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セッション28 生ける火器2

 私立ミスカトニック極東大学付属図書館。

「あれ、來霧くんじゃないか。何を探してるんだい?」

「あ、刀矢先輩」

 永浦刀矢は後輩の少年・浅古來霧と鉢合わせしていた。

「レポートを書くのに使う資料を探してて……刀矢先輩は?」

「勉強。人の上に立つ人間が成績不振じゃ示しが付かないからね。次の定期テストである程度の得点は取っておかなきゃいけないのさ」

「テストって……この間、校舎が壊れたのに? そんな事してる余裕あるの?」

 刀矢が通う私立ミスカトニック極東大学付属高校――略してミス高――は、四月に行われた戦闘でほぼ全壊している。テストどころか、とても授業が受けられる状態ではなかった筈だが……。

「今は大学の方で授業を受けさせて貰っているからね、テストを行うのも仔細無いよ。学生にとっては悲惨な話だけど。ミス高の校舎は今、捕虜にした魚鱗の軍勢や食屍鬼達に修復させているから、その内また通える事になると思う」

「そうなんだ。捕虜になった人達の扱い、どうなるんだろうって思ってたけど……」

 ともあれ、勉学については問題ないようだ。

「流譜にも図書館に来るように言ったんだけど、逃げられちゃってね……あの馬鹿娘、本当に勉強大っ嫌いだな」

「ああ、だから流譜先輩いないんだ。いつも一緒なのに」

「僕と彼女は違う人間だからね。違うんだから一緒にいない時だってあるさ」

「そうかなあ……? でも、護衛いなくて大丈夫なの? 先輩、一人じゃ弱っちいのに」

「はっはっは、喧嘩売ってるのはこの口かな? 面白いね」

 刀矢が來霧の頬を抓る。

 刀矢は線が細く、一見すると中学生に見える。そんな刀矢が現役中学生である來霧と並ぶとどちらが年上なのか分からなくなり、中学生同士がじゃれているようにしか見えない。幸い、刀矢は朱無市内では有名人である為、実際に中学生に間違われた事はないのだが。

 それはさておき。

「それで、宿題に必要な資料って何かな? 探すの手伝ってあげようか?」

「えっ、いいの?」

「いいんだよ。一人で勉強しててもつまらないしね。気分転換さ」

 もちろん、宿題そのものは自分でやるんだよ、と刀矢は釘を刺す。

「ありがとう! 探しているのは属性と神との相関関係についての資料で」

「属性か……」

 それならあっちの本棚だね、と刀矢が先行して案内する。來霧もその後に続いた。

「属性については、それだけ知ってるの?」

「うん、えっと……まずは基本の四大元素だよね」

「四大元素――地水火風だね」

 四大元素とは、世界を構成している物質の源の事だ。地・水・火・風の四つがあり、この四つが組み合わさって物質は存在している。化学が常識となってからはオカルトとして評価されなくなっていたが、魔術が跋扈する対神大戦以降は見直される事になった。

「地は水を濁らせ、水は火を消し、火は風に煽られ勢いを増し、風は地を渇かす。僕達の肉体を構成するものは相変わらず化学の元素だけど、魔法で作られたものは四大元素で構成されている。聖剣魔剣の類や、ホムンクルスなんかだね。元素はそれぞれ属性に通じ、地属性、水属性、火属性、風属性の四つが魔法には定められている」

「うん、知ってる。セラ先輩が火属性と風属性が得意なんだよね」

「そう、彼女はクトゥグァとハスターを信仰しているからね」

 魔術を習得する方法の一つとして、その属性を司る神を信仰する方法がある。

 地属性――大地魔術はツァトゥグァ、

 水属性――流水魔術はダゴン、

 火属性――火炎魔術はクトゥグァ、

 風属性――疾風魔術はハスター、といった神々が代表的だ。無論、他にもその属性を扱える神もいるが、地球人が信仰出来る程身近で、かつ信仰に対して恩恵で応えてくれる神々となると大体この辺りとなる。

「四大属性以外にも属性はある。氷とか雷といった属性だ。他にも、概念系といったレアな属性もある。誰の事か、分かるかい?」

「アリエッタ先輩でしょ? 先輩の魔剣は時空系だもん」

 氷属性や雷属性は派生属性と呼ばれる特殊な属性だ。四大属性を基点とし、氷属性は水の元素、雷属性は風の元素の派生である。氷属性は氷結魔術、雷属性は迅雷魔術に通ずる。

 また、四大元素に属さない概念系と呼ばれる魔術もある。時空や次元、生命や腐敗といった概念そのものを操る魔術だ。この魔術は『外なる神』と呼ばれる神々の中でも上位のものを信仰する事で習得出来る。

 アリエッタ・ウェイトリーが使用する概念魔術「時空」を管理しているのは、ヨグ=ソトースという名の外なる神だ。

「神々と言えば、この辺りではどういう神々が信仰されているか知っているかい? 足柄山では何の信仰が盛んだとか、遠野では何を国教としているかとか」

「んーっと……何だったっけ。それって大事なの?」

「大事さ。どこの土地で何が信仰されているかを知っていれば、その土地の出身者が何の属性を専門としているかが大体分かるからね」

 人間も人外も基本的には自分が生まれ育った土地の神を信仰する。例外はいるが、宗教とはそういうものだと刀矢は考えている。それ故、出身地を把握していれば、概ねその者の使用する魔術の傾向と対策が取れる。

「じゃあ、旧群馬県はどうかな? 隣の県だし、知ってるよね?」

「あ、それなら分かるよ。山岳連邦のだよね。確か――」

「――あの、よろしいですの?」

 來霧が刀矢の問いの応えようとしたその時、それを遮る者が現れた。

 網帝寺亜理紗だ。

「ん? 亜理紗ちゃんか。どうしたのさ? 生徒会の仕事はもう終わったのかい?」

「いや、それは……『会長はいつもいないから、今更いても意味がないので先に帰ってて下さい』と……い、いくら普段は自警団の仕事で生徒会の仕事してないからって、邪魔者扱いしなくとも……! わたくし、生徒会長なのに……い、いえ! それはともかくですわ!」

 こほん、と亜理紗は咳払いをすると、

「実は、少し厄介な事になりまして……一緒に来て頂けます?」

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