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プロローグ2 名状し難き出生

 私が生まれた時、私は人間じゃなかった。

 私は物だった。それも、失敗作としての物だった。


 瀬良榎(せらえのき)蘇生計画。

 瀬良榎の両親が、故人である娘を蘇生させようとして始めた計画。魔導士でもあった瀬良夫妻が持てる知識を総動員して行った研究。血を血で洗う実験。生命の冒涜、死への反逆。その計画の一環で私は――私達は作られた。

 しかし、失敗した。容姿は同一のモノが出来たが、中身が届かなかった。私達は瀬良榎の記憶を受け継ぐ事は出来なかった。

 落胆した研究者達は、ある程度のデータを取った後、私達を廃棄する事にした。作られたばかりで自我に乏しかった私は、そんなものかと死を受け入れた。

 しかし、死ななかった。廃棄される直前、ある人物が私達を欲しがったからだ。

 その人物は自分を帝国大海軍の幹部と名乗った。瀬良家は、実は彼の英雄ラバン・シュリュズベリィの血統因子を保有しており、その末裔のコピーである私達はそれなりに価値があるとの事だった。彼は私達を購入し、私達はある場所に連れていかれた。

 ST機関。大海軍傘下の魔法研究組織。

 そこでは、瀬良夫妻が行っていた程度など児戯だったと嘲笑うかのように、非人道的な研究の数々が行われていた。大戦を勝ち抜く為、邪神を復活させる為、彼らは日夜、自他の命を消費していた。人間も異形も区別なく殺していく。血を血で洗い、肉を肉で拭い、骨を骨で掃う実験。道徳への冒涜、知識欲の反逆。


 私は物ではなくなった。でも、まだ人間ではなかった。

 動物――被験体(モルモット)だった。


 そんな実験動物として苦痛と悲鳴に塗れる日々を送っていたある日、私は彼に出会った。

 彼もまた実験動物としてこの施設に囚われている身だった。しかし、如何なる手練手管を用いたのか、彼はある程度施設内を自由に歩けるようだった。

 彼はある目的の為に仲間を集めているようだった。

 幾つか言葉を交わした後、彼はこう言った。

「成程……何の為に生きたらいいか分からない、か。目的もなく生きているから、目的のある僕の仲間にはなれないと。また哲学的な問題だな、面白いね」

 彼は暫し悩んだ後、こう提案した。

「だったら、僕が君に生きる理由を与えよう。僕が君の主となり、君を従者(にんげん)として扱おう。いつか君が、君自身に命令を下せるようになる日まで」

 何という傲慢。何という上から目線か。問題の解決を主人になる事で解決しようとは。

 ……ああ、でも、それこそが欲しかったのだ。

 失敗作として生まれた故に存在理由を持てなかった私に、存在理由を与えてくれる上位者が現れるのを待っていた。実験動物として生きる私に、人間として生きる資格を与えてくれる人間が現れるのをずっと待っていたのだ。


 その日、私は人間になった。


 だから、私は――自分は、あの人の為に戦うのであります。

 他ならぬ自分自身の為に、あの人の力となるのであります。




 発狂内容が〈偏執病〉に決定しました。主を仕える事に執着し、自らが騎士であるように振舞います。ダイスを振って狂気でいる期間を決めて下さい。

 期間後、騎士のロールを継続するかはプレイヤーの自由とします。

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