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セッション27 生ける火器1

 二〇XX年五月一〇日、朱無(あかむ)市。

 セラ・シュリュズベリィはガンショップの前にいた。

 彼女は銃使い(ガンナー)だ。銃で攻撃すれば当然、弾丸は消費する――銃身で殴るといった攻撃方法を選びでもしない限り。ガンショップ『GUNGUNいこうZ』は弾丸の補充に彼女が愛顧している店なのだが、今回は別の目的があった。

 新しい銃の購入である。

 セラは銃使いの魔導士だ。故に考え方の根本として、何かあれば魔術でどうにかすればいいというのがある。だが、先月、魔術自体を無効化する敵との戦いがあった。基本的に魔術頼りの戦術で戦ってきたセラにとってそれは、拳法家が腕を封じて戦うようなものであり、多大な苦戦を強いられた。

 だから、新しい銃なのだ。魔術などなくとも高威力を発揮出来る銃が欲しかった。そう思って彼女は行きつけのガンショップで新銃の購入を検討した。だが、

「……良いのがないであります」

 彼女の御眼鏡に適う物はなかった。

 欲しいのは魔術に匹敵する火器だ。しかし、魔導士として高位にいるセラにはどのような火器でも物足りない。携帯性を考慮しなければ、それなりにいいのもあるが、常に持ち運び出来るようでなければ、いざという時に使えない。

 故に、彼女は困っていた。このままガンショップの前にいても意味はない事を分かっていながら、次の当てがない為どこにも行けない。無表情な眉を僅かに寄せる。

「……やっぱり魔術でごり押ししていくべきでありますか。魔術自体を無効化するといっても限度がありますし、キャパシティを超える魔力を注げば攻撃を通す事も可能であります。しかし、その場合、魔力(コスト)がかかりすぎるのが問題であります……」

 いっそRPG-7でも装備するか。火の邪神(クトゥグァ)の加護を詰めれば相当な火力になる筈だが……いや、流石に携帯用とはいえ対戦車兵器は小回りが利かない。普段から楽に持ち歩けるものでなければいざという時に使えないか……。

 とりあえず、手榴弾を買っておいた。これに魔術を施せばそれなりの威力になる筈だ。

 と往来で手榴弾を取り出すという危険な真似をするセラに、

「申し、そこの方。すまないで御座る」

 と声を掛ける者がいた。

 目を向けると、そこには一人の男性が立っていた。

 異様な男だ。何よりもまず目を引くのは、その鎧姿だ。セラの仲間にも鎧を装備している者がいるが、それとは違う。目の前のこの男性が纏っているのは和鎧だ。武士の鎧と言えば分かりやすいか。鮮やかな紅色をした、芸術的価値が高そうな和鎧だ。

 黒髪のポニーテールをしているだの、美少年と言っていい容貌をしているだのという事は和鎧を装備しているという事に比べれば微々たる衝撃だった。何故この男はこんな妙な恰好をしているのだろうと気になって仕方ない。

「はい、何でありますか?」

 とはいえ、言及する程でもないと思ったセラは、表情一つ変えずに彼に応対した。

「銘菓・朱蒸し饅頭はどこで買えるで御座るか?」

 朱蒸し饅頭は、朱無市(・・)蒸し(・・)饅頭の駄洒落から生まれた朱無市の名物菓子だ。皮が朱色である事は以外は普通のこし餡の饅頭なのだが、分かりやすいネーミングが受けているのか、土産に買っていく人が多い。

「朱蒸しでありますか。それなら朱無駅を越えて真っ直ぐ行った先にあるであります」

「おお、そうで御座るか。感謝するで御座る。いやはや、主君に買って来るように言われたので御座るか、やはり知らぬ土地故、迷ってしまってなあ」

「はあ……」

 御座る語尾とは変な口調で話すなあと、セラは自分を棚に上げて思った。

「もう一つ聞きたい事があるので御座るか、よいで御座るか?」

「どうぞ」

「朱無市自警団の隊長格――アリエッタ・ウェイトリー、セラ・シュリュズベリィ、浅古來霧、ギルバート・マーシュのどなたでもよいのだが……どこにいるのか御存知なかろうか?」

「!」

 自分や仲間達を探しているという男にセラは警戒心を懐く。

 この男、他国からのスパイだろうか。いや、スパイならこんな簡単に自分が探している人物を漏らしたりはしないか。しかし、だとすると、どういう意図でこの男は自分達を探しているのか。敵か味方か、あるいはどちらもでないのか。

 下手に誤魔化す方が後々面倒臭い事になりそうだったので、セラは正直に答える事にした――コートの内側に手を伸ばしながら。しなやかな指先が掴むのは硬いグリップだ。

「……セラ・シュリュズベリィなら自分でありますが」

「なんと。そなたがあの『双頭狂犬』セラ殿で御座ったか。これは奇遇な」

「その二つ名、好きじゃないのでありますよね……犬扱いされるのは心外であります」

「む。いやはやこれは失礼」

 少年は素直に謝罪する。その様からは邪気や敵意などは感じられないが、セラは警戒心を緩めなかった。

「では、セラ殿。ああいや、まずは自己紹介が先で御座るな」

「はあ」

「拙者、『山岳連邦』連邦軍所属、造田空亜(ぞうだくうあ)と申す。以後お見知りおきを」

「はあ」

「朱無市自警団二番隊隊長、セラ・シュリュズベリィ殿に決闘を申し込ませて頂く!」

「はあ。……は?」

 空亜と名乗った少年は腰に帯びた鞘から日本刀を抜くと、上段に構えた。セラが困惑の態度を示すが、空亜は一向に構わずセラへと斬り掛かる。

「――覚悟!」

「こっちの返答は聞かないでありますか」

 セラはコートから取り出した自動式拳銃(オートマチック)の銃口を少年の眉間に合わせ、躊躇なく引き金を絞った。

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