気中に魔力がある限り弾切れの心配がないのが利点だ。
次々と火を噴く『サセックス砲』。だが、相手とて動かぬ的ではない。ましてや空中を高速移動する戦闘機だ。二機の戦闘機は二転三転とターンを決め、砲弾を回避した。四機目がそのまま黒卯へと肉薄し、甲板の乗員に機関銃を叩き込む。
「うわぁあああああああああああああああああああああああっ!」
甲板に乗員の悲鳴が響く。咄嗟に頭を抱えて甲板に伏せるが、何人かが銃弾にその身を穿たれた。生き残った乗員が被弾した乗員を艦内に退避させようとするが、戦闘機を相手にその動きはあまりに遅い。続く五機目がミサイルを放った。
間に合わない。被弾した乗員も彼らを退避させようとする乗員も白煙を上げて迫るミサイルを前に身を構える事すら出来ない。このまま為す術なく甲板ごと吹き飛ばされると思われたが――
『私に任せろ!』
スピーカーから青年の声が甲板に響く。と同時に船首から膨大な光が噴出した。
『「戦女神の盾」!』
光はドーム状の膜となって艦を丸ごと覆う。ミサイルが光の膜に直撃し、爆発する。爆発のエネルギーが大気を揺るがす。だが、それは乗員達には届いていなかった。膜が完全に爆発の威力を遮断し、乗員達を守ったのだ。
『おおう、痛みがぁっ……爆撃の衝撃がっ……体の芯にまで響いてぇっ……だが、それがいいっ!』
「放送で気色悪いこと言ってんじゃねえよドMが! オレの耳腐らせる気か!」
スピーカーの向こうで歓喜の声を上げる青年に乗員の一人が怒鳴る。亜理紗やセラとお揃いのセーラー服を着た少女の左腕には「朱無市自警団一番隊長 アリエッタ・ウェイトリー」と書かれた腕章があった。腰にはセラと同じハードカバーが下げられている。
「だが、よくやった!」
上空の強風に金色のポニーテールがなびかせながら、アリエッタは上空を見据えた。視線の先には再び銃弾の雨を降らせようと旋回する四機目の戦闘機がいる。
「よくもオレの部下に手ぇ出してくれやがったな。借りは即時返済してやるぜ。――おい、マーシュ! てめえ、分かってんよな!?」
『当然だ。君が撃つと同時に「戦女神の盾」を解除しろと言うのだろう? それまでは私が君を守るから、安心して集中したまえ』
「礼を言うぜ!」
スピーカーからの声――マーシュと呼ばれた青年と言葉を交わしつつアリエッタは武器を構える。彼女が持っていたのはバズーカでもなければピストルでもない。弓矢という旧時代の武器だ。戦闘機と撃ち合うのにはあまりに不釣り合いな武器だが、そんな彼女に待ったの声を掛ける者はいない。
矢を弦に番え、弓を引き絞る。四機目の戦闘機は既に旋回を終え、真っ直ぐにこちらへと飛んできていた。研ぎ澄まされた神経が体感時間を何倍にも引き延ばす。
戦闘機が機関銃を乱射する。が、魔力を注ぎ込まれた光の膜は強靭な弾力性を持ち、衝撃を分散させる。威力を失った弾丸は光の膜に弾かれ、アリエッタに到達しない。激しい弾雨とは裏腹に彼女は敵影を静かに見据える。
「――――ここだっ!」
集中力が臨界まで高まった瞬間、アリエッタの指が矢から離れた。同時、矢の妨げとならないよう膜に穴が開く。矢は膜の穴を潜り抜け、空を一直線に貫き――四機目の戦闘機に命中した。見事な直撃だった。交差するように入った矢は矢にはありえざる威力で戦闘機の胴部を穿ち、戦闘機を真っ二つにへし折った。燃料に引火したのか機体は爆発を起こし、残骸と化して重力に引っ張られるままに大地へと落下していく。
「いよっし! 絶好調!」
「隊長、隊長! 満足すんのはまだ早いです! 五機目来てます!」
「おおっと」
乗員の言う通り五機目の戦闘機が黒卯に機関銃を向けていた。銃声が連続する。アリエッタ達が甲板に伏せると同時に光の膜が再度張られる。
『ああっ、いいっ……っ!』
「だから気色悪い声出すなっつってんだろーが!」
光の膜が銃弾と受け止めると同時にマーシュの嬌声が響いた。どうやら逃がしたダメージの一部が艦内にいるマーシュ青年に伝わっているようだった。